歌舞伎町のNo.1ホスト⇒アパレルで起業、倒産⇒路上画家に⇒ガーナの“電子機器の墓場”で「資本主義の闇」を目の当たりにする――ここから美術家・長坂真護さんの快進撃が始まります。スラム街初の私設学校、美術館、そしてリサイクル工場をつくり、実体験から導き出した「持続可能な資本主義」とは? 上野の森美術館で展覧会が開催(11月6日まで)されるなど注目を集める長坂さんの新刊
『サステナブル・キャピタリズム 資本主義の「先」を見る』
からご紹介します。
年間8億円を売り上げる画家になれたのは…
「ほんの数年前まで、僕はスマートフォンやタブレットなどのガジェットを転売する“せどり”で生計を立てる年収100万円の路上画家だった。それが一転、2021年にはアート作品が年間約8億円を売り上げた。世界が一変した理由はただ一つ。サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)という概念を考え、それに沿った行動をしたからだ」
17年、美術家・長坂真護は、世界最大の電子廃棄物処理場であり「電子廃棄物の墓場」といわれるガーナのアグボグブロシーを訪れた。先進国から毎年25万トンもの電子ゴミが持ち込まれ、たまった量は東京ドーム32個分。その地域で暮らす住民は、電子ゴミを燃やして残った金属を売り、1日12時間働いて500円の賃金で暮らしていた。長坂はこう振り返る。
「そこで目にしたのは、資本主義のつくり出した闇の世界。僕がせどりで稼ぐ道具にしていた電子機器が、その後アグボグブロシーに不法投棄され、燃やされることで発生する有毒ガスなどによって、現地の人々の命を縮めているのかと思うと自分を恨みたくなった。この現実に目を背けてはならない。だが、一介の絵描きにすぎない自分に何ができるのか――」
そして、こうひらめいた。
ガーナに捨てられた先進国の電子ゴミ⇒アート作品に
「電子ゴミを使ってアート作品を作り、その売り上げを彼らに還元できないか。電子ゴミを作品にすれば、先進国の人々がガーナの現状をリアルに知ることができるし、ゴミも減る。一石二鳥だ」と。
ここから、長坂の快進撃が始まった。有害物質ガスマスクを届けるために何度か現地を訪れ、そのたびに電子機器などの廃材を日本に持ち帰り、ゴミを使ったアート作品を作り続けた。18年にはたった1日だが「美術は人を救うためにある、ガーナのスラム街を訪れて」と題した個展を開催。そこで、ガーナの子どもをモチーフに描いた作品に1500万円の値が付いた。
「なぜ、ゴミを使った作品にこれほどの高値が付いたのか。寝ずに一晩中考えた。それでも答えが分からず、もしかすると『夢を見ているのか』とも考えたが、これはちゃんとした現実だ。考えに考え抜いて、この“価格のからくり”が分かった」
そして、すべて自らの行動から導き出した概念「サステナブル・キャピタリズム」にたどり着く。この概念に基づいて行動することで、長坂はこれまでにアート作品で総額10億円以上を売り上げる美術家になった。そして、自分の取り分は作品の売り上げの5%と決め、大半をアグボグブロシーの人々へと還元する活動を続けている。長坂の説く持続可能な資本主義とは一体どんなものなのだろうか?
[日経xwoman 2022年9月20日付の記事を転載]
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⇒(下)スラム街を救う美術家・長坂真護 持続可能な資本主義とは?
■ガーナのゴミを10億円に変えるカラクリ ーー 長坂流「相対性理論」
■「行動し続けること」で導き出した、持続可能な資本主義論
■スマートシティを作るために考えたSPAC(特別買収目的会社)でのロンドン市場への上場
長坂真護著、吉井妙子構成/日経BP/1870円(税込み)
構成/日経xwoman編集部 写真提供/MAGO CREATION