就活・転職活動時の業界・企業研究に、ビジネスパーソンの日々の業務に、活用している人が多い『日経業界地図 2025年版』(日本経済新聞社 編/日本経済新聞出版)。今回は数多くの大学で就活やキャリアデザインを指導している、就活キャリアコンサルタントの上田晶美さんに、具体的な活用法について伺いました。
株式会社ハナマルキャリア総合研究所代表取締役
業界や企業名を知らない学生にとっての「就活参考書」
30年以上にわたって多くの大学でキャリアデザインの授業を担当し、就職活動に関する講演や就活指導を行うなど、数多くの就活生と日常的にコミュニケーションを取っていますが、一昔前に比べると企業名を知らない学生がとても多くなったと感じています。
例えば、JTBとJCBが何の会社か質問しても、分からない、聞いたことがない、そもそも別の会社なの? という答えが返ってきます。いずれも旅行会社、クレジットカード会社で業界トップクラスの有名企業ですが。このクラスの会社でもこういった答えが返ってくるのです。有名大学の学生でも、超有名な大手企業や、普段使っている商品やサービスを扱っている企業など、ごく一部の企業名しか知らないという人がとても多いのが現実です。
要因の一つとして挙げられるのが、テレビや新聞を見なくなっていること。自宅でテレビをつけていれば、ニュースが自然に耳に入りますし、さまざまな企業のCMが流れてきます。テーブルに置いてある新聞から、企業の名前が目に入ってきます。意識して見よう、読もうとしていなくても、何となく耳にしたり目にしたりした情報から、企業を知ることは意外に多いものです。その機会が減っていることが、企業名はもちろん、業界に関する知識の低下にもつながっているのでしょう。
もちろん、ネットを見ていても広告はたくさん流れてきますが、テレビのようなマス媒体に比べると企業規模が小さいところが多く、新卒採用を実施していないケースも多いようです。それに、閲覧履歴を受けたレコメンド広告や動画、ニュースばかりがピックアップされるため、興味のある分野の情報しか目に入らないのもネットの特徴です。
就活をスムーズに進め、満足のいく就職を実現するには、さまざまな業界・企業を知り、自身の視野を広げることが何より重要。そのために、就活における業界地図本の存在意義がますます高まっていると感じます。
『日経業界地図 2025年版』では1冊で194の業界、4800の企業・団体が紹介されています。「基礎知識」「最近の動向」「年表」「キーワード」などで業界の基本を知ることができ、個別の企業のデータも充実しています。パラパラめくるだけでも視野が広がるので、学生には積極的に読むように勧めています。
キャリアデザインの授業やインターンシップ講座で活用
そして私自身も、授業や講演、キャリアアドバイスなどでフル活用しています。
例えば大学1~2年生向けのキャリアデザインの授業では、『日経業界地図』をもとに、いくつかの業界を例に挙げて業界研究・企業研究の方法を伝えています。今は1~2年生が参加できるインターンシップも増えており、大学低学年から就活への意識が高まっていることから、「業界や企業を知らないので、もっと教えてほしい」と要望されることが増えています。
就活本番に差し掛かる大学3年生には、『日経業界地図』を使ったインターンシップの選び方などを教えています。現在、インターンシップは、大学3年生の夏が最も盛んで、大学側もこの時期にできるだけ多くのインターンシップに参加するよう呼び掛けています。そして2023年度より、企業はインターンシップ時の評価を含む参加学生の情報を、広報活動や選考活動に生かせるようになりました。いわゆる「採用直結インターンシップ」が解禁されたことで、事実上、就活は「大学3年生の夏からが本番」となりつつあります。
そのため、大学でのインターンシップに関する講座はどこも大盛況です。私がこの春、ある大学で実施した講座でも、立ち見の学生が廊下にあふれたことがありました。
どの学生も一番知りたいのは「どの業界のインターンシップを選べばいいのか」。そこでも、『日経業界地図』が大いに役立っています。
『日経業界地図』はページをめくるたび、さまざまな業界の解説や、キーワードが目に飛び込んできます。視野が広がるだけでなく、「そういえば、このテーマが気になっていたんだ」と思い出す効果もあります。そして目に留まったページを読み込んでいけば、さらに興味が深まり、インターンシップへの参加意欲が高まります。
どの業界に興味を持てるのか分からず、どのインターンシップを選べばいいか分からない場合は、自身の体験を振り返り、インターンシップ先の業界を選ぶ「体験紐(ひも)づけ方式」を勧めています。
大学の授業で、自動車業界の企業について学んだ経験があるならば、自動車業界のページを見て企業をピックアップし、インターンシップ内容を見てみるといいでしょう。最近よく買っているアパレルブランドに注目するのもいいですし、運動部に所属しているならば、普段よく使っているウエアや道具、サプリメント、プロテインを作っているメーカーを見てみるのもいいかもしれません。
このように、自分が最近触れたり関わったりしたことのある業界や企業はどこか? と考えてみると、業界や企業の選択肢が広がります。そのうえで、『日経業界地図』を活用しながら具体的なインターンシップ先を選ぶことによって、企業と自分との接点がより感じられ、インターンシップでの学びも深まるのではないでしょうか。
当然ながら、就活本番でも『日経業界地図』は大いに力を発揮します。ES(エントリーシート)や面接での志望動機作成に生かせるほか、自己PRを書く際に「自分の強みや持ち味と、志望業界・企業との接点」を探るときにも役に立ちます。面接の最後に聞かれがちな「逆質問」にも役立てることができるでしょう。
社会人になっても『業界地図』は役に立つ
『日経業界地図』は社会人になった後もは社会人になった後も活用できます。例えば営業職であれば、業界の全体像、勢力図を見定めることができますし、提案先企業のリストアップやリサーチに役立てることができるでしょう。
転職を考える際にも役立ちます。就職すると、勤務先の業界事情には詳しくなりますが、その分どうしても視野が狭まり、その他の業界についての知識は浅くなりがちです。転職先として気になる業界があれば、そのページを読み込むことで業界研究・企業研究を進められます。各業界・企業を取り巻く経済環境は目まぐるしく変化しているため、たとえ就活時に興味を持ち、調べていた業界であっても、「今はこのように変化しているのか!」と驚くことがあると思います。業界の「最近の動向」についても解説されているので、志望動機や自己PRなどに生かすこともできます。
『日経業界地図』では、関連する業界がカテゴリー分けされ、近いページに掲載されています。例えば、「自動車」のページの次には「電気自動車(EV)」「自動車部品」があり、続いて「二輪車」「自転車」「タイヤ」「自動車の自動運転」「モビリティサービス」と続きます。技術の進化や業界動向、社会の変化によって業界区分や並びも毎年変わっています。
転職で「これまでの経験を生かしつつ、違う業界も見てみたい」という場合は、今働いている業界の前後数ページに目を向けると、「経験が生かせそうな業界・企業」を見つけることができます。解説内容だけでなく、ページ構成など本全体をうまく活用することをお勧めします。
実は私たちキャリアコンサルタントにも『日経業界地図』は必携の本なのです。キャリアコンサルタントというと、傾聴、面談、ロールプレイングなどが思い浮かびますが、前提として必要なのが業界や仕事についての知識です。カウンセリングを受けに来た方が働いてきた業界や企業のことが分かっていなければ仕事になりません。キャリアコンサルタント自身にも、そこが抜け落ちていることがあります。
スキマ時間にパラパラめくるめくるだけで、知らなかった業界・企業が発見できるのは、紙の本ならでは。就活に当たって自分の視野を広げたい、もっと業界・企業の知識を増やしたいという人にはピッタリの1冊だと思います。
取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/吉澤咲子
毎年大好評の『日経業界地図』最新版。日経新聞の記者が総力取材した194業界、4800企業・団体を収録。業界ごとに、企業の提携・勢力関係を図解で示し、今後の見通し、注目のキーワードなどを解説します。業界の基本が1分で分かります。
日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/1870円(税込み)



