文章を書きたい、アイデアを出したい、プレゼンをしたいなどアウトプットが必要なときに、うんうんうなってひねり出す必要はもうありません。メモのとり方を効率よくすればいいだけです。新刊『メモをとれば財産になる』(ズンク・アーレンス著、二木夢子訳、日経ビジネス人文庫)から、世界中で人気のメモ術、ツェッテルカステンの方法を抜粋してご紹介します。

あなたのとったメモが、そのままアイデア集になる

 想像してみてください。あなたが何か書こうと思ったとします。しかし、何もしていないのに友好的な精霊(あるいは、十分な給与をもらっている助手)が、すでに原稿の下書きを書いてくれていました。

 しかも、その下書きにはすでに主張が十分に展開されていて、すべての参考文献、引用、そしてさえわたるアイデアがそろっています。あとは、手直しして提出するだけです。もちろん、まだやることはたくさんあります。いくつかの文章を書き直したり、冗長な部分を削ったり、主張の穴を埋めるために、文や、あるいはもっと長い節を加えたりする必要があるかもしれません。

 とはいえ、これはやるべきことがわかっているタスクです。ゴールが手の届く範囲にあれば、誰でもやる気になるものです。数日のうちに終わらないことはありませんし、やる気を起こすのに苦労することもありません。すでに下書きがあれば、何の問題もありません。

 一方、あなたがこの下書きを準備しなければならない立場ならどうでしょうか。これを簡単にやり遂げるには、何が役に立つでしょうか。

 ここでも必要なすべてのもの、つまりアイデア、主張、引用、そして長く練り上げられた節に書誌情報と参考文献が目の前にそろっているとしたらどうでしょう。しかも、目の前にあるだけではなく、わかりやすい見出しのついた章の順に並んでいるのです。もしそうなら、作業は間違いなく楽になりますね。

 さて、ここでもまた、次にやるべき課題は明確です。完璧な文を書く必要も(それは他の人があとでやります)、調査をしたりアイデアを出したりする必要も(それは他の人がすでにすませました)なく、目の前のアイデアを一連の文章にすることだけに集中すればよいのです。

 この下書きをつくるときに、これまであなたがとったメモを使うでしょう。ここで、メモの半数がすでに正しく並んでいれば簡単です。

 議論のつながりや、豊富な素材やアイデアの詰まったメモのファイルがあるなら、そこをくまなく探すのは、結構楽しいものです。文を練り上げたり、難しい内容を理解したりといったときに必要となるような、全身全霊の注意力は必要ありません。

 さて、この時点でおわかりかと思いますが、あなたは精霊の登場を待つ必要はありません。メモ術「ツェッテルカステン」を使えば、これらのことができると言ったら驚くでしょうか。ツェッテルカステンは、執筆やアウトプットのためのすぐれた起点になります。

 ツェッテルカステンとは、自分のとったメモ同士を関連させながら管理するメモ術のことです。関連させることで、まるで自分の脳で考えたことが、外部に保存されているようになります。そして、メモを収納する箱(データ上ではフォルダでもOK)のことも、ツェッテルカステンと呼びます(この本では、「メインのツェッテルカステン」と呼んでいます)。

 すでにとったメモのおかげで、執筆のための手順はできています。メモを集めて順番に並べ替え、それをもとに下書きを作成し、見直せばできあがりです。

メモはあなただけの財産になる

 メモを書くのは簡単なことです。また、メモを書くことは、「主な仕事」ではありません。「主な仕事」とは、メモを書くために考え、読み、理解し、アイデアを思いつくことです。メモは、これらを形のある結果にしたものにすぎません。必要なのは、手にペンを握る(あるいはキーボードの上に手を乗せる)ことだけです。

 書くことは、考え、読み、学び、理解し、アイデアを生み出すことを最大限に促進します。アイデアについて考え、読み、理解し、アイデアを生み出すことに適切に取り組むなら、どちらにしてもペンを握りしめなければなりません。メモはこうして蓄積されていきます。

 何かを長いあいだ学びつづけたければ、内容を書き留める必要があります。そして、何かを本当の意味で理解したいなら、自分の言葉に直さなければなりません。

 メモのポイントは、自分の言葉で書くことです。

 思考は、頭の中と同じぐらい紙の上でも行えます。「紙やコンピューターの画面に書いたメモは(中略)現代物理やその他の知的試みを容易にするのではない。可能にするのだ」。

 脳科学者のニール・レヴィーは、数十年間にわたる研究をまとめた『Oxford Handbook of Neuroethics(オックスフォード脳神経倫理学ハンドブック)』の冒頭で、このように書いています。

 このことは、リチャード・ファインマンも、ベンジャミン・フランクリンも強調しています。書いていれば、読んだ内容を理解する可能性も、学んだことを覚える可能性も、意味のある思考ができる可能性も高くなります。そして、せっかく書くなら、今後本を出すときのための資料を蓄積しておくに越したことはありません。

 考え、読み、学び、理解し、アイデアを生み出すことは、ものを書く人や勉強の中心的な仕事です。これらの活動をすべて向上させるためにメモをとれば、強い追い風に乗れるはずです。賢くとったメモは、あなたを前に進めてくれるのです。

メモには「走り書き」と「文献」と「永久保存版」がある

 ここからは、メモのとり方を一部紹介します。まず、メモには、「走り書きのメモ」と「文献メモ」と「永久保存版のメモ」があります。

①走り書きのメモ

 日常生活で、「走り書きのメモ」を書きます。頭に浮かぶあらゆるアイデアをとらえるために、何かを書き留めるものを常に持っておきましょう。

 どう書くか、何を書くかはあまり気にしなくてかまいません。走り書きのメモは、頭の中に入っていることを思い出すためのきっかけにすぎません。

 コツは、1カ所にまとめることのみです。あとで処理します。

 私はたいていシンプルなノートを持ち歩いていますが、他に何もなければナプキンやレシートでも十分です。電話にボイスメモを残す場合もあります。アイデアがすでにまとまっていて、時間がある場合は、この手順を省略して、アイデアを直接、正式な永久保存版のメモに書き起こし、メインのツェッテルカステンに入れてもかまいません。これについては③で紹介します。

②「文献メモ」

 「文献メモ」を書きます。これは、何かを読んだときにとるメモです。忘れたくないことや、自分の思考、あとで文章に使いたいことなどを書き留めます。

 長さはごく短く、内容は厳選し、自分の言葉で書きます。引用する場合は、特に念を入れて選びましょう。ここで大切なのは、読んだ言葉の意味を真に理解するために、書き写すのはやめ、自分の理解で書くことです。

③メインのボックス(ツェッテルカステン)に入れる「永久保存版のメモ」

 ①と②で作成したメモをひととおり見て(言いたいことを忘れる前に、1日1回が理想)、自分自身の研究、思考、興味にどのように関係してくるかを考えながら内容を整理して書き直します。これは、先にここに入っているメモを見ることで簡単にできます。自分が興味を持てることしか入っていないからです。

 この作業は、アイデア、主張、議論を、収集するのではなく発展させることが狙いです。①②のメモから得られたあなたの新しい情報は、すでにある情報に照らして、対立するか、修正するか、補足するか、付け加えるものでしょうか。アイデア同士を組み合わせて、何か新しいものを生み出せないでしょうか。アイデアを見て、どんな疑問が浮かんだでしょうか。

 新しく思い浮かんだひとつのアイデアに対してひとつだけ、メモを書きます。そして、メインのツェッテルカステンに入れます。他の人に読んでもらうつもりで書きましょう。入れたメモは、あとはとりあえず忘れてしまってかまいません。大事な内容はすべて、ツェッテルカステンに収まります。

 紙幅の都合上ここに掲載したのは、ツェッテルカステンの一部にすぎませんが、ご興味のある方は、『メモをとれば財産になる』をご覧いただければと思います。

 実際には、ひとつのアイデアにのみ取り組むことはなく、さまざまな段階にある、多くのアイデアと同時に格闘します。そのようなときにこそ、このシステムは真の強みを発揮します。

 一度にいくつもの疑問が浮かぶことは止められません。いま取り組んでいる以外の疑問についても、将来的に考え、文章を書くかもしれません。たとえ本や文章にしなくても、メモをとる習慣は確実に自分の知的成長のためになります。作業中に出合った情報はその場で収集し、よいアイデアをみすみす捨てないようにしましょう。

世界で人気のメモ術、ツェッテルカステンについて知ろう(写真:buritora/stock.adobe.com)
世界で人気のメモ術、ツェッテルカステンについて知ろう(写真:buritora/stock.adobe.com)
メモをとれば財産になる 』(日経ビジネス人文庫)
58冊の本と数百本もの論文を執筆したニクラス・ルーマンという社会学者がいます。著作のクオリティーはずばぬけていて、専門分野以外でも古典的名著に。どうしてそんなことができたのか? 答えは、彼が編み出したツェッテルカステンというメモ術にあります。新しいアイデアを思いつきたいとき、ブレインストーミングをしたり、うんうんうなったりする必要はもうありません。メモを見ればいいだけです。真にクリエイティブになる方法をぜひ試してください! ※本書は2021年10月刊『TAKE NOTES! メモであなただけのアウトプットが自然にできるようになる』を文庫化したものです。

ズンク・アーレンス著、二木夢子訳、日本経済新聞出版、880円(税込み)