自律神経研究の第一人者として著名な順天堂大学医学部教授の小林弘幸さん。小林さんは、心身のコンディションを整えるためにある習慣を実践している。それは「ダメなのが当たり前」と考えること。そう考えるに至ったきっかけは自身の不調にあった。『日めくりカレンダー 毎朝1分の整える習慣』(日本経済新聞出版)に込めた思いも交えつつ語る。聞き手は産業カウンセラーのイイダテツヤさん。
前編「
名医が実践! 調子が悪いときに意識するたった1つのこと
」
「昔の自分」と比べない
実際の病気でなくても、「以前より無理がきかなくなった」「昔に比べて記憶力や視力が悪くなった」など、かつての自分と比べて「今はよくない」と感じる人も多くいます。こんなとき小林さんはどうアドバイスしますか?
順天堂大学医学部教授の小林弘幸さん(以下、小林) そうした人に伝える言葉は1つ、「今日が一番若い。今日が新しい人生のはじまり」ということです。これは私が発し続けている大事なメッセージです。
「ゴール」を目指すのではなく「スタート」を目指して、毎日を新鮮な気持ちで過ごしてほしい。そんな思いがありますね。
その言葉は、小林さんの新作『日めくりカレンダー 毎朝1分の整える習慣』の1日目にも掲載されていますね。どのような思いが込められているのでしょうか? また、「スタートを目指す」というのは、もう少し補足してもらうとどんな意味合いになるのでしょうか?
小林 例えば、誰でも年をとると若い頃はできていたことができなくなったりしますよね。見た目が若い頃より衰えていると感じて、ショックを受けることもあるでしょう。
でも、そんなふうに「過去」にとらわれていると、どうしても「人生の終わり」に向かって生きているような気持ちになりますよね。日々、年老いて、できないことが増えていく。どんどん終わりに向かっていく。そんなイメージです。そんな気持ちで過ごしていると、気持ちも暗くなり、自律神経も乱れて、本当に体の調子も悪くなってきます。
確かに思い当たります。
小林 そうではなくて「今日が一番若い」そして「今日から新しい自分が始まっていく」。そう考えれば、当然「今からできること」に目が向いていきます。その気持ちが「スタートを目指すこと」であり、前向きに、はつらつと生きていくコツだと私は思います。
「自分が自分でない」状態に
小林さん自身が特に「今日が新しい自分の始まりだ」と意識するのは、どんなときですか?
小林 正直、日々、毎日そう思っていますよ。
毎日ですか?
小林 本当にそうなんです。実は2022年の年末に左腕に炎症が起こり、手術をしてから、ずっと調子が悪かったんです。腕の調子だけでなく、しばらくの間、脳の働きがよくないと感じる状態が続いていたんです。
今はほぼ問題ないのですが、ここ1年半くらい「自分が自分でない」そんな感覚が続いていました。一番は言葉がうまく出ないこと。人と話していても、以前のようにスッと言葉が出ないんです。
特に私は取材を受けたり、講演会など人前で話したりする場面も多いのですが、どうしても以前の自分のようにはいかない。以前の私を知っている人から「小林さん、大丈夫ですか?」と言われることもありました。
そうだったんですか。それはとても驚きました。小林さんといえば、さまざまなメディアに出演されて、話が分かりやすく面白いので「しゃべりが達者な医師」のイメージがあります。小林さん自身、自分が自分でないような状態になったとき、どんなお気持ちだったんでしょうか?
小林 以前のようにはできないのですから、不安がまったくないといえば嘘になりますが、比較的、冷静に自分の状態を受け止めていました。「今は恥をかくとき」くらいに思って、できるだけ人前にも出るようにしていました。
「今日」から始まる新しい人生
人前に出る仕事はセーブするという手もあったと思うのですが、そうはしなかったということですか?
小林 人前に出ないようにすることで状態がよくなるならそうしますが、そんなことはありません。だったら少しでも状態がよくなるように、今、自分にできることをできるレベルでやって、一歩ずつでも前進していく。そんな思いを持っていました。
だから、人前にも出ていきますし、普段だったら話しかけないような周囲の人にもどんどん声をかけたり、それこそ、階段を一段飛ばしで上ってみたり、苦手な食材でも食べるなど、どんなことでもチャレンジしました。
それってすごい精神力のように感じるのですが、どうしてそんな発想になれたのでしょうか?
小林 それこそ「今日が新しい人生のはじまり」というか、常に「新しい自分」をつくっていくような感覚を持っているからです。例えば、年齢を重ねたり、病気やケガで以前のように体が動かないとき、きっと多くの人が「どうしたら以前のようにできるだろう」と考えるのではないでしょうか。
でも、それだと「過去の自分」に戻ろうとしていますよね。私の発想は違って、どんな状況でも、その時点からまた「新しい自分」をつくり出していく。そんなイメージです。まさに今日から新しい人生が始まるわけです。
自分がカッコイイと思える自分である
どんな状況からでも「常に新しい自分をつくっていく」というのは、とても大切なメッセージだと感じました。それにしても、不調を感じる状況でさまざまな活動をなさるのは勇気がいるように感じるのですが、正直、どんな心持ちだったのでしょうか?
小林 確かにもう少し若い頃なら「カッコ悪い自分を見せたくない」「カッコつけたい」と思っていたと思います。別の言い方をすれば「他人からどう見られるか」をすごく意識していました。
でも、この年になると「他人からどう見られるか」より「自分がカッコイイと思える自分でありたい」。そんなふうに思うんです。
「自分がカッコイイと思える自分でありたい」は、すごくいい言葉ですね。
小林 本当にそれが大事だと思うんです。だから、逃げたり、隠れたりするのではなく、「今は恥をかくとき」と思ってどんどん出ていく。そんな自分の方が、自分自身はカッコイイと思えますから。
いやあ、それはめちゃくちゃカッコイイです。
「ダメなのが当たり前」と思えば楽になる
小林 今回の「日めくりカレンダー」に「流れに身を任せてみる」という言葉を入れましたが、「あんまりバタバタしない」というのも自分の感覚の中にはありました。
もちろん、自分でできることは何でもやって、少しでもよくなるように努力はしますが、状況自体は冷静に見つめて、あまりバタバタしない。大きな意味では「流れに身を任せている」。そんな感じもあるんです。
小林さんの言葉はすごく心に響くのですが、現実に考えると「うまくできない、うまくいかない」と感じる日が続いたら、どんどん気持ちが暗くなってしまいそうです。そのあたりはいかがでしょうか?
小林 気持ちが暗くなることも、確かにあるとは思いますが、たいていのことは「ダメなのが当たり前」と思ったほうがいいですよ。実際、私はいつでも「ダメなのが当たり前」と思っています。「うまくいかない」と嘆くのではなく、それは当たり前。
だから、ちょっとでもうまくいくために何をしようか。そうやって小さなチャレンジをしていきますし、小さな達成感を感じながら生きていく。そして、以前の自分に戻ろうとするのではなく、常に新しい自分をつくっていく。
そんなふうに私は日々を過ごしていますし、ぜひ皆さんにも取り入れてほしい考え方だと思っています。
取材・文/イイダテツヤ
シリーズ累計43万部突破『整える習慣』『リセットの習慣』『はじめる習慣』から31日分の言葉を厳選。めくるたびに毎日をスッキリ元気に自分らしく生きられる「日めくり」です。寝室やリビングにかけて、職場のデスクの上に置いて、朝の習慣に取り入れてみてください。
小林弘幸著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)


