選抜高校野球2025(春のセンバツ甲子園)、MLB、日本プロ野球が相次いで開幕。野球の季節がやってきました。野球の面白さと奥深さに触れる本を、フリーアナウンサーで、野球ピラティスインストラクターの市川いずみさんが紹介します。2回目はプロフェッショナルの強さを支える本です。
1回目 「市川いずみ 高校野球と甲子園の魅力に引き込まれる本」 から読む私は読書が好きで、取材で出会った方や、この人すてきだな、話が面白いなと思う方にお薦めの本を尋ねることがよくあります。子どもが生まれる前は頻繁に書店に足を運んでいました。インターネット書店では検索したキーワードに関連する本や、購入履歴に基づくお薦め本しか表示されず、読書の幅が狭くなりがちです。しかし、書店ではさまざまな棚を見て歩くことで、店員さん手作りのPOPや平台に並べられた本が自然と目に入ります。気になったものを手に取って読んでみると、思わぬ出合いがあり、自分自身のアンテナも広がります。
読む本のジャンルはさまざまで、小説は、ストーリーに引き込まれていく楽しさに加えて、多様な表現に触れることができるのが魅力。比喩や行間を読む表現、その先にあるものを想像させる文章がふんだんにあるので、自分がしゃべったり書いたりする表現を学ぶという意味でも、とても勉強になっています。
一時期は、ビジネス書を集中的に読んでいました。地方局のアナウンサーからキャリアをスタートし、その後フリーアナウンサーとして活動してきましたが、マスコミの世界しか知りませんでした。これから自分が人間的に成長するための思考法を学びたいと思ったのです。
そのときに感じたのは、どんな世界でもプロとして生きていくためには、自分を律する厳しさと逆境にも負けない強さが必要ということでした。今回は、プロの世界で、その強さを支えるものを読み解く3冊を紹介します。
強靭な体はセルフマネジメントのたまもの
『明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック』鳥谷敬著、集英社
プロ野球歴代2位の1939試合連続出場を果たした鳥谷敬さんの著書。何冊も著書をお持ちですが、引退後間もなく出されたこの本は、ビジネス書のコーナーに平積みしてほしいと思った1冊です。
「40歳まで遊撃手を守る」「試合に出続ける」という目標を持ち、「常に終わりを意識してプロ野球人生を送っていた」という鳥谷さんの、引退の決め方、感情のコントロール、監督との向き合い方、物事の受け止め方などのセルフマネジメントがとても勉強になります。プロ野球選手という個人事業主として、どう価値を高め責任を果たすのか、立場が変わっていったときにどう向き合ったのか、自分の選択を正解に導いていく鳥谷さんのような生き方をしたいと思いました。ビジネスパーソンの方にもお薦めの1冊です。
引退してからも仕事でご一緒することが多いのですが、現役時代の寡黙なイメージとは裏腹に、トークが上手で話の引き出しが豊富な方です。そして何より、私が知る中で最も「当たり前のレベル」が高い。例えば現役引退後もほぼ毎日10km走る。それが当たり前だからむしろ走らない日が特別に思えるそうです。子どもは絶対に親の姿を見ているから、何かをコツコツ続ける姿を背中で教えられたらいいと。そうした鳥谷さんの考え方も、同じ親として尊敬しています。
タフな心と体が育った場所
『中南米野球はなぜ強いのか ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本』 中島大輔著、亜紀書房
中日ドラゴンズの根尾昂選手は高校時代から読書家で知られています。彼が高校2年生の時に、最近読んで面白かった本として挙げてくれたのが、この本です。実際読んでみて、ぐいぐい引き込まれました。
著者は、なぜ中南米から優秀な野球選手が続々と誕生しているのかを解明するために、2013年から4年越しで中南米4カ国の野球事情を取材。元中日の監督にして海外渉外担当だった森繁和さんや、アレックス・ラミレス元DeNA監督のインタビューからも分かるのは、中南米諸国で生まれた少年たちにとって、野球選手になることが、貧困から脱出するための数少ない手段の一つであること。
貧困家庭では教育を受ける環境になく、児童労働も多いドミニカ共和国、社会主義国の厳しい現実にもう祖国に帰れなくてもいいと亡命するキューバの選手、警察や司法が腐敗、ギャングが横行し、国家が崩壊しかねないベネズエラは命があって野球をすることができているだけでいいと思えるほどの状況です。著者の中島大輔さんには何回かお会いしたことがありますが、ベネズエラのスラム・バリオも訪れ、本当に命懸けで行って書かれた本です。
陽気なラティーノたちのお国柄を知る野球紀行としても面白く、野球の才能を育てようとするそれぞれの国での育成システム、プレースタイルの違いなども知ることができます。野球好きな方だけでなく、各チームでプレーする選手やスタッフも読んでいただけたらいいのではないかと思います。
海外の選手に対する認識が新たになりますし、私たちは外国人選手を“助っ人”とひとくくりにしがちですが、それぞれの選手が育った背景を知ることで、日本の若い選手と同じように、応援できるのではないかと思います。中南米出身の選手が圧倒的に多いMLBファンの方もぜひ。
強く柔軟な体を手に入れるために
『野球ピラティス』市川いずみ著、金岡恒治監修、ベースボール・マガジン社
最後は自著で恐縮ですが、「野球のケガ予防とパフォーマンス向上に役立つ究極のピラティス・エクササイズ」という副題を付けています。
私がピラティス・トレーナーを志したのは阪神タイガースの取材がきっかけでした。アナウンサーとして取材にたびたび訪れていたのですが、気になっていたのはケガの治療をしている選手たち。「野球選手のケガを減らしたい」という思いを抱くようになりました。腰痛改善のためにピラティスに通って症状がなくなった自分の経験から、調べてみると、アメリカではメジャーリーグを含めた4大スポーツでエクササイズとして取り入れられていました。
早稲田大学大学院に進学し「野球選手の障害に対するピラティスの効果」を研究しました。小宮山悟監督はじめ早稲田大学野球部のみなさんに協力していただいて、障害調査やピラティス介入調査など3年間にわたってデータ収集を行い検証しました。本では、野球に関する障害やピラティスの効果に関するデータも紹介しています。
紹介しているエクササイズは、阪神タイガースをはじめとするプロ野球選手やサポートしている甲子園出場校、小学生の野球チームで行っているもの。特別な器具を使うことなく、子どもから大人まで取り組めます。いいグラブやバット、スパイク以上に、体は一番大切な道具。腰や肩、肘への負担が少ない正しい体の使い方を覚えて、ケガがない強く柔軟な体を整えていただけたらと思います。
取材・文/中城邦子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/太田未来子




