新刊『13歳からのPython超入門』の著者・大森敏行さんは日経クロステックで人気コラム「大森敏行のプログラミングで行こう」を連載中。このたびは著書に関連する記事2本をBOOKプラスに転載させていただくことに。2本目をお届けします。
先日、「13歳からのPython超入門」という書籍を出版した。「13歳からの」と付けているのは、中学生以上の読者を想定しているという意味だ。上限はないので、Pythonに興味がある大人の読者に読んでもらっても一向にかまわない。
中学生以上を想定しているのは、Pythonの文法には英単語を使うためである。Pythonに限らず、多くのプログラミング言語は英語をベースにしている。ただ最近は小学校でも英語の授業があるので、小学生でも簡単な英単語なら分かるようになってきた。小学生が少し背伸びしてこの本に挑戦するのも、もちろん大歓迎だ。
近ごろは英語だけでなくプログラミングも小学生のうちから学ぶようになってきた。小学生向けのプログラミング環境としてよく使われているのが「Scratch」だ。様々な機能を持つブロックをドラッグ・アンド・ドロップで組み合わせることでプログラムを作成できる。
ただし、Scratchでは企業の業務システムのような複雑なソフトウエアはつくれない。あくまで、プログラミング学習のきっかけを与えるものだ。小学生のうちにScratchでプログラミングの基本的な概念を学び、中学生になったらPythonなどの本格的なプログラミング言語を学ぶというのが王道の学習ルートだろう。
中学生くらいの子供を持つ親だと、「子供にプログラミングができるようになってほしい」と思っている人は多いのではないだろうか。今は空前のソフトウエアエンジニア不足であり、十分な実力を持つエンジニアは引く手あまたである。またソフトウエアエンジニアにならなくても、専門分野に加えてプログラミングの技能も持っていれば、職業選択の幅が大きく広がる。
生涯収入の差額が微妙に少ない
子供に幸せになってほしいのはどの親も同じ。幸せかどうかはお金だけが決めるわけではないが、「お金で苦労してほしくない」というのは共通した願いだろう。下世話な話ではあるが、子供がPythonを学ぶことで収入がどれくらい変わってくるのかに興味がある親もいるはずだ。
そこで、対話型AI(人工知能)サービス「ChatGPT」に「Pythonが分かる中学生と分からない中学生とでは生涯収入はどれくらいの差になると思いますか」と尋ねてみた。
もちろん、Pythonが少し分かるくらいで収入が大きく変わることはない。「Pythonが分かる」という言葉の裏には、「Pythonの学習をきっかけに一流のソフトウエアエンジニアになる」あるいは「専門分野にプログラミングを組み合わせて大きな成果を出す高度IT人材になる」といった意味が含まれている。
以前のChatGPTであれば、こうした質問に対しては「一概には言えません」と冷たく返してくることが多かった。しかし、最近はできるだけ質問者の意図に沿うように無理にでも回答してくれることが増えた。言葉は悪いが「質問者にこびるようになった」というか。背景には競合サービスの増加があるのだろう。
この質問に対してChatGPTの出した答えが「約5000万円」である。中学生がPythonを学べば生涯収入が5000万円増えるというのだ。計算の根拠も示してくれた。正直にいって、ここまではっきりと金額を提示するとは思わなかった。
ChatGPTが行った計算を紹介しよう。Pythonを理解している中学生(将来IT技術者)は、初年度年収が約300万円、年率2.5%で成長、45年間の合計収入は約2億4000万円。一方、Pythonを理解していない中学生(非IT分野)は、初年度年収が約300万円、年率1.5%で成長、45年間の合計年収は約1億9000万円。差額は約5000万円になる。
ただ、個人的には「差額が5000万円は、微妙に少ないのではないか」と感じた。肌感覚では数億円でもおかしくないと思っていたからだ。
そこで、Pythonが分かる人の最終年度の年収を計算してもらった。結果は900万円弱。やはり年収が低めになっている。
メガベンチャーの最高技術責任者(CTO)やビッグテックの上級エンジニアであれば、年収は数千万円が当たり前だ。本当に優秀な最上位層では、年収が1億円を超えることもある。さすがに年収が1000万円に届かないことはないだろう。
ChatGPTによると、この計算結果は「保守的に考えた場合」であり、実際には年収はもっと高くなる可能性があるという。そこで計算をやり直してもらったところ、Pythonが分かる人は5~6億円、Pythonが分からない人は2~3億円で、約3億円の差がつくという結果になった。これであれば私の感覚に近い。
計算自体はあくまで机上の空論である。給与レベルは国によって異なるし、会社によっても全く違う。本人の実力がどこまで伸びるかも関係してくる。結局、どれだけ収入が増えるかはケース・バイ・ケースだ。それでも、こんな雑な計算でそれなりに納得感のある数字が出てくるのは面白い。
プログラミングの無理強いはよくない
ChatGPTとこうした会話をしていると、生涯年収の金額そのものよりも、ChatGPTが「注意点」として挙げた2つのことのほうが個人的には重要だと感じた。
まず、Pythonが分かるだけではここまでの差は出ないということ。「それを伸ばして生かす学習環境・機会・継続があって初めて数億円単位の差になる」とChatGPTは言う。
もう1つの注意点は「Pythonが分からないままでも営業・管理・公務員・職人など他の道で成功する人も多くいる」ということ。プログラミングは向いている人と向いていない人がはっきり分かれる技能だ。プログラミングに向いていない人に無理強いするのは本当によくない。
ChatGPTによると、Pythonが分かる中学生は「伸びる道を早く知っている」ことになるという。それを生かせば数億円の生涯収入の差が出る可能性がある。重要なのは継続だ。Pythonに少しでも興味を持ったなら、楽しく学習を続けていってほしいと思っている。

[日経クロステック 2025年7月4日付の記事を転載]
大森敏行著、日経BP、2090円(税込み)
