2024年3月、「異次元緩和」が終わり、日本銀行は17年ぶりに利上げした。これから日銀は何%まで金利を上げるのか。2025年末までに考えられるシナリオを4つ挙げて分析する。30年以上にわたって金融政策を取材してきた日銀ウオッチャーの清水功哉・日本経済新聞編集委員の著書『マイナス金利解除でどう変わる』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成してお届けする。
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2025年末までの利上げ到達点のシナリオ
日銀の金融政策を巡って、次にいつ動くか、という点と並んで関心を集めるのが、日銀が金利を何%まで上げるかです。
金利が大きく上がれば、巨額の国債を発行する国の財政や、お金を借りてビジネスをする企業の経営にも大きな影響を及ぼします。関心を集めるのは当然です。
もちろん、「人生最大の借金」となるケースが多い住宅ローンの借り手を中心に、一般の個人も強い関心を持つべき話です。どこまで金利が上がるかは、住宅ローンを変動金利型と固定金利型のどちらで借りるべきかを考える際に決定的に重要なポイントにもなります。
いうまでもないのですが、金利の到達点について「確実にこうなる」というストーリーを語るのは不可能です。ただし、いくつかのシナリオを示し、それぞれの確率の高低を考察することはできます。もちろん、その可能性は現時点での判断に基づくものですが。
ここでは、想定外の危機(金融危機、自然災害、戦争など)がない場合に想定し得る2025年末までのシナリオとして以下の4つを挙げます。なお、最初の追加利上げは金利を0~0.1%程度から0.25%程度に上げる形となりますが、2回目以降の利上げ幅は0.25%とします。
<シナリオB>追加利上げは2~3回、金利は0.5~0.75%程度に上昇(確率60%)
<シナリオC>追加利上げは4~5回、金利は1~1.25%程度に上昇(確率20%)
<シナリオD>追加利上げは6回以上、金利は1.5%程度以上に上昇(確率10%)
4つのシナリオの確率に関する考え方は後述しますが、最も可能性が高いメインシナリオはB、次のサブシナリオはC、AとDは可能性が低いものの注意は必要なリスクシナリオという位置づけです。
以上は、あくまで25年末までの見通しです。したがって、必ずしも金利引き上げのゴールとは限らず、より長い時間軸の話になればもっと様々なシナリオがあり得る点は、指摘しておきます。
2%になっていない予想物価上昇率
日銀がマイナス金利解除などに踏み切ったのは「2%物価目標の持続的・安定的な実現が見通せた」からであって、「2%物価目標が持続的・安定的に実現した」からではありません。
したがって、最低マイナス1.0%程度、最高プラス0.5%程度の範囲にあると見られる自然利子率に、単純に2%を上乗せして金利のゴールを計算するのは、現時点では現実的とはいいにくいのです。
24年2月8日の講演で、内田眞一日銀副総裁もこう語っていました。「わが国の状況を欧米のアナロジー(類推)で考えることには少し無理があります。(中略)『中長期的な予想インフレ率』が2%でアンカーされている欧米とは異なり、わが国では、まだ2%に向けて上昇していく過程にある、という違いもあります」「そのことは、予想インフレ率を押し上げるために、また、予想インフレ率が再び下がってしまうリスクも意識しながら、緩和的な政策を行う必要があることを意味します」
要するに、日本人は本当の意味で中長期的に2%が持続すると考えるには至っていないというのです。2%の持続性に不安も残っている状態です。門間一夫元日銀理事(みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト)は、これを「グレーな2%実現」と表現します。
仮に2%の物価上昇率が中長期の期間にわたって持続的・安定的に実現するなら、人々は「2%程度の物価上昇は当たり前」という物価観を持つはずです。これについては物価2%がノルム(社会的規範)になったといういい方をします。門間氏は「クリーンな2%実現」と表現します。2%物価目標が明確に実現したといった意味です。
そうした状況なら、中立金利は1~2.5%程度の幅になるでしょう(マイナス1%~プラス0.5%程度と見られる自然利子率に持続的・安定的に実現する物価上昇率2%を上乗せした水準)。しかし、実際には日本の物価のノルムがまだ2%にはなっていないなかで、マイナス金利が解除されました。
したがって、25年末までに日銀の政策金利が1.5%程度以上に上がるシナリオDの蓋然性は今は高いとはいいにくいですし、1.0~1.25%程度に達するCも、現時点ではメインシナリオにしにくいのです。
一方で、物価2%がノルムにはなっていないものの、2%が「グレー」な形とはいえ実現している以上、Aも蓋然性があまり高いとは見なしにくいでしょう。過度の円安が進んだ場合の「通貨防衛」的な性格も持つ利上げに追い込まれる可能性も無視はできず、利上げが1回までにとどまるというのは少なすぎる印象があります。
そこで、メインシナリオがBの0.5~0.75%程度までの利上げ、サブシナリオはCの1.0~1.25%程度までの利上げという話になります。
過去四半世紀以上1%台の前例はない
では、Cの可能性がBより低いと考える理由は何でしょうか。それは、過去四半世紀以上、日本の政策金利が1%の大台に乗ったことはないという事実です。
過去四半世紀の最高水準は、07年に到達した「0.5%前後」です。だから「0.5%の壁」は絶対に突破できないと断言するのはいい過ぎだと考えますが、もう一段高い「1%の大台」に乗るハードルはそれなりに高いものとして意識されるでしょう。
07年に「0.5%前後」への利上げを実現した当時の総裁、福井俊彦氏は、内心「1%」を目指していましたが、そこに至ることはできませんでした。
ただし、すでに紹介した予想物価上昇率が、企業だけでなく、一般の個人(家計)、市場参加者、エコノミストのものも含めほぼ2%程度にそろってくる状態になれば、話は違ってきます。より高い水準への利上げが実現する可能性が高まるからです。日本人の物価に関するノルムが本格的に転換しそうになるなら、現在はサブシナリオであるCやリスクシナリオであるDの確率を上げる形で筆者の利上げシナリオも修正することになるでしょう。
なお、改めて述べますが、紹介したシナリオは、想定外の事態(金融危機、自然災害、日本周辺での戦争など)にならないことを前提にしたものです。そうした展開になった場合には、利上げがあまり進まなかったり利下げといった緩和策を迫られたりする可能性がある点も、付記しておきます。現在はリスクシナリオであるAの確率が上がるという話でもあります。
清水功哉著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

