ChatGPTをはじめとする生成AIは、さまざまな業務に新しい可能性をもたらしています。Authense法律事務所では、2024年8月に『ChatGPTを使い尽くす!深津式プロンプト読本』(日経BP)を発刊した深津貴之氏をゲストに、生成AIの特徴から使いこなし方、法務業務への適用の可能性まで、最新のトピックを聞くセミナーを開催しました。モデレーターにはデジタル庁に出向経験のある亀山大樹弁護士が登壇し、実例や業務への応用方法について切り込みます。
亀山大樹氏(以下、亀山) 深津さんは、生成AIを活用するための「プロンプトエンジニアリング」の第一人者としてよく知られています。最初に深津さんには、生成AIの代表的なサービスであるChatGPT(提供元:米Open AI)について、最新のトピックを教えていただきたいと思います。
深津貴之氏(以下、深津) これまでのChatGPTというのは、「資料を見ないで答えを返す頭のいい人」という印象だったと思います。それが最近はいろいろと変化してきています。
1つが、「ChatGPT o1」で、これは目的のために考えてから答えを出します。これまでのモデルでは、すぐに回答をしてしまって間違うこともありましたが、o1では答える前に方法を考えてファクトチェックや検算などをしますので、以前よりも引っ掛け問題に強くなっています。
2つ目はChatGPTの「Advanced Voice Mode」です。これはリアルタイムで話すことができます。試してみましょう。「弁護士の練習をしたいので依頼人として相談してみてください」。
ChatGPT 「わかりました、亀山さん、こんにちは」
亀山 日本語でもそこに人がいるようにしゃべるんですね。
深津 従来のChatGPTは音声を扱うときも、テキストにしてから認識していました。このAdvanced Voice Modeでは、音声を音声のまま理解できるようになったので、反応が早くなっていますね。
3つ目が、「ChatGPT 4o with Canvas」というものです。チャット画面の横にサイド画面を出して、そこに原稿やプログラムコードなどを表示しながらAIと一緒に編集や改善ができます。たとえば、「結婚式のスピーチを考えて」と頼んだ場合、サイド画面に原稿を書いてくれて、その画面内で命令したり直接書き直したりして編集できます。AIとキャッチボールしながら作っていけるんです。
亀山 便利ですね。これは生成結果をコピー&ペーストして別のアプリで編集するよりずっと使いやすそうです。
深津 原稿を書いたり、プログラムを書いたりするときはChatGPT 4o with Canvasがオススメです。
平均点で「合格」できる作業をお願いするのがオススメ
亀山 深津さんご自身や関わっている会社では、どんな作業に生成AIを活用していますか。
深津 まず、「生成AIは確率で答えるマシン」ということを理解してください。ここが使いこなしでは大事な点です。生成AIは、多くの文章などを学習して、そこからある文章に続く確率が高い文章を作ります。すなわち、平均的な答えを出すマシンなのです。だから、平均点で合格できる作業を割り振るといいですね。誤字脱字チェックや、提示した文章の内容のまとめなどは得意です。一方で、平均的な答えを出すので、ホームラン的な思考や、誰も思い浮かばないアイデアの生成といった、平均値の外側の答えを引き出すことは難しいのです。
亀山 会議の議事録を報告用に要約するといった業務には向いているわけですね。
深津 そうです。それ以外にも法律事務所だったら、法律の難しい見解をわかりやすくお客さんに説明するといったことも得意です。ある法律を「小学生にもわかるように説明して」といった使い方です。
亀山 要約以外に得意なことは。
深津 個人的にオススメしているのは、自分が作った文章のチェックです。仕事の企画書、プレゼン資料、注意事項の説明など、文章を作ることは多くありますよね。そうした文章を提示して、「考慮し忘れていることはありますか」「抜け漏れはありますか」といった形でチェクしてもらうといいでしょう。さらに「この企画書をわかりやすくするために、10の点をレビューして指摘してください」といった使い方もあります。このように、ぼくは自分の能力を加速させるために生成AIを使っているのです。
亀山 抜け漏れの指摘をしてくれるだけでなく、第三者の平均的な見方から気づきを得るような使い方にも使えそうです。
深津 面白いですね。「答弁の弱点はどこですか」といった使い方は法務業務でも活用できると思います。あと、想定質問を作るのは得意です。と言っても、平均的な答えを出すことが得意なので、法律を熟知した弁護士の見解を答えさせるのはあまり向かないかもしれません。使うとしたら、記者会見でマスコミがどんな質問をしてくるかといった、一般的な考えを尋ねるといいでしょう。
亀山 お客様向けにQ&Aを作ったり、マスコミ対応で想定質問を作ったりすることはよくありました。そういう業務を生成AIに助けてもらえるのですね。
深津 「マスコミに向けて記者会見をします。◯◯な条件で実施します。マスコミが聞いてきそうな質問を100個作ってください」「想定質問の中で、難しい質問のランキングを作ってください」などというプロンプトが有効でしょう。
亀山 企業の法務部でも行政でも想定問答作りにはかなりの労力を割いています。いくら作ってもこれでいいのかドキドキするものです。生成AIに作ってもらったり、レビューしてもらったりしたら、心強いです。
深津 実務でのChatGPTの使いこなし方については、『ChatGPTを使い尽くす! 深津式プロンプト読本』で多くの実例を、わかりやすく紹介しています。こちらも参考にしてもらって、ChatGPTをはじめとした生成AIをうまく活用してもらいたいと思います。
カスタム化した法務相談のChatGPTを用意し業務改善に
亀山 弁護士に依頼するときに、どう頼んだらいいかわからないという話をよく聞きます。これは企業の法務部門や管理部門でも同じかもしれません。受ける側からすると、依頼の趣旨がよくわからないということが結構あるんです。依頼の精度を高めるためにChatGPTでできることはありますか。
深津 大きく3パターンが考えられます。1つは、依頼する側がChatGPTを活用して上手に依頼すること、2つ目が法務部なり弁護士などの側が依頼者に向けて要件整理するChatGPTを用意すること、3つ目がChatGPTで依頼内容をチェックするロボットをプログラマーと協力して作ることです。このうち、一番取り組みやすいのは2つ目でしょう。
亀山 法務部や弁護士の側が、新しいChatGPTを作るということですか。
深津 法務部や弁護士への依頼の要件整理をするカスタム化した新しいChatGPTを作ればいいのです。ChatGPTが備える「GPTs」という機能を使うことでカスタム化したChatGPTが作れます。
「法務部要件整理用AI」と、こんな名前で作ってみましょうか。
・一般社員をユーザーとし、ユーザーから法務部への曖昧なリクエストの要件整理を行う
#要件整理のルール
- 契約の当事者を確認する
- 文脈情報をヒアリングする
- 相手方との取引実績の有無。詳細を確認する
- 元になる契約書が自社のものか相手方なのか、過去の利用実績などを確認する
- 回答期限を聞く
- 一般社員を萎縮させないように、できるだけ難しいことや堅苦しいことを言わず、フレンドリーに対応する
こんな条件を入れて、GPTsを作って動かしてみましょう。「こんにちは」と問いかけると、「こんにちは、どうされましたか? 相談についていくつか確認させてください」といったように対話が始まります。相談の内容を自然な言葉で入力していくと、AIが要件整理をしてくれるわけです。
亀山 ああ、なるほど。こうしたAIがあれば、整理した情報で依頼してもらえて助かります。
深津 少し条件を追加してみましょう。
・必要な情報を聞き終わったら、レポートとしてまとめます。その後、ユーザーに対して「このレポートをコピペして法務部に渡してください」と伝える
こう付け加えるとヒアリングした結果からレポートを作成して、法務部に渡す指示までしてくれます。
亀山 社内のルールとして、法務部に相談する前にこのAIを使って整理すればいいんですね。これがあるといいですね。相談する側からするとまとめやすくなりますし、無駄なやり取りが減りそうです。これは、語り口の調整もできるんですか。
深津 いまは「フレンドリーに対応する」と指示しています。ぼくがオススメするのは、信頼関係を得るようなしゃべり方をさせるようにすることです。もしかすると、法務部や弁護士の方々とのやり取りでは、専門家としての威厳が必要かもしれませんね。そうしたら、「専門家としての威厳を持たせたいので、堅苦しく厳格な口調でしゃべってください」と指示するといいでしょう。
亀山 そういう調整もできるんですね。
深津 出力するフォーマットが決まっているようならば、こういうタイトルでこういうフォーマットのレポートが必要だとChatGPTに教えることができます。お手本として依頼書のサンプルを渡して、「こういう依頼書を出して」と指示すればいいのです。
亀山 フォーマットも指定できるのですか。こうしたGPTsによって要件整理をやってもらうような用途では、企業がエンドユーザー向けに提供している事例もありますか。
深津 カスタマーサポートや顧客対応の中で、比較的インシデントレベルが低いものの中では実用化が進んでいます。とはいえ、確率で答えを出すマシンなので、確率的に間違うことはあります。このように生成AIには、まだ課題が多いことも事実です。しかし、去年できなかったことが今年はできるようになっているというように、性能の上昇がものすごいことも生成AIの特徴です。進化が進んでしまってからでは、試しに触ってみても追いつけないかもしれません。今のうちから業務で使えそうな見当をつけて試しておいて、性能が上がったところで本格的にアクセルを踏むような対応がいいと思いますよ。
インタラクション・デザイナー
弁護士(第二東京弁護士会所属)、Authense法律事務所
深津貴之、岩元直久(著)/日経BP/2640円(税込み)


