学習マンガから始まって、セリフ付きのイラストで知らない物事を吸収するのが好きな私。2021年11月、弊社から 『ひとりほぐし―肩こり 便秘 たるみ むくみ うつうつを自分の手でときほぐす!』 という、マンガでセルフマッサージを解説する書籍が出た。著者はマンガ家でイラストレーターの崎田ミナさん。『ずぼらヨガ』『すごいストレッチ』などで22年10月現在累計70万部を超えるヒットメーカー。『ひとりほぐし』も13万部を突破という勢いだ(「日経ヘルス」編集部に代わりまして、ありがとうございます)。

 この本の担当編集者に「うちから出た崎田さんの本、いいね」と言ったら「えっ(なんでこの人が読んでるの、という顔)」と返され、内心、オヤジだってほぐしたりメンテしたりしたいんだぞ、とムッとして「崎田さんの前作『体メンテ』、買って試したら見事に腹が凹んだんだよ!」と熱く語ったところ、「そんなにお気に入りなら」と、崎田さんにお会いできる運びとなった。早い話が販促を期待されて連載枠(日経ビジネス電子版=編集Yの「話が長くてすみません」)をジャックされたのだけど、「知識の伝え方」として、とても面白いお話が聞けたので、前後編でご紹介させていただく。

 はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。

崎田ミナさん(以下、崎田):この連載、『ハコヅメ』の泰三子(やす・みこ)先生が出てましたよね!

 は、はい。

崎田:うわあ、私、大ファンなんです! 先生と話せてうらやましい! もちろん全巻持ってます!

 そうなんですか! だったらぜひいろいろとお話ししたいことが……あるんですが、ヨコで日経ヘルスの編集者が睨んでますので、崎田さんのお話を聞いていきたいと思います。この『ひとりほぐし』で著書は5冊目で。

崎田:はい、そうです。

『ずぼらヨガ』『もーっとずぼらヨガ』と合わせ、ヨガ本が2冊、そして『すごいストレッチ』で50万部超え。2021年は『体メンテ』『ひとりほぐし』と2冊刊行。
『ずぼらヨガ』『もーっとずぼらヨガ』と合わせ、ヨガ本が2冊、そして『すごいストレッチ』で50万部超え。2021年は『体メンテ』『ひとりほぐし』と2冊刊行。
崎田ミナ
イラストレーター、マンガ家
1978年 群馬県生まれ。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業。ヨガ通いによって、長年のうつ病を克服。著書の『自律神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』『自律神経どこでもリセット! も~っとずぼらヨガ』(共に飛鳥新社)、『職場で、家で、学校で、働くあなたの疲れをほぐす すごいストレッチ』(エムディエヌコーポレーション)はいずれもベストセラーとなる。

「伝えたいこと」があふれかえっている

 私はこの中の4冊目の『体メンテ』に引っかかってですね……ページをぱらっとめくった瞬間に、「伝えたいものがあふれ返っている!」「そして、分かりやすい!」と。

崎田:ありがとうございます。

 読んで実際にやってみて、こんなにきちんと自分の体に効果が出た「からだの本」は初めてだったので、正直、感動したんです。最新作の『ひとりほぐし』も参考にして、体をほぐしています。イラストでヨガやストレッチを解説するスタイルでブレイクされた崎田さんですが、どういう経緯でこういったお仕事を?

崎田:最初から、「読者の方にラクになってもらいたい!」というような立派な目的は、実はなかったんです。『ずぼらヨガ』にも描いている通り、イラスト・マンガ家業をうつ病で3年間ドロップアウトしてましたし。その間、うつ病を治す目的でヨガやバイトをしていましたが、ストーリーマンガ家になりたい気持ちは持ち続けていたんですね。それで、体調が「まぁ良くなったかな」と思ったところで描いた原稿をいろいろなところに持ち込みましたが、全部ダメで。

 あらら。

崎田:その後、「いまトピ」というウェブサイトの方から、イラストの仕事で声をかけてもらったのですが、最初は全然PV(ページビュー)がとれなかったんです。そこで、編集さんと相談して4コママンガでストレッチを描き始めて、自分のツイッターアカウントから発信したところ、徐々にリツイートされるようになりました。

 そうしたら、フォロワーの方々から「このストレッチでラクになりました」という反応をいただくようになって。そこで初めて「あ、自分にはこういうものが描けて、人に喜ばれるんだ」って分かったんです

崎田さんは今も自身のツイッター(@sakitamina)でストレッチなどについてツイートしている。(©崎田ミナ)
崎田さんは今も自身のツイッター(@sakitamina)でストレッチなどについてツイートしている。(©崎田ミナ)
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 それはよく分かる。崎田さんの絵を見たとき、「何をやればいいか、それでどこに効くのか、っていうイメージがぱぱっと頭に入るな」って思いました。

崎田:ありがとうございます、うれしいです。

(©崎田ミナ)
(©崎田ミナ)
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 古い男なので、新しいことを始めるときは本に頼るんですよね。英語の本、料理の本、そして。エクササイズ系の本。でも、正直どれもうまくいかない。「結局こういう本の大半は、既に“分かってる人”が見るものなんじゃないかな」って思います。

崎田:どうしてでしょうか。

 エクササイズ系の場合は、自分が「本が解説している通りにできている」という、実感が持てない。それが大きな理由でしたね。

 それで、しかたがないので、パーソナルトレーニングを受けてみたんです。そこがけっこう理屈っぽく教えてくれるところだったんですよ。もう、我々オヤジ世代にぴったりですよね。

崎田:オヤジにぴったり? なぜですか?

理屈っぽさがオヤジには重要なんです

 理屈っぽく、ってところが大事なんです。「『なぜこれをやらねばならないか』をきちんと説明しないと、年長の男性会員さんはやってくださらないんです」と、若いトレーナーさんが言ってましたが、まさにその通りで。

崎田:ははあ……。

 自分でもそうだと思います。「この動作ではこの筋肉が……」みたいなことを言われると、「あー、なるほど」と。「どこを鍛えてるかっていうのが分かってるっていうのは、すごく大事なんだ」ってそのとき思ったんです。……またヘルスの編集者が睨んでますね。はい、私、自分の話ばっかりしてますけど、もうそういうものだと思ってください(笑)。

崎田:分かりました(笑)。

 パーソナルレッスンは効果はありました。お小遣いで通うのは厳しいので止めましたが、「自分の体の中の仕組みを知って機能を高めていくというのは、なかなか心地いいものだな」っていう経験が残ったんですね。記憶があるうちにこれを定着させたい。その手がかりなるような教本でいいのがないのかな、と探したわけです。

 そこでターミナル駅の1階にある大型書店さんの健康本のコーナーに行って、端から全部チェックしました。性格的に網羅性重視なので。女性のしなやかなポーズの写真があって、引き出し線があって、インストラクターさんが良いこと言っている本が大半で、「うーん、こういうのだと分からないんだよ」と思いながら見ていったら『体メンテ』の表紙がぽっと目に入って。

崎田:わ、渋いのをありがとうございます。

 あれ? 渋いですかね? で、めくったら先ほど申し上げたように、伝えたいことであふれかえっているー! と。執念すら感じました。

『体メンテ』より(©崎田ミナ)
『体メンテ』より(©崎田ミナ)
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崎田:確かに、執念みたいな……(笑)。実は、これでもめちゃめちゃ略しています。項目も削ってるし。できればもっと入れたかったんです……。

 そうなんですか……。情報詰め込み系の雑誌の編集にいたことがあって、「こんなに要素を入れたら読みにくいよ」「いやそれでも」と、ずいぶんデザイナーさんにご迷惑をかけたりけんかしたりしましたが、この本のデザイナーさんも、泣きながら作業しただろうなあと思いました。

崎田:え? いやいや、全体の構成とデザインまで全部自分でやってます。

 あっ、そうなんですか!

崎田:私、レイアウトデザイナーやフリーペーパーの編集をしていたり、ストーリーマンガを描いていた時期もあったりしたので、画面運びは一応頭に入ってるし、一通りはやれちゃうんです。なので自分でほとんど決めちゃいます。

 それはうらやましい。

「尻ムーブ」はいい! なんで笑うの?

崎田:(作品によく登場する)旦那Kに言わせると、「ひとり編プロ」だって。そこまではいかないと思うんですけどね。ライティングはできないし、エクセルも使えないし……。

 私は絵が描けないんですが、ひとり編プロは一つの理想ですね。もちろん、才能ある方とのお仕事は、別の喜びがありますが。

崎田:そうですよね。例えば、私が全部仕上げると泥臭くなっちゃうんです。だから、書籍にするときはデザイナーさんにフォントや飾りの部分をお願いしたり、ページのバランスをとってもらったりして、とてもすっきりさせてもらっています。

 崎田さんはおそらくネガティブな意味で「泥臭く」とおっしゃっているかもしれないんですけど、私がこの本に引っかかって即買いしたのはまさにその泥臭さだと思うんです。

崎田:本当ですか、それはうれしい。

 確かにクセは強いからもしかしたら万人受けはしないかもしれませんが、引っかかったらやめられない。そして、勢い任せで斜め読みするだけでも十二分な情報量があって、落ち着いてネチネチ読むと「あ、こんなことも描いてあった」って気がつく。例えば、私、この「尻ムーヴ」をやってるんですけど。

(会議室で腰をくいくいと動かし、実演するYに全員爆笑……)

 ねぇ、なんで笑うの? なんで笑うんですか? これ、すごくいいですよ!

編集Yが好んでやっている「尻ムーヴ」。『体メンテ』より(©崎田ミナ)
編集Yが好んでやっている「尻ムーヴ」。『体メンテ』より(©崎田ミナ)
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 全体にこのイメージみたいに「そうだよ、そこが知りたいんだよ」っていうところだけ読んで「最終的にここ(赤くほわっと塗られている部位)がポカポカすりゃいいんだね」っていう風に、最初は大づかみに、ディティールはぶっ飛ばして読めるんですね。それも、「そう読め」と教わるわけでもなく、自然にそうなる。

『体メンテ』より(©崎田ミナ)
『体メンテ』より(©崎田ミナ)
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崎田:はい、それでいいと思います。

 そうやってやり方を覚えてから、改めて読むとディティールもがっつり描いてあるので「なるほど」と納得したり、「だったらこういう効果が欲しいなら……」と、考えを広げたりして使います。情報量が基本的に多くて、それを飛ばし読みもできるぐらいの密度で描いてある。

崎田:はい、一応視点の誘導とかも考えています。

 もちろん、読むほうとの相性もきっとあるんだとは思うんですよ。マンガだと思って読むと、異様に情報量が多くて「うわあぁ~」と圧倒される方もいるでしょうし。

崎田:そうですよね。やっぱり合う人と合わない人がいると思います。すっきり分かりやすい本って、いま、書店さんにいっぱい並んでると思うんですけど、それに慣れている方が読むと「なに、これ!」みたいな感じになっちゃうかなとは思っています。そんな売れ筋とは違う、ちょっといぶし銀なものを作ってしまったかなと思ったんですけど(笑)。

読者のみなさんに育ててもらいました

 そういう意味では理屈が大好きで、でも読者としてはわがままな読み手であるおっさんの私には「おらぁ読みてぇとこしか読まないけど、いいかい?」みたいな感じで、ちょうどぴったりはまったのかもしれません。

崎田:ありがとうございます。でも、全部自分でできたことではないんです。

 ツイッターに投稿し始めてから反応を見ていると、自分がけっこう簡単だと思っていたストレッチが、「意外とみんな、ここができないんだ」とか「こういうふうに解説しても、理解しづらいんだな」ってことが分かったんですね。逆に、「これはみんなできるんだなあ」とか、「気持ちいいんだなあ」ということも分かりました。本当にいろんな意見をもらって、かっこいい言い方すると、フォロワーさんというか、読者のみなさんに育ててもらったみたいな。ちょっとかっこつけてますよね、大丈夫ですか(笑)。

 もちろん大丈夫です。

崎田:そこでどんどんどんどん追求していったら、こうなっちゃったっていう感じなんです。「いまトピ」の編集さんに、「ウェブ記事では情報が多すぎると読んでもらえない」「一発で伝えるにはこんなイラストで」と相談しながらやっていて、そぎ落とし方も工夫して、そこから伝えるのはちょっとうまくなっていったのかな、とは思うんですけど。

 読み物でもあり、マンガでもある。ハイブリッドなんですよね。悪い言い方をすれば、雑種なのかなと思うんですけど、誰でもできることじゃない。

崎田:うれしいです。だって雑種って、丈夫じゃないですか? 猫とか犬とか、長生きできるといわれますよね。長く描けるといいなと思います。

(後編に続く)

日経ビジネス電子版 2022年4月22日付の記事を転載]