6月7日に開催されたテレ東BIZ1周年感謝祭でライブ配信された「成長するには本を読め!~5年後の自分を作る本の選び方~」。評論家の宮崎哲弥さん、学びデザイン代表取締役の荒木博行さん、フリーアナウンサーの森本智子さん、日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長の4人で、「ビジネスパーソンの成長において鍵となる読書」について議論を交わしました。読書家が語る、ビジネスパーソンのおすすめの1冊も必見!(番組の様子を記事でお届けします)

<出演者>
評論家 宮崎哲弥
学びデザイン代表取締役 荒木博行
フリーアナウンサー/起業家 森本智子
日経BOOKプラス編集長 常陸佐矢佳

役職が上がると本を読む人が増える?

左から、森本智子さん、常陸佐矢佳編集長、宮崎哲弥さん、荒木博行さん(以下、敬称略)
左から、森本智子さん、常陸佐矢佳編集長、宮崎哲弥さん、荒木博行さん(以下、敬称略)
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森本 今日はテレ東BIZ感謝祭として、ビジネスパーソン必読の書、読み方のコツなどに焦点を当ててお話を伺います。最初のテーマは「なぜ、本を読むのか」。改めて本を読む意義について考えていきたいと思います。まずはこちらのデータをご覧ください。

 日経BPと日経BPコンサルティングの調査によると、1週間に1冊以上書籍を購入する人の割合は、経営系の方では約2割(18.3%)で、一般社員(10.8%)、管理職以上(11.9%)と役職が上がるごとに割合が上がっています。

役職が上がると、1週間に1冊以上書籍を購入する人の割合が増える
役職が上がると、1週間に1冊以上書籍を購入する人の割合が増える
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常陸 もともと書籍から知識を得ることに積極的な方が, 成長してポジションを得たとみることができます。一方で、役職が上がると新しい知識を得る必要がでてきて、効率的に学べる本を手にする機会が増えた面もあるのかなと思います。

荒木 今はYouTubeやツイッター、アプリなど、我々の興味を引くものがどんどん出てきて、本の相対的な魅力が下がってきている実感があります。だから、本を月4冊読む人がこれだけいるという数字にはビックリしました。

宮崎 管理職や経営者の方が本を多く読んでいるというのは納得できます。若年の一般社員は現に眼の前にある課題を解決することで手いっぱいの場合が多いけれど、経営者となると、自分の経験だけでは足りない部分がどうしても出てくる。もっと視野を広げたり、長期的な視点で物事を判断したいときは、本によって補っていくことになると思うんですよ。

 ただ、これから危機的な時代になり、一人ひとりが自己経営というか、経営者的な感覚を持たないとやっていけなくなるので、一般社員でも本を読む人が多くなってきているのではないかと思います。

なぜ、私たちには本が必要なのか

森本 ネットやテレビなど情報を得る手段がたくさんあるなかで、ビジネスパーソンにとって本は必要なのでしょうか。

宮崎 本は効率のいい情報獲得手段なんです。映像や音声は、ある一定時間ちゃんと見聞きしなければ身に付かないけれど、本はパラパラと読めて、好きな時にやめて、また読みつぐことなどできますから。

荒木 自分で時間を調整できるのは本の大きなメリットで、そこに自分の思考や疑問を投入できる余地がありますね。

宮崎 そう、疑問を差し挟み、自問しながらテキストと向かい合うことができるのは、本の強みだと思います。

常陸 YouTubeが話題になっても、ビジネスパーソンのなかでベストセラーと同じぐらいの影響力を持ち共通認識ができるかというと、まだそうではないなと。ベストセラーや話題の本について、コミュニケーションを楽しめることも魅力ですね。

ビジネスパーソンにおすすめの1冊

森本 今日は、ゲストの皆さんにもビジネスパーソンにお勧めの本を教えていただこうと思っています。

常陸 私がご紹介したいのは 『ビジョナリー・カンパニーZERO』 (ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著、日経BP)です。世界で1000万部超えのベストセラーの著者による最新作。経営で一番考えるべきは人材であり、どんな人を事業というバスに乗せていくかを考えるべきと説かれています。

「迷ったときに立ち戻る、大切な1冊です」
「迷ったときに立ち戻る、大切な1冊です」
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 日経BOOKプラスという事業が立ち上がった時も、まずこの本をじっくり読みました。このバスに乗っている人たちが快適に力を発揮しながら、目的に向かって進めるようにすることが私の役割だと思い、迷ったときは必ずここに立ち戻る、大切な1冊です。

宮崎 70年代の終わり、経済学者のジョン・K・ガルブレイスが書いた『不確実性の時代』がベストセラーになりました。今はちょっと違うかたちで、しかし一層、不確実性が高まってきた。新型コロナのパンデミックやウクライナ戦争が世界経済に与えた影響を考えれば思い半ばに過ぎるでしょう。ビジネスシーンは予測のつかない変化に見舞われています。

 ひと言で言うと、今はVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代、そこで私がおすすめしたいのは 『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』 (柴田彰ほか著、日本経済新聞出版)です。

「不確実な時代に読んでおきたい1冊です」
「不確実な時代に読んでおきたい1冊です」
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 これは新型コロナの世界的流行前に上梓されたものですが、むしろ今読むべき本といえるでしょう。全く先が読めない時代の中で、どうやってビジネスをやっていくか、自分の生き方を立てていくか、組織づくりはどうあるべきかということが書かれています。

森本 例えば、どんなヒントがあるのでしょう。

宮崎 一つは俊敏性です。社内や今までの人間関係だけでなく、どんどん社外に出て、いろんなマーケットが暗示する初期微動のようなものをつかむ俊敏性や敏感性が必要であると。会社の組織としても、機能や部署ごとの役割にこだわらず、もっと広い視野で一人ひとりの社員について考えていかなければならない。そうやって市場の変化をいち早く捉え、柔軟に対応することが必要になってくるという話なんです。

 個人の生き方についても、自分が何をやりたいのか、この時代に何ができるのかということを常に考えながら、過去の経験や組織的な制約にとらわれずにやっていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

荒木 僕が持ってきた1冊は、太刀川英輔さんの 『進化思考』 (海士の風)です。日本人はクリエイティビティの自任が低いとされていますが、我々がもっとクリエイティブになるためにはどうしたらいいかを突き詰めていった結果、進化論にたどり着いたという本です。

「変化が多い時代だからこそ、過去から学ぶこともありますよね」
「変化が多い時代だからこそ、過去から学ぶこともありますよね」
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 生物の進化はまさにクリエイティブな活動であり、我々がビジネスなどで新しいものを生み出すときも進化論のポイントをひもといて使えるという、とても面白い論立てなんです。つまり、ルーツに戻るということ。ビジネス書は100年ほどの歴史しかないけれど、人類の歴史はもっと長くて、ビジネスパーソンが人類の長い歴史に立脚してものを考えていくことは大切。変動が激しいからこそ、過去をちゃんとひもといて考えたいですね。

宮崎 ちょっとその付箋、見せてください。すごい貼付密度(笑)。

本の厚みと付せんの量に驚く
本の厚みと付せんの量に驚く
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森本 それだけきっと、残しておきたいフレーズがたくさんあるということですよね。

宮崎 読み応えあるから、とにかく注意点に全部付箋を貼っているんですね。私も付箋、貼るんですよ。付箋がいっぱい貼ってある本って、いい本なんですよね。

5年後の自分をつくる本、どう選ぶ

森本 未来への投資として、5年後の自分をつくる本をどのように選んでいけばいいのでしょうか。

常陸 食べ物が体をつくるように、書籍からの知識は5年後の自分の思考をつくります。自分の可動域を広げるために、ちょっと無理をしたり、自分の範囲外のところにストレッチしたりと、挑戦することが重要ではないでしょうか。

宮崎 現在から5年というとさらに不確実性が高まり、方向性が見えない時代になりますね。このトレンドは2030年頃まで続くと思います。既成概念や既存の組織などに頼り切ることが非常に難しく、政府のマクロ政策からビジネス本がおすすめするミクロ的な経営戦略やマーケティングまで、半年経ったらもう時代遅れになってしまう可能性がある。

 そんななかではもっと普遍的に、自分とは一体何で何をしたいのか、どう生きたいのかということを主眼に置いてやったほうがいいし、むしろそのほうがビジネスチャンスを得られる。従来のモダニティ(近代性)にこだわっていては理解できない事象や解決できない問題が山積していく。

 例えば、ウクライナ戦争は現代的な戦争というより、19世紀以前の版図拡大を目的とした戦争で、それが世界秩序を脅かし、グローバルな経済的な影響をもたらしているわけですね。もちろん感染症もしかり。古いものと新しいものが混在して、しかも訳の分からない混在の仕方をするような時代になったとき、自分の生き方を再定義して、そういう時代でも平気でやっていけるような立場をとるためには、むしろ古典的な経済学や政治の本、歴史小説などを読んで学んでいくしかないと私は考えています。

 また、聖書やキリスト教的な思考の中で紡ぎ出されたもの、あるいは仏教やイスラム教。宗教的思惟でも忌避せずにね。古典的な思考、長い時間を生き延びてきた知恵に触れてみるのは一つの手だと思います。

荒木 5年後の自分をつくる本は、今は意味が分からない本であり、5年ぐらい賞味期限のある問いが残る本を読むといいと思います。

 カテゴリーは宮崎さんがおっしゃったようなもので、人類が長い間その問いを追いかけてきて、まだまだ解けないものっていっぱいあるわけなんです。不確実性が高まっているからこそ、中長期的な視点で考えることはすごく大事で、5年後の自分をつくる本は、短期的に納得しちゃう本ではダメだと思います。

構成/佐々木恵美

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https://www.youtube.com/watch?v=dPsV7RZbzsg