2016年4月、生まれたばかりの“3人”の子猫を引き取った産婦人科医の高尾美穂さん。それから9年。猫と暮らす幸せな日々と、取材の少し前に“3人”から“2人”になってしまった猫たちのことを大きな喪失感を抱えながらも語ってくれました。日経WOMAN別冊「 猫と幸せに暮らすのリアル 」より抜粋、再構成して掲載します。
保護された妊娠中の母猫から生まれたきょうだい
日経WOMAN編集部 高尾さんの飼っている“3人”の猫はきょうだいだそうですね。
高尾美穂さん(以下、高尾) そうなんです。黒猫の銀ちゃんは男の子、双子のようにそっくりなきーちゃんとななちゃんは女の子。9年前に生まれた、きょうだいです。
編集部 どのような経緯で、高尾さんの家にやってきたのですか?
高尾 保護活動をしている友人のお母さんが妊娠中の猫を保護して、「これから生まれる子猫たちの里親を探している」と連絡を受けました。ペット飼育可のマンションに住んでいましたし、特に猫とは決めていませんでしたが、動物とのご縁があればいつでも迎えたいと思っていたので譲り受けることにしました。
編集部 生まれたばかりの子猫を“3人”同時に迎えるのは、決心がいりませんでしたか?
高尾 実家で犬や猫を飼っていたので、それほど大変なことだとは感じませんでした。最初は2人を譲り受ける予定だったんです。ところが、保護した母猫が想定より多くの子猫を出産したことで1人増えて。他の里親さんを見つけることもできたでしょうけれど、きょうだいは一緒のほうがいいかなと思って3人まとめて引き取りました。
予測不能な猫の行動に悩みから解放される瞬間
編集部 猫と暮らし始めて、高尾さん自身には、どんな変化がありましたか?
高尾 猫たちに会いたくて「早く家に帰りたい」と思うことが格段に増えました。早く帰宅すると必然的に早く寝られて、猫のおかげで健康的な気がします。あと、至るところに猫の毛が付いたり落ちたりするので、掃除や洗濯の頻度が上がりました。猫はきれい好きな動物なので、猫のためにもなっていたらいいなと思いながら掃除しています。
編集部 猫と暮らしていて、どんなときに幸せを感じますか?
高尾 自分ではない予測不能な他者(=猫)ですから、自分だったら絶対にしないようなことをするわけです。浴槽の淵を歩いて足を滑らせたり、テーブルの上のコップを躊躇(ちゅうちょ)なく落としたり、人が大切にしている靴の上に嘔吐したり(笑)。そんな予測不能な猫の行動によって、ごちゃごちゃと悩んでいたことから一気に引きはがされること、猫の粗相の始末にかかりきりになる瞬間が日常的にあって。それが救いになったりするんですよ。自分ではない誰か、しかもちょっと手がかかって、かわいいと思える家族がいるのは最高です。
編集部 悩んでいる場合じゃない状況をつくってくれるのですね(笑)。
高尾 そうなんです。それに、猫に向かって話しかけるようにして、ひとり言が増えました。どんな気持ちも言葉にすることで心が整理されていきます。猫が聞いてくれていると思えば、「話せてよかった」といった満足感があり、次に進めたりもして。人と違っていまいちな反応も返ってこないから(笑)、本当にありがたいです。

たくさんの思い出を残してお空に行った銀ちゃん
編集部 2カ月前に、銀ちゃんが亡くなったと聞きました。
高尾 はい。家族同然の存在を直接看取るのが初めてだったということもあり、本当にショックが大きかったです。9月下旬、食いしん坊の銀ちゃんがごはんを食べないから変だなと思い、急いで病院へ連れて行くと、肺に水がたまっていて深刻な状態だと聞かされました。その後は、すぐたまってしまう肺の水を抜くために2日と空けずに通院しましたが、最初に病院に連れて行ってから21日目に亡くなってしまいました。
編集部 銀ちゃんの急変や旅立ちに際して、きーちゃんとななちゃんの様子はいかがでしたか?
高尾 きーちゃんとななちゃんは、私よりももっと先に、銀ちゃんの異変に気づいていたのかもしれません。いつも銀ちゃんと一緒に寝ていたきーちゃんが一緒に寝なくなったから。銀ちゃんの呼吸がいつもとは違って苦しそうだからそうしたのか、動物の本能で、命が終わっていくときは、そっと静かにしておいてあげようと思ってそうしたのかは分かりませんが、なんだか切なかったですね。
今も近くに感じる銀ちゃんの気配やかわいさ
高尾 銀ちゃんが亡くなって2カ月がたち、最近は「今、銀ちゃん、ここにいるんじゃないかな?」と思うことがよくあります。見えない銀ちゃんの存在をふと感じるんです。猫同士なら見えるのかもと、ななときーに「銀ちゃんいるよね?」と聞いてみることも。日当たりのいい窓辺に、段ボール製の爪とぎベッドを3つ置いているのですが、右がななちゃん、左がきーちゃん、真ん中が銀ちゃんと、誰が教えたわけでもないのに、自然とその並びが決まっていて、よく3人で並んで寝ていたんです。銀ちゃんがいなくなってからも、ずっと真ん中だけが空けてあって、左右にななときーが寝ている。きっと銀ちゃんが真ん中で寝ているんだろうなって。
まだしばらくは、黒いモフモフしたものを見ると「銀ちゃん?」となるでしょうね。黒いカーディガンが丸まっていたりしたら、もうそれは銀ちゃんにしか見えません(笑)。でも、おかげさまで、ななときーがいてくれるし、心配して訪ねてくれる友人たちがいて、集中して取り組むべき仕事がたくさんある。とても救われました。
帰宅前のルーティンと帰宅後のルーティン
編集部 猫とのコミュニケーションにおけるルーティンはありますか?
高尾 朝、家を出るとき、猫たちがどこにいるか確認してから出かけるようにしています。脱走できるような場所はないのですが念のため、といった感じで習慣に。ななは私の近くをうろちょろしていることが多いのですが、きーちゃんがどこを探しても見つからないことがあって。
編集部 そういうときはどこにいるのですか?
高尾 クローゼットの中の棚に服を畳んで置いていますが、その棚と服の隙間にいたりします。呼んでも鳴いて返事をしてくれるわけではないので探すのもひと苦労。2人の顔を見てホッとしてから出かけるのが朝のルーティンです。朝は雲隠れするきーちゃんですが、帰宅すると、私が脱いだスリッパの上で待っていてくれます。その姿がなくても、スリッパの片方だけが潰れて温かくなっていて、玄関を開ける直前まで、ここにいて私の帰りを待っていてくれたと分かるんです(笑)。
編集部 最後に、これから猫を飼う人にメッセージをお願いします。
高尾 どんなきっかけで飼い始めたとしても、猫は本当に大事な存在になっていきます。去勢や避妊手術をして一代限りの命なのも、猫の行動範囲を狭めているのも人間の都合。飼い主はもちろん飼い主の代わりに世話をしてくれる人、家に遊びに来てくれる人たちも含め、猫の社会に関わる人たち全員で、尊い命がちゃんと幸せであるように見守ってほしいと思います。

