世界100万部のロングセラー『敗者のゲーム』の著者チャールズ・エリスが説くのは、市場の動きに一喜一憂せず、複利(「当初の元本+利益」を再投資して新たな利益を得る運用方法)と時間の力を最大限に生かすことの大切さです。エリス氏の最新刊『 チャールズ・エリスの超長期投資入門 』(鹿毛雄二・鹿毛房子訳/日本経済新聞出版)の抜粋・再構成をもとに、投資で資産形成する上で知っておきたい「複利」と「時間」の絶大な効果について説明します。
お金がお金を生む「複利」の力
「投資で資産形成をしたいなら、複利の活用こそ最高の手段だ」と、投資の達人、ウォーレン・バフェットは語る。彼はさらに、「複利を活かした長期投資が最良の策だ」と続ける。実際バフェットは、その信念の正しさを自ら証明して見せた。
「複利」には、お金がお金を生むという素晴らしい働きがある。そして、複利には2つの側面がある。投資収益率と投資期間だ。収益率が高ければ高いほど、投資期間が長ければ長いほど、最終的な資産額は大きくなる。逆に言えば、収益率が低く、投資期間が短ければ、少ないリターンしか得られない。
複利の効果を活かして投資をすれば、最初の投資金額が倍になるのは時間の問題だろう。複利による長期投資は計算上、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍と増え続ける。だからこそ、複利の力を活かした投資はできるだけ早く、なるべく長期間続けることが望ましい。
現在の1ドルは単なる1ドルではなく、将来32ドルにもなり得る。もっと早く始めればそれ以上にさえなる。最大のリスクは、初期の短期収益に気を取られてスタートが遅れ、その後得られるはずの8倍、16倍、32倍というリターンを取り損なうことだ。だからこそ、一刻も早く貯蓄を始めることが大切だ。そしてできるかぎり、節約して蓄えること。こうした全ての蓄えは将来の投資の原資となり、複利で増え続ける。
市場平均以上の投資収益を上げることは困難だが、次の章で示すとおり、より早く投資を始め、より多く蓄えれば、あとは複利の力がうまく働いてくれる。
「パワーカーブ」をできるだけ早くスタートさせよう
「72の法則」をご存じだろうか?
これは誰もが知っておくとよい投資の法則で、「投資の利率」×「資産が倍になるまでの年数」=72というものだ。
例えば、利率3%の場合、資金が倍になるには24年かかる(72÷3=24)。利率7%の場合、72を7で割れば、倍になるのは10.3年後だ。8%の利率なら9年かかる(年利8%では、100ドルの投資が倍になるのも、1万ドルが倍になるのも9年後だ)。
利率が10%なら倍になるまでに7.2年しかかからない。倍の倍、そしてその倍であっても同じだ。投資の達人ウォーレン・バフェットは、10代のはじめから90代を迎えた現在まで、この複利の力を活かした投資を継続している。
ある皇帝と賢者の昔話を紹介しよう。
賢者が皇帝の長年の問題を解決したので、皇帝は「褒美として望むものを何でも与える」と伝えた。賢者は、自分はただやるべきことをしただけで、「褒美などとんでもない」と断った。だが、皇帝はそれを受け入れようとせず、賢者は「小麦1粒を頂きます」と言った。
皇帝がさらに「それではあまりにも少ない」と言うと、無欲な賢者は少し考えて、「では、チェス盤のマス目の隅から1粒、2粒、4粒、8粒と順番に、小麦の粒を倍にしてすべて埋めてください」と申し出た。まず1粒の小麦をチェス盤の隅に置き、それから縦横8個ずつマス目を埋めれば、8×8で64回、倍にすることになる。
皇帝はこの申し出を快諾すると、その約束を公表し、賢者への褒美を授ける際に、領地に住む貴族全員を立ち会わせた。
はじめ、小麦の粒はごくわずかだった。しかし2倍が4倍となり、8倍となるにつれて、コップ1杯から袋いっぱい、荷馬車1台分、穀物倉庫いっぱい、そして複数の穀物倉庫いっぱいとなり、領地で収穫されるすべての小麦となった後も増え続けた。
やがて皇帝は、この約束の結末を悟った。そして、大勢の貴族たちの前でこの約束をした手前、信義を重んじる皇帝はこの無欲な賢者に対し、「王国はすべてお前のものだ」と告げた。
長期にわたり複利の力を活かして投資を続けることで、資産額は時間とともに大きく膨らむ。下の図に示すように、これこそパワーカーブの力だ。それにはまず節約してお金を貯め、このパワーカーブに示される複利の効果を手に入れることだ。
主に株式に投資すれば、複利の効果がさらに高まる。その理由は、株式投資の長期収益率は相対的に高く、それによって複利の効果も一層高まるからだ。資金が倍になるスピードはさらに加速し、パワーカーブを急速に押し上げる。とりわけ、インデックスファンドに投資して手数料などのコストや税金を抑えれば、このパワーカーブをますます押し上げることができる。
この図表を見れば、毎年の収益率が高く、投資期間も長いほど、複利の効果も大きくなることが一目でわかるだろう。手数料などのコストや税金がかさむと、このパワーカーブの角度が下がり、将来の投資額も減少する。だからこそ、早くから始め、不必要なコストを抑えることが極めて重要だ。
このパワーカーブは投資家にとって強い味方であり、この曲線を理解すれば、節約し、蓄えようという気持ちになるだろう。例えば年収益率8%のとき、資産は9年ごとに倍になるので、36年後には16倍になる。その場合、最後の9年で全体の半分を稼ぐことになる。
このように、最終的に全資産の半分は、最後に倍増する期間にもたらされる。だからこそ、多くの資産を得たいなら、このパワーカーブをできるだけ早くスタートさせる必要がある。もしあなたが高齢で、パワーカーブの力を十分に活かせないと思うなら、子どもや孫にこの効果を伝授しよう。
チャールズ・エリス著/鹿毛雄二・鹿毛房子訳/日本経済新聞出版/1760円(税込み)

