2024年11月6日・7日、日本の出版社が自社の本を海外に売り込むため、海外の出版関係者と翻訳出版の交渉などを行う「東京版権説明会2024」が東京都新宿区で開催されました。同会に来場していた韓国の出版関係者と、同会に出展した「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)」の関係者に取材し、それぞれの国で売れている日本の本などについて聞きました。

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韓国ではショウペンハウアーがブームに

 韓国の出版社、Sam & Parkersで企画開発部門長を務めるカン・ソラさん、同社海外版権チームのベ・へリムさんと、韓国の海外著作権仲介専門エージェント、ダニー・ホン・エージェンシーのキム・ヨンヒさんにインタビューしました。

 Sam & Parkersは2006年設立。経済経営、自己啓発、人文、実用、小説がメインジャンルで、ベストセラーを生む出版社として知られています。ダニー・ホン・エージェンシーは2005年設立で、年間600冊以上の本を仲介する韓国を代表するエージェンシー。近年は韓国語書籍の日本への版権輸出にも力を入れています。

東京版権説明会に参加されたのは今回が初めてですか。

Sam & Parkersのベ・へリムさん 新型コロナウイルス禍などがあり、今回は4年ぶりの参加でした。久しぶりにいろんな出版社の方に会い、たくさんの本に触れられてよかったです。今回はロシアやインドネシアなど多くの国が参加し、これからもっとグローバルなイベントになっていくのではと感じました。

韓国でも日本の本がさまざまに翻訳出版されています。以前と比べて、日本の本の売れ行きはどうですか。

ベ・へリム 日本の本が以前と比べて売れているか、売れていないかは一概にはいえませんが、トレンドは変わりました。以前はビジネス書が人気でしたが、今は人文書や哲学書が売れています。

 ただ、日本の本だけではなく翻訳書の市場が縮小し、代わりに韓国の作家の本が増えています。なぜかというと韓国で本が売れるには、作家のマーケティング力がものをいうんです。SNS(交流サイト)などでどれだけPRできるかが大事で、作家本人ではなくても、有力なYouTuberやインフルエンサーが推薦する場合もあります。日本をはじめ海外の作家が韓国国内でPRするのは難しいですよね。

写真左からSam & Parkersのベ・へリムさん、カン・ソラさん、ダニー・ホン・エージェンシーのキム・ヨンヒさん
写真左からSam & Parkersのベ・へリムさん、カン・ソラさん、ダニー・ホン・エージェンシーのキム・ヨンヒさん
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確かにそうですね。以前は日本のビジネス書が人気だったが、今は売れなくなってきていると。

Sam & Parkersのカン・ソラさん 以前は日本の著名経営者や有名企業の経営に関する本が人気でした。当社が翻訳出版した「商売の神様」とも呼ばれる繁盛店経営者の本『 トマトが切れれば、メシ屋はできる 栓が抜ければ、飲み屋ができる 』(宇野隆史著/日経BP。現在は日経ビジネス人文庫で販売中)も38万部を超えるベストセラーになりました。

 しかし、あくまで私の見方ですが、今は企業よりも個人のスキルに関心が向いているように感じます。以前は「会社が発展するのが私の幸せ」という考え方が主流でしたが、今は「会社よりも自分自身の成功が大事」。そのため、例えば、以前ならトヨタの経営戦略を扱うような本が人気でしたが、今は『 トヨタで学んだ「紙1枚!」で考え抜く技術 』(浅田すぐる著/日本実業出版社)のように、より個人のスキルにフォーカスした本が読まれています。

 ただ、ビジネススキル本は売れ行きにかげりも見えます。「もうスキルアップしたくない」「仕事をうまく回せるようになっても、どんどん仕事が増えるだけ」という考え方が広まっているのかもしれません。あえて「使えない人」になる必要もないけれど、そこまで会社に「自分の能力はこんなに高い」とアピールする必要もないと。ただ、もちろん個人差があり、当社の若い編集者などは「もっと仕事ができるようになりたい」と言っています。

「会社よりも個人」という考え方が広まっているということですね。ビジネス書よりも売れている人文書や哲学書というと、どんな本ですか。

ベ・へリム 主に哲学書が人気で、2023年9月刊行の『40歳に読むショウペンハウアー』(カン・ヨンス著/ユノブックス)という本がベストセラーになり、100万部を超えています。2023年はショウペンハウアーをタイトルにした本が13冊も出ました。その後、ニーチェ、カントの本が出て、日本の小池龍之介さんの翻訳本も人気です。

人気の理由は?

カン・ソラ 韓国では「生きるのが苦しい」と感じている人が多いのだと思います。「なぜ、私だけこんなに苦しいのか」と思っていたら、ショウペンハウアーが「人生は苦しみに満ちている」と教えてくれた。「苦しいのは自分だけじゃない」と一種の癒やしになったのではないでしょうか。

 韓国も日本と同じで、物価が上がり、生活が苦しくなっている人が増えています。去年は1000ウォン(約110円)で買えたお菓子が1500ウォン(約165円)に値上がりしたりしています。だからカフェでコーヒーを飲んだり、本や映画を楽しんだりする余裕がない。一方で、1杯15万ウォン(約1万6500円)もするマンゴーのかき氷を食べてSNSに投稿する人もいます。格差が広がっていると感じます。

「今は『会社よりも自分自身の成功が大事』」と説明するカン・ソラさん
「今は『会社よりも自分自身の成功が大事』」と説明するカン・ソラさん
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なるほど。ところで、韓国の出版業界というと、ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞して、活気づいていると思います。どんな本が日本で売れていますか。

ダニー・ホン・エージェンシーのキム・ヨンヒさん BTSのRMとSUGA、J-HOPEが読んでいた『 アーモンド 』(ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳/祥伝社文庫)はすごく読まれて、日本でも2020年の本屋大賞・翻訳小説部門の第1位になりました。『 82年生まれ、キム・ジヨン 』(チョ・ナムジュ著/斎藤真理子訳/ちくま文庫)も読まれましたし、BTSの薦めた本は売れるので「BTSセラー(BTS+ベストセラー)」とも呼ばれます。ほかにも学習漫画の『 科学漫画サバイバル 』シリーズ(朝日新聞出版。Amazonリンクは「無人島のサバイバル」)、『 つかめ!理科ダマン 』シリーズ(シン・テフン作/ナ・スンフンまんが/呉華順訳/マガジンハウス。Amazonリンクは「1 『科学のキホン』が身につく編」)も売れていますね。

さまざまなジャンルの本が日本で売れていて、韓国のコンテンツは勢いがありますね。

ベ・へリム そうですね。当社刊行の本でも『 夢を売る百貨店 本日も完売御礼でございます 』(イ・ミイェ著/鈴木沙織訳/文響社)などの「ドルグート夢百貨店シリーズ」が累計100万部となっています。こちらはSEVENTEENのメンバーが推薦したところ、人気となりました。私はもともと日本書籍の輸入担当だったのですが、今は韓国書籍の輸出の仕事のほうが多くなっています。韓国のコンテンツが世界で受け入れられる背景としては、K-POPなどで韓国カルチャーに親しみを持つ人が増え、また文化的、歴史的な背景を知らなくても理解できる作品が多いこともあると思います。

台湾は19社合同で作品を紹介

 「東京版権説明会2024」には、台湾のコンテンツをプロモーションする「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)」という組織が初めて出展。ブースの運営を担当した台湾東販の大城剛央さんに台湾の状況を聞きました。

「東京版権説明会2024」の「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)」の展示ブース
「東京版権説明会2024」の「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)」の展示ブース
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今回の東京版権説明会では、台湾は「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)」という組織で、19社が1団体として出展されていましたね。

台湾東販・大城剛央さん(以下、大城) TAICCAは台湾の独立行政法人で、台湾のマンガやIP(知的財産)、映像などのプロモーションを行っています。私たち台湾東販は、今回、東京版権説明会への出展で企画運営を担当しました。日本のトーハンの関連会社で、取次ではなく、出版社です。出版部門とメディア・イベント部門があり、出版と合わせてイベントやプロモーションなどを行っています。

 TAICCAでは毎年、お薦めの台湾の漫画「TAIWAN COMIC CITY」を選出しています。また、東京版権説明会はB to B、出版関係者向けですが、2024年8月にはB to C、一般読者向けに台湾のマンガを紹介するイベントを当社が企画し、TAICCA主催で、ジュンク堂書店池袋本店、ブックファースト新宿店、明文堂書店TSUTAYAレイクタウンの3書店で展開しました。

東京版権説明会に出展するのは、今回が初めてなんですね。

大城 そうです。これだけの出版社が集まり、台湾の作品を見てもらう場があるのは非常にありがたいですね。今回、「TAIWAN COMIC CITY 2024」参加の33作品を紹介しました。台湾の作品で、日本で翻訳出版されているものはまだ多くありませんが、今後は魅力ある台湾のマンガを日本に発信し、日本の出版社に版権を買っていただいて、日本の読者に届けたいですね。

ヒットしている台湾の作品にはどのようなものがありますか。

大城 『 台湾の少年 』(游珮芸、周見信著/倉本知明訳)ですね。こちらは2022年7月、岩波書店から発行されました。また、日本で活躍されている作家で、村上春樹さんの作品の挿絵も描いている高妍(ガオ・イェン)さんの作品『 緑の歌 収集群風(上)(下) 』(KADOKAWA)も注目されています。繊細なイラストで、人気があります。

『台湾の少年』をはじめ、さまざまなマンガ作品が日本で出版されている
『台湾の少年』をはじめ、さまざまなマンガ作品が日本で出版されている
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台湾の出版事情も伺いたいのですが、台湾ではどのような日本の本が人気ですか。

大城 台湾では公式な統計資料が少ないため過去との比較は難しいのですが、日本の本の翻訳本は、電子書籍も含めると出版点数としては増えていると思います。人気があるジャンルは圧倒的にマンガですね。『 ハイキュー!! 』(古舘春一作)、『 鬼滅の刃 』(吾峠呼世晴作)、『 SLAM DUNK(スラム ダンク) 』(井上雄彦作)、『 呪術廻戦 』(芥見下々作)、『 SPY×FAMILY(スパイファミリー) 』(遠藤達哉作)、『 推しの子 』(赤坂アカ×横槍メンゴ作/以上、集英社)――日本で人気の作品は台湾でも人気です。

 台湾では日本の野球のような位置づけでバスケットボールが人気なので、特に『SLAM DUNK』は親和性が高いですね。日本に旅行した際に“聖地”である江ノ島電鉄の踏切(神奈川県鎌倉市)に行く人もたくさんいます。また、アニメや映画公開された作品も人気が一気に上がる傾向があります。2024年『ハイキュー!! FINAL』が映画公開されて、『ハイキュー!! 』関連の作品は台湾の2024年のベストセラーになっています。漫画に限らず、YOASOBIの曲など日本の流行に関しては台湾にリアルタイムで入ってきています。

マンガ以外の日本の本はどうでしょうか。

大城 文芸関係も日本で人気のある作家は台湾でも人気が高いです。例えば、村上春樹さん、東野圭吾さんですね。

台湾のビジネス書はどのようなものが売れていますか。

大城 ビジネス書で人気があるテーマは、日本とほぼ同じ傾向です。欧米の本だけではなく日本の本もたくさん出版されていますが、台湾はデジタル化が進んでいるので、AI(人工知能)やデジタル分野に関してはメイド・イン・台湾の本も増えていますね。例えば、日本でも人気があるオードリー・タンさん(元台湾デジタル相)の著書です。台湾が強い半導体産業や世界最大の半導体製造企業TSMC(台湾積体電路製造)の本もたくさん出ていますね。

 また、投資や株の本も増えていますね。今は投資本がブームで、直近のベストセラー月間ランキングを見ると、20位までに4冊、投資関連本が入っています。

台湾東販の大城さん
台湾東販の大城さん
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今後、どのような事業展開を計画していますか。

大城 TAICCAとしては、台湾ではマンガなど多くのジャンルで日本の翻訳本が主流だったので、これからは反対に台湾の作品やIPの輸出に力を入れていきたいと考えています。そのため約5年前にTAICCAが設立されました。政府が推進する「匯聚台流文化黒潮計画(T-content plan)」では、2024年からの4年間で100億台湾元(約480億円)、2024年にはそのうちの30億台湾元(約140億円)を使い、台湾の文化コンテンツ産業を支援すると発表しています。強力な支援で助かっています。

文/三浦香代子 写真/鈴木愛子