12月は、1年の終わりに寄付について考える寄付月間。寄付は人と人、人と地域を結び付け、無限のエネルギーを生み出している。書籍 『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』 (渋澤健、鵜尾雅隆著/日本経済新聞出版)より、寄付がもたらす社会的な価値を紹介する。

寄付市場は拡大の一途

 みなさんは、寄付をしたことがありますか。「ある」という人は、おそらく「赤い羽根共同募金」や「歳末たすけあい運動」、またはコンビニのレジ横の募金箱などに、お金を入れたという人だと思います。

 寄付についてどれくらいご存じですかと聞くと、よくわからないという人が多いかと思います。募金箱に入れたお金が、どこでどのように使われたか知らない、という人もたくさんいることでしょう。

 それでも、日本の寄付市場は今、拡大の一途をたどっています。そこにはどんな背景があるのでしょうか。

 寄付市場の拡大を数字で見てみると、2010年の個人寄付総額は4874億円だったのに対し、2016年は7756億円と、3000億円もの伸びを見せています(「寄付白書2017」より)。寄付者の比率も、2010年の33.7%から、2016年には45.4%と10%以上の拡大となっています。

 この拡大の背景にある大きな要因としては、2011年に起きた東日本大震災があります。地震と津波、そして福島第一原子力発電所の事故によって、1万5894人の方が尊い命を落とし、多くの方が家や仕事を失うことになりました。いまだに3万人以上もの方が避難生活を送っていることは、みなさんもご存じのとおりです。

 この震災時に、寄付をしたという人も多かったと思います。2011年の個人寄付総額は1兆182億円、寄付者率は68.6%と、過去類を見ないほどの高い数字となっています。お金だけではなく、物資を寄付する人、ボランティアとして何かできることはないかと考えた人、実際に現地に赴いて行動した人も多く現れました。個人だけでなく、多くの企業が被災地に寄付金を送りました。

行政だけでは解決できない課題が増加(写真/shutterstock)
行政だけでは解決できない課題が増加(写真/shutterstock)
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 こうした民間の動きは一過性ではないかと言う人もいます。実際にこの年がピークの数字にはなりましたが、それでも2012年以降、日本の寄付総額・寄付者率は震災以前と比べて格段に上がってきているのです。

 また、被災者支援だけでなく、保健・医療や、子ども・青少年育成、国際協力や町おこしなど、さまざまな分野に目を向け、貢献しようと寄付をする人が増加しています。

 それは裏返せば、財政赤字が膨らむ日本において、税金だけに頼らない社会課題解決の必要性に、多くの人が気づき始めたからとも言えるのかもしれません。

 高齢者、子ども、障がいのある方々など、それぞれが抱える困難に、行政は十分にお金を回していない。そうした不満や不安を抱える人が多くなっているのが現実で、ゆえに「自分たちの力で何とかしなければ」という意識が芽生えつつあるのが、今なのかもしれません。

 現在、日本では多くのNPO(民間の非営利組織。特定非営利活動法人や社団・財団法人などを含む)が社会問題の解決に向けて活発に動いています。たくさんのボランティアが活躍した1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、1998年に成立・施行されたNPO法(特定非営利活動促進法)。これ以降、特定非営利活動法人の認定数は年々増え続けています。

 2008年に施行された公益法人制度関連3法の制定により、社団法人・財団法人も格段に設立しやすくなりました。さらには、社会起業家と言われる新しいプレーヤーが、これまで行政がやってきた役割、あるいは行政がやるものと思われてきた役割をどんどん代替して担い始めています。

 しかし、こうした新しいプレーヤーたちに立ちはだかるのが、お金の問題です。十分な活動資金が集まらず、経済面で行き詰まり、活動を縮小・停止せざるを得ない団体は少なくありません。実際に現場でプレーヤーとして動くことは難しいけれど、彼らの活動を支え、社会課題の解決をともに目指すには、何をすればいいのか。それが、寄付という行動です。

寄付から生まれる「つながり」

 寄付という行為は、ただ「社会問題を自分たちの手で解決しよう」「誰かを助けよう」という一方的な働きかけではなく、寄付による結果が自分に跳ね返ってきます。その結果は目に見えにくいものですが、大きな幸福感を私たちにもたらします。

 自分の持っているお金で100円の飲み物を買えば、その飲み物によって欲求が満たされたり、幸福感を得られたりという100円分の価値が感じられるでしょう。ですが、同じ100円で寄付をしたときには、その価値を2倍、3倍と膨らませることができる可能性があります。あるいは将来的に、永久に続く価値を生み出すこともできるのです。

 東日本大震災で被災した町のひとつに岩手県陸前高田市があります。ここでは町の人々に親しまれていた図書館が全壊し、図書館員の方々も行方不明やお亡くなりになりました。

 この町で、「心の診療所」として仮設住宅の中に図書室を作ろうと動く方がいました。資金をクラウドファンディングで集めたのですが、数日で目標額を達成。最終的には800万円を超える支援が集まり、図書館は住民たちの憩いの場となりました。

 クラウドファンディングとは、インターネットを使ってお金を集める方法です。寄付をした人には、金額などに応じてリターンがあります。この 「陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト」 のリターンには、1万円以上の寄付者には、希望の本1冊に名前を入れて、蔵書として図書館に収めるというものがありました。

 こうしたリターンがあると、何が生まれるのでしょうか。それは、寄付者と地域との「つながり」です。自分の思い出の本、思い入れのある本が、被災地の図書館に自分の名前入りで置かれると、その地に足を運んでみようという理由ができます。

 そうして訪れた人が、その地域に宿泊し、食事をとり、お金を落とします。足を運んだ人は、さらにその地に思い入れができ、現地の人とつながり、人生が豊かになる。足を運ぶところまでいかなくても、一度寄付して終わりではなく、「あの図書館はどうなっているだろう」「自分の本はどうなっただろう」と、ときどきその地に思いを馳(は)せることができます。

 「つながり」は、人と人、地域と人を結ぶという現在の軸だけではありません。たとえば、寄付によって運営されている学習支援団体で勉強を教えてもらった子どもが、大人になったときにまた別の学習支援団体を主宰したり、また別のボランティアに参加したりして恩返しをする。そういった未来への「つながり」も、実際に各所で起こっています。

寄付は「つながり」を生む(写真/shutterstock)
寄付は「つながり」を生む(写真/shutterstock)
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 寄付は、足し算の効果に留まることなく、掛け算の効果が期待できます。だからこそ、低成長になって、高齢化が進み、税収増だけでは社会の課題解決を期待できない多くの先進国で、寄付の役割が改めて注目されているのです。

寄付がもたらす無限のエネルギー

 私は寄付に関わる中で、実際に寄付が生み出している面白い価値に遭遇しています。ひとつのお金の移動は、次のようにいくつもの価値を生み出しています。

(1)NPOの人たちのヤル気を生み出す
 NPOなどの方は「寄付でもらう1万円と、補助金でもらう1万円は違う」と言います。寄付でもらう1万円には、支援者の想いがつまっている気がして、頑張ろうという意欲がものすごく湧くそうです。「ヤル気」を生み出すという付加価値が生まれます。

(2)支援の対象者が頑張る
 途上国で貧困者向けの職業訓練をしているNPOの人に聞いた話なのですが、支援している貧困者の人たちがサボったりする問題があったようです。ある日、この活動が1000円、2000円の日本人の寄付が積み重なって実現しているという話をすると、急にみんな頑張り始めたそうです。これまで国連か政府のお金が入っているんだろうくらいに考えていたのが、そうした一人ひとりの応援が原資なら、意気に応えようという空気になったそうです。

(3)支援者が学ぶ
 寄付する側も、寄付先の団体とのつながりができて、活動報告を受けたりする中で、「地域にこんな問題があるのか」「こんな関わり方があるのか」ということに気づいて、もっと自分らしく支援をする方法を考え始めるきっかけになったりします。

(4)支援者が支援者とつながる(共感が連鎖する)
 寄付した人が、その体験を話したり、シェアすることで、その人の友人や仲間がその課題に気づいたり、寄付に参加したり、いろんな連鎖が生まれます。共感が「わらしべ長者」のように連鎖して、いつしかその課題を解決する力のある人が行動するきっかけになったりします。

 このように寄付の生み出す特別な価値は興味深いと思います。通常の買い物だと、1のお金を支払って、1のモノかサービスが返ってきます。ここには基本的に1対1の関係があります。

 しかし、寄付には、1のお金が動くことで、何倍もの社会的な価値が生まれていく可能性があります。これが、「寄付は無限エネルギーを生み出す」ということの意味です。

寄付は「未来への一票」だ!

なぜ、寄付をしたほうがいいのか、どんな分野に寄付金が必要とされているのか、数ある中から寄付をする先をどう選べばいいのか。なんとなく寄付に関心があるけれど、一歩を踏み出せないでいる人必読の寄付入門。

渋澤健、鵜尾雅隆著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)