2024年11月6日・7日、「東京版権説明会2024」が東京都新宿区で開催されました。日本の出版社が自社の本を海外に売り込むため、海外の出版関係者と翻訳出版の交渉などを行う説明会です。世界11の国と地域、92社の出版関係者が参加し、過去最大規模となりました。この説明会の狙いや海外で売れている日本の本について、東京版権説明会会長の柳澤康信さんに聞きました。
2社で始めた取り組みが参加社92社に
今回の東京版権説明会には、日本国内から76社の出版社が出展しました。来場者は世界11の国と地域、92社の出版関係者で、2日間でのべ約320人と盛況でした。韓国、中国、台湾といった今まで日本の本の翻訳出版でなじみのある国・地域だけではなく、東南アジアや欧米など世界各国から出版関係者が来日し、国際的な広がりが見られました。
もともとこの東京版権説明会は、2015年にダイヤモンド社と毎日新聞出版の2社でスタートしました。当時は毎年、東京国際ブックフェアが開催されていたのですが、版権を交渉できる場が少なかったんですね。そこで、せっかく同フェアに合わせて海外から出版社や翻訳エージェントが来るのであれば、ダイヤモンド社と毎日新聞出版の2社だけでも「試し読みから版権交渉までワンストップでできる場をつくろう」ということで、同フェアの開催期間に合わせて別会場で版権説明会を行いました。
それが好評を博し、日経BPや東洋経済新報社など他社にも声をかけ、参加社は2017年には26社、2019年には57社に拡大します。ただ、新型コロナウイルス禍で2020~2022年は中止となりました。その後、2023年に再開しようとしたのですが、私と毎日新聞出版の担当者がボランティアで対応できる規模ではなくなっていました。
東京版権説明会会長
何しろ数十社が参加しますから、全員が入れる会場探しから事前の案内、当日の手配と膨大な手間がかかります。以前は開催費用もダイヤモンド社が一括で立て替え、後から等分に割った金額を各社に請求していたのですが、57社に請求書を出し、各社の入金を確認するのも経理部にとっては大変な作業です。当時は私が別件で経理部に行っても、みんなからイヤな顔をされていましたね(笑)。
しかし、この東京版権説明会を絶やしたくない、どうすべきかと悩んでいたところ、2023年から出版文化産業振興財団(JPIC)の支援を受けられることになりました。東京版権説明会は、各社が個別に対応するのではなく、出版業界全体で盛り上げていくという次のフェーズに入ったのだと感じます。
韓国、台湾はコンテンツ輸出に注力
今回の東京版権説明会は過去最高の参加社数、来場者数となりましたが、やはり各国とも国内の出版市場が縮小しており、他国に収益獲得の手段がないかと探している面が大きいと思います。
これまで日本は、国内で刊行された書籍を中国や台湾、韓国で数多く翻訳出版してきたのですが、今後はそう簡単にはいかないだろうと感じています。韓国ではハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞し、出版業界が活気づいています。K-POPや韓国カルチャーの輸出を後押しするために政府が手厚い支援をしていますので、今後は日本と韓国のコンテンツが競合していく時代となるでしょう。
台湾も、今回の東京版権説明会に台湾のコンテンツの産業化・国際化を促進する独立行政法人、台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が出展し、漫画をはじめとしたコンテンツの紹介に力を入れていました。
今までは漫画やアニメというと「日本が一番」と思っていたかもしれませんが、日本の制作会社はアニメの原画を中国や台湾、韓国に発注することが増えています。そのため、海外のアニメーターがすごく力をつけてきており、今後は強敵となるはずです。
日本の出版社も1社だけではコンテンツに限界がありますが、今回の東京版権説明会のように何十社も集まれば、紹介できるコンテンツは何千タイトルにもなり、児童書からビジネス書、文芸まで幅広いジャンルがそろいます。「日本にはこんなに面白い作品があるのか」と知ってもらえるいい機会になったのではないかと思います。
海外で人気の日本の書籍は?
では、実際にどのような日本の書籍が海外で人気かというと、ベトナムでは、人口構成比で若者が多いため、共働きの夫婦に教育関連の本などが読まれています。
中国では近年、自己啓発書や人間関係、コミュニケーション術の書籍が人気となっています。中国も社会が成熟し、「人よりいい大学、いい会社に入り、競争に勝ち抜くことが幸せではない」「会社のための人生ではなく自分のための人生だ」と人々が気づき始めたのかもしれません。その影響か、著名経営者に学ぶタイプのものや、有力企業の経営を知るための本はタイトル数が少なくなってきました。一方、中国は経済が減速しており、かつての一人っ子政策の影響で少子化が進んでいますから、「バブル崩壊から日本はどう立ち直ったか」といった書籍が読まれています。
韓国は李明博(イ・ミョンバク)大統領(在任期間2008~2013年)のときに景気が回復し、今や1人当たりGDP(国内総生産)も日本を上回りそうになっています。K-POPをはじめとしたコンテンツにも勢いがありますから、現地の出版社の人と話していても「もう日本から学ぶことはないかな」といった雰囲気を感じます。日本のビジネス書はなかなか売れなくなっていますね。
ただ、少し明るい話をすると、今回の東京版権説明会にはロシア、フランス、スペイン、マレーシア、ウズベキスタンの出版関係者が初参加しました。これを機に日本の書籍の魅力を知り、翻訳されて読まれることも大いにあり得ます。
海外でベストセラーになった日本の本
日本の書籍が海外で翻訳出版されて成功した例を挙げると、サンマーク出版の『 コーヒーが冷めないうちに 』(川口俊和著)は43言語46カ国で発売され、アメリカとイギリスではミリオンセラー、シリーズの世界累計は670万部に達しています。同じくサンマーク出版では、稲盛和夫さんの『 生き方 』は17言語に翻訳され、中国で630万部、世界累計で784万部も売れています。
また、ダイヤモンド社の『 嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え 』(岸見一郎、古賀史健著)は日本国内で311万部のベストセラーとなりましたが、世界でも40以上の言語に翻訳され、全世界で1200万部を売り上げています。これらの例からも分かるように、日本の出版社と書籍には大いにチャンスがあるはずです。
日本の書籍を世界で発売するためには、現地の出版社や翻訳エージェントが検討できるように英訳版が必須です。手間とコストはかかりますが、ひとたび英訳されれば、さまざまな国に広がりやすくなります。今後はアジアだけではなく、欧米との契約をいかに増やしていくかが鍵となるでしょう。
考えてみれば「出版」という業界は18世紀ごろからビジネススタイルが大きく変化していませんから、変化の激しい他の業界と比べたら衰退していくのは当然かもしれません。日本国内だけではなく海外への展開、書籍だけではなくドラマ化や映画化も視野に入れたコンテンツ作りなど、新しい取り組みをしていかねばならないと思います。東京版権説明会がそうしたチャンスをつかむ場となれば、うれしい限りです。
取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子



