小児科医の「ふらいと先生」こと今西洋介さんと、ハーバード大小児精神科医の内田舞さんが、それぞれ育児に関する新刊を著しました。今西さんの『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実 親子の身体と心を守るエビデンス』も、内田さんの『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』(いずれも日経BP)も、子育てに悩む親への温かなメッセージにあふれた書籍です。本を通じて伝えたかったことについて語り合う後編は、子どものスクリーンタイムについて。それぞれ3児の親である今西さん・内田さんは、家庭でどのようにスマホやタブレットと向き合っているのでしょうか?

「スクリーンタイムゼロ」は現実的に難しい

内田舞さん(以下、内田) スマホやタブレット、携帯ゲーム機との付き合い方は、親御さんたちから関心の高いテーマの一つです。私の本でもかなりのページ数を割きましたが、今西先生も取り上げていますね。

今西洋介さん(以下、今西) 長時間のスクリーンタイムが、子どもの発達に悪影響を及ぼす可能性があることは、多くの研究で指摘されています。ただ、スクリーンタイムといってもいろいろあって、子どもだけでぼーっと画面を見ているのはあまり良くありませんが、例えば親と一緒に画面を見ることで会話が生まれていたりすると、悪影響はやわらげられるという研究もあります。

 それに、僕自身も子育てをしていて実感していますが、子どものスクリーンタイムをゼロにするのは不可能に近いです。米国小児科学会は、2歳未満にスマホやタブレットなどを見せるべきではないと言っていますし、2歳から5歳までは1時間以内に抑えるよう推奨していますが、いくら私たち医療者が親御さんたちに「子どもに悪影響があるからやめましょう」と言っても、育児の現実を考えると難しいと思います。

 科学的なエビデンスは重要ではありますが、それをそのままで伝えると、「私にはできない」「子どもに悪影響があることをやってしまった」と、傷ついたり自分を責めたりする親御さんもでてきます。ですから、特に育児に関するエビデンスは、個々の事情や社会的な事情も加味して、バランスを取りながら伝える必要があると思います。

子どものスクリーンタイムをどうにか減らしたいと悩む親御さんは多い(写真:Seventyfour/stock.adobe.com)
子どものスクリーンタイムをどうにか減らしたいと悩む親御さんは多い(写真:Seventyfour/stock.adobe.com)
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「エビデンス」は完璧ではない

内田 その通りですよね。また、私は最近、「エビデンス」という言葉が独り歩きしているようにも感じています。

 エビデンスというのは、「大勢の人の間でこういった傾向がある」ということを示すものです。例えば、「この薬はこの疾患に効く傾向がある」というエビデンスがあっても、それはその薬が「必ず効く」ことを表しているわけではありません。ですから、「エビデンスを見ると、あなたのお子さんの疾患にも効く可能性が高いから、まずは使ってみましょう」というところから始めます。もちろん、効かない場合もありますから、その子の様子を観察しながら、効くものを探していく必要があります。

 育児も同じです。エビデンスがあるからといってすぐに信じて「効果があった/なかった」と一喜一憂して終わりではなく、自分の子どもに合うか合わないかを判断し、試しながらその子に合ったやり方を探さなくてはなりません。

今西 内田先生は、子どもたちのスクリーンタイムには、どんな風に対応していますか。

内田 私も、スクリーンタイムが子どもに悪影響を与えるというエビデンスは見ていましたし、我が家で子どもたちがタブレットでゲームをしたいと言い出したときは、「本当に大丈夫なんだろうか」「一度始めるとやめられなくなるのではないか」「オンラインゲームの中で悪い人に声をかけられたりして、良くないことが起きたりするんじゃないか」と心配になりました。

 それで、約束ごとを決め、おそるおそる子どもたちにゲームを許したのですが、意外にも、ゲームが長男と次男の関係をぐっと近づけてくれた面もありました。

 10歳の長男と8歳の次男は、小さいころは仲良く一緒に遊んでいたのですが、大きくなってくると1歳半差という年齢差による身体的な力の差の影響も出てきて、摩擦が起きたりケンカをしたりすることも増えていました。しかし、マインクラフトなどのゲームを始めると、「こんなのを作ったから見てみて」「新しい機能が加わったよ」など、協力しながら一緒に楽しむようになったのです。

 そんな風に、ゲームが兄弟関係を救ってくれた様子を見て、「『悪影響がある』というエビデンスだけを見て恐れてばかりいてはいけないのかもしれない」と思うようになりました。

親が「おしまいだよ」と言ったらやめるルールにしている

今西 それぞれ家族構成や環境、子ども一人ひとりの個性も違いますから、一概に「スクリーンタイムはダメ」とは言えないのでしょうね。

 スマホは今や、生活インフラになっていますし、便利で良い面もあります。我が家にも思春期の娘がいますが、「スマホは絶対にダメ」ということではなく、時間制限をしたりしながら、うまく付き合っていくための練習を一緒にしているという感じです。

 エビデンスはもちろん頭の中に入れておきつつ、それに囚われすぎずにメリット、デメリットを考えて判断する必要があるのでしょう。バランスを取りながら、それぞれの家庭でオリジナルのルールを作っていくことが大事なのではないでしょうか。

内田 我が家では今のところ、親が「もうおしまいだよ」と言ったらすぐにやめるというルールにしています。例えば、「習い事に行く時間だからもうやめて」と言ったら、問答無用でおしまいです。家族で外出するときなども同様です。

 言われてもなかなかやめられない、ということになると、もっと厳しい制限をかけなくてはならなくなります。「それはママもイヤだし、あなたたちもイヤだろうから、パパやママがお願いしたときにはちゃんとすぐにやめてね」と言っています。「私たちはあなたたちを信頼したい、だから私たちを信頼させるような行動をとってほしい」と伝えて、子どもたちにも責任を持たせています。

スクリーンタイムに一方的な制限をかけるのではなく、あらかじめ親子で話し合い、スマホなどの利用についてルールを決めることが大切(写真:chuugo/stock.adobe.com)
スクリーンタイムに一方的な制限をかけるのではなく、あらかじめ親子で話し合い、スマホなどの利用についてルールを決めることが大切(写真:chuugo/stock.adobe.com)
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SNS上で人と比べる必要はまったくない

今西 それはとてもいいやり方ですね。頭ごなしに制限をかけるのではなく、コミュニケーションをとって信頼関係を築きながらルールを一緒に作っていく。SNSについてはどうですか?

内田 うちの子どもたちはまだ10歳以下なので、SNSはやっていないのですが、SNSについては話しています。

 SNSは、みんなが「見せたい自分」を見せようとする場です。「見せたい自分」を持つのは悪いことではないし、誰かから「いいね」をもらいたいと思うのも自然なことです。でも、「画面に映っている姿は、その人のすべてではない」ことを、忘れてはいけないと伝えています。誰かのSNS上の姿と自分を比べることも、する必要はない、気にすることではないとわかっていながら、人間なので、してしまうものです。でも、それはその人の一部しか見えていないことなので、現実的な比較ではないんだよということも話しています。

 それから、SNSを運営している会社は、誰が何を見るか、どんなものに反応するかをよく研究しています。ゲーム会社も同様で、私たちがお金を使いたくなるような仕掛け、ゲームから離れたくなくなるような仕掛けをたくさん埋め込んでいるんだと説明しています。

 特にアメリカの思春期の子どもは、大人から自分の行動をコントロールされることを嫌うので、「企業の思惑に乗って、カモになるのはイヤでしょう?」と、プライドをくすぐるのは、結構効果があるように思います。

親がロールモデルにならなくてもいい

今西 それは上手なやり方ですね。ただ僕の場合は、自分自身がSNSに漬かっているところがあるので、娘にうまく話せるかな(笑)。長女には「ちょっとXを見過ぎなんじゃない?」と言われているくらいなので。

内田 そうなんですね(笑)。でも、「僕もちょっとSNSをやり過ぎかもしれないと思っているんだ」と、悩んでいるところを見せるのもいいんじゃないかと思いますよ。必ずしもロールモデルにならなくても大丈夫なのではないかと。

 それから私は、SNSで発信することへの先生の思いを、お子さんたちにもぜひ知ってもらいたいです。「なぜ投稿しているのか。情報発信にどんな意義を感じているか」を、お嬢さんたちともシェアしていただけるといいのではないでしょうか。

 育児の偽情報や誤情報によって苦しめられてる人たちに科学的な発信を届けたい、だれかのためになりたい、という根本の思いは、SNSを使う・使わないとは関係なしに、子どもたちに受け継いでもらいたいですからね。

今西 本当にそうですね。対談のはずが、なんだか内田先生に相談に乗ってもらっているみたいになってきました(笑)。心がとても楽になりました。これで明日からも頑張れます。

内田 今西先生は、いつも素晴らしい情報発信をされているので、ぜひ続けてほしいです。

今西 ありがとうございます。励みになります。ぜひやってみます。

文/大井明子