私たちは、悩むことは大切だと考え、そこに費やす時間をあまり気にしません。しかし、それがいつの間にか「解決につながらない悩み方」になっていることがあります。その結果、問題は前に進まず、年間900時間もの時間を失うことも。では、どうすれば解決につながる悩み方ができるのでしょうか。新刊『 悩み方が10割 「どうしよう?」が「行動」に変わる頭の使い方 』から一部抜粋してお届けします。第2回は、悩みを「明日からできるタスク」に変える思考法についてです。
悩みが解決しないのは「ややこしい悩み」として抱え込むから
ビジネスの現場で直面する悩みのほとんどは、単一のシンプルな問題ではありません。
ほとんどの悩みが「複数の具体的な問題が、複雑に絡み合った、どこから手を付ければいいか、わからない状態」です。そして多くの人は、焦りから、その「絡まってしまった悩み全体」を一気に解決しようと力んでしまいます。
しかし、悩みの解決に一挙両得はありません。「二兎を追う者は一兎をも得ず」が、悩み解決の絶対の鉄則です。
複雑化した悩みを解決する最強のツール、それが「問題の分割」です。
これをやらないことには、ほとんどの悩みは解決の糸口すら掴めません。
では、なぜ人はいくつもの問題が連鎖している状態を分割できず、一つの「ややこしい悩み」として抱え込んでしまうのでしょうか? 実はこれには、人間の脳の仕組みが深く関わっています。
私たちは「思い込みのストーリー」に悩まされている
私たちが陥りやすい最大の罠、それが「◯◯だから、である」という、思い込み(ストーリー)への逃避です。
人間の脳は、「とてもさぼりやすい」のが現実です。
認知心理学では、人間の脳には「直感的な速い思考」と「論理的な遅い思考」の2つがあるとされています。脳は体重のわずか2%でありながら代謝の約20%を消費するため、エネルギーを使う「論理的な分析」を避け、無意識に手抜きをしようとします。
その結果、別々に起きている単なる出来事に対して「Aだから、Bになり、その結果Cになった」と相関関係を捏造し、一つの分かりやすい「思い込みのストーリー」を作り上げて逃避してしまうのです。
例えば、次のようなイメージです。
「給料が安いから(A)、モチベーションが上がらず(B)、成果が出ない(C)」
「内向的だから(A)、チームに馴染めず(B)、評価されない(C)」
つい、こんな風に考えてしまうことありますよね……。
もちろんそれが正しいときもありますが、多くの場合、これは「事実」ではなく、脳がエネルギーを節約するために作り上げた「思い込みのストーリー」です。この構文の恐ろしいところは、「Aという根本原因(自分の性格や変えられない環境など)が変わらない限り、絶対に解決しない」という言い訳や逃避を生み出すこと。
人はなぜ、この絶望的なストーリーにすがりつくのでしょうか?
それは皮肉なことに、そのほうがラクだからです。「こういう性格だから仕方ないんだ」「会社が悪いからどうしようもない」と無意識に諦めることで、未知の行動を起こす恐怖や、失敗するリスクから自分を守っているのです。
しかし、この思い込みのストーリーの中にいる限り、悩みは永遠に解決しません。
では、なぜ「分割すること」が、この思い込みから抜け出す強力な鍵になるのでしょうか。
ここで一人、知恵を借りたい学者がいます。ノーベル経済学賞を受賞した学者、ハーバート・サイモンです。サイモンは、「人間の脳には、一度に複雑な情報を処理する能力の限界がある」と指摘しました。この脳の限界を克服するためのヒントになるのが、彼が提唱した「近接可分性(きんせつかぶんせい)」という理論です。
一見、複雑に絡み合っているシステムや問題も、一度その繋がりを横に置いて小さな単位に分解し、個別に扱えば、人間の脳でも十分にコントロール可能になるという考え方です。
「部下が育たない悩み」を分解してみて見えてくるもの
例えば、私が様々なクライアントから受ける相談にこんな悩みがあります。
私がいつも正論で部下を納得させてしまうから(A)、
部下の主体性を奪ってしまい(B)、
その結果、部下がなかなか成長しない(C)
さて、どう解決すべきか。
みなさんならどのように考えますか?
パッと考えると、「そもそもの原因は正論を振りかざすことにあり、それを直さない限り、悩み続けるだろう。つまり、正論がこの悩みの諸悪の根源だ」と、なるのではないかと思います。
しかし、「長年の性格を変える」ことは、ハードルが高すぎて今日明日では実行不可能なタスクのため、そのアプローチではこの悩みを解決できません。
ここでやるべきなのが、「Aだから、Bになり、その結果Cになった」という思い込みのストーリーを破壊すること。
つまり、大きな悩みの塊を「3つの独立した問題」にスパッと分割することです。
1:正論を振りかざしてしまう(A)
2:部下から主体性を奪っている(B)
3:部下を成長させられない(C)
この3つを「原因と結果」ではなく、「独立した3つの事実」としてフラットに見つめ直します。
例えば、部下がコンプライアンスに関わるような間違った行動をしようとしている場合、上司として「正論」を言わないといけません。もしかしたら、部下はその「正論」自体には納得していて、単に「次にどう動けばいいか」の具体的なスキルが足りていないだけかもしれない。あるいは、「成長しない」最大の理由は主体性の有無ではなく、そもそも「期待値」がズレているだけかもしれないのです。
このように、「正論を言うから→育たない」という呪縛を切り離してみて、あらゆる可能性を妄想してみます。
そして、悩みを分割してみるとどうなるでしょうか。
1:「正論を振りかざしてしまう」に対する解決策
「正論」自体は武器であり、悪ではありません。問題は「タイミング」です。だとしたら、いきなり正解を伝えるのではなく、「どう思う?」と「相手の意見を聞くステップを設ける」という具体的なタスクが生まれます。
2:「部下に主体性がない」に対する解決策
主体性がないのは、正論を言われたからではなく「失敗して怒られるのが怖い」という心理的安全性の問題かもしれません。だとしたら、「失敗しても会社がカバーできる案件を、あえて口出しせずに全権委任してみる」というタスクが生まれます。
3:「部下を成長させられない」に対する解決策
そもそもお互いの「成長」の定義が曖昧なのかもしれません。
だとしたら、「半年後にできるようになってほしいスキルの状態を箇条書きにして、1on1面談ですり合わせる」というタスクが生まれます。
いかがでしょうか。
「自分の性格のせいで部下が育たない」という、重くてどこから手をつけていいかわからなかった悩みの塊が、分割したことで「すぐ実行できる、3つのタスク」に変わりました。「これなら明日からできる」と前向きな気持ちになりませんか。
これが「問題をきちんと分割する」というメソッドの圧倒的な効果です。
複雑に絡み合った悩みは、ストーリーの姿のままでは絶対に解けません。
しかし、事実を一つひとつに独立させて、「これは自分の話し方の問題」「これは権限の渡し方の問題」「これは目標設定の問題」と分割した瞬間に、思い込みから解放され、シンプルで具体的な解決策がパッと浮かび上がってくるのです。
あなたが今抱えている悩みも、きっと脳が勝手に作り上げた「思い込みのストーリー」によって、難攻不落の問題に見えているだけです。
堀昌之(著)/日経BP/1980円(税込み)



