新しいことにチャレンジするのにぴったりの季節。年齢やキャリアにふさわしい大人の教養を身に付けたいという思いを抱いている人も多いのでは? どんな人に教養を感じるか、どんなときに教養が欲しいと感じるか、思いはさまざま。アンケートで分かった、みんながもっと教養を身に付けたいと思っているテーマを中心に、おすすめの47冊をご紹介! 集中すれば3カ月ほどで読破できる数なので、興味のあるものから読み進めてみて。今回は著述家・元国連職員 谷本真由美さんおすすめの本を紹介します。
国際感覚を養うなら名著を読み、海外のメディアを見る習慣を
「国際関係の教養を深めるなら、1つは古典といわれる良書を読むことが近道」とは、国連専門機関職員、ITコンサルタントとして世界各国に勤務し、現在はロンドン在住の谷本真由美さん。
「名著を読むことで、全体像と国際関係の背景が分かる。リアルタイムの状況を知るには、海外メディアのニュースを見ることもおすすめ。言葉が分からなくても動画を見るだけで、今何が世界の関心の的なのか認識できるし、各国を横断的に見ることで日本では報道されていない視点に気づけます」

著述家・元国連職員。1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論・情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関などを経て現在は、ロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアの現地組織での就労経験がある。
左)社会の分断の背景にあるもの、対立軸の構造が分かる
政治や経済など社会の分断の根底にあるのは、個人や集団が求めるアイデンティティー、承認欲求だったと説く。軽視されてきた集団が尊厳を求めて起きたアラブの春、経済的な苦しみをアイデンティティーの喪失として感じた人々が生んだトランプ政権。「#MeToo運動やブラック・ライブズ・マターなどはアメリカ国内だけでなくグローバルに広がり、社会運動になりました。その背景が理解できます」
右)今に通じる満州国の多様性とカオスを、コミックで
第2次世界大戦突入直前の満州国を舞台に、日本人の父と蒙古系の母を持つ日蒙2世の主人公・ウムボルトが国家や民族の思惑、時代に翻弄されながら成長する様を描いている。「本だけでなくマンガもおすすめ。史実と違うところはあるのですが、かつて満州国で何が起こったのかを学ぶことができます。ロシア、朝鮮、モンゴルと国境を接していた中国北部の当時の多様性とカオスな状況が伝わってきます」
現代にも十分通用する、国際政治の古典的名著
第1次世界大戦の終結後、国際連盟という理想を打ち立てながら機能不全に陥り第2次世界大戦が勃発。その20年を分析した。「国際政治の専門家で外交官の著者が、実務家の視点でまとめた、自国第一主義が広がる現在にも通じる名著。『モーゲンソー 国際政治』(岩波文庫)と併せてぜひ」
非効率な制度はなぜ生まれる? 経済成長と政治制度の変遷を知る
ノーベル経済学賞受賞者である著者が、制度の役割と進化という視点で経済史を解説した。「中央銀行や政府などさまざまな機関が経済制度をどう先導してきたかについて、歴史的経緯を踏まえて書かれていて、現在の政治・経済を理解するために役立つと同時に、先々を予測することに役立ちます」
当時と似ているといわれる今、読んでおきたい恐慌論
1929年の大恐慌はどのように起こったのかを丹念に検証した。「リーマン・ショックなど経済危機はその後も定期的に起きていますし、どの時代も似ている。バブルが起きて最後には市場がクラッシュするまでの仕組みを知ることで、金融市場についても理解できますし、これからに生かせます」
[日経xwoman 2022年4月15日付の記事を転載]
構成・文/中城邦子 写真/スタジオキャスパー