著書『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)が19万部のベストセラーになっている田内学さんに、本書に込めた思いや、お金について考えるためのお薦めの本を3回にわたって聞きました。第2回は、田内さんがお薦めする幸せとお金の関係を考えさせてくれる本、『三千円の使いかた』(原田ひ香著)と『お金の減らし方』(森博嗣著)を紹介します。
お金の使い方にはその人が出る
今回は私が「お金の使い方」について考えさせられた本を紹介します。
世の中にお金の本はたくさんありますが、ほとんどが「いかにお金を増やすか」か「節約」に関する本です。子どもの頃に遊んだ人生ゲームも、最後にお金を増やした者が勝ちですし、いつしか「お金はあればあるほどいい」と刷り込まれ、お金を増やすことが目的化しているのではないでしょうか。
でも、実は「お金を使って、どう幸せになっていくか」が一番大事ですよね。その点、1冊目に紹介する原田ひ香さんの『 三千円の使いかた 』(中公文庫)は、お金の使い方に登場人物一人ひとりの個性が出ており、改めて「幸せのあり方は人によって違うんだ」と考えさせられます。
この本は「人は三千円の使い方で人生が決まるよ」という言葉で物語が始まり、年代も職業も金銭感覚もさまざまな人物が登場します。そのため登場人物に感情移入しやすく、読みやすいと思います。
私が一番興味深かったのは、73歳のおばあちゃんが和菓子屋さんで働き始めるエピソード。今はとかくFIRE(早期退職)などといって「お金を貯(た)めて、早くリタイアするのが勝ち」「年を取ってまで働き続けるのは負け」という雰囲気がありますよね。この本のおばあちゃんも、子どもたちからは働くことに対していい顔をされません。
でも、実は、「働いて誰かに自分の価値を認めてもらえる」「自分の存在が誰かの役に立っている」ことは、生きる力になります。おばあちゃんも「自分は社会の中で役割を与えてもらった」と幸せを感じるようになり、その姿に読んでいるこちらまで幸せな気分になります。
小説としても面白く、さまざまな節約術も盛り込まれているので、実生活に役立つ1冊でもあります。
「お金の減らし方」は自分の幸せに直結
次に紹介するのは森博嗣さんの『 お金の減らし方 』(SB新書)です。
私は森さんの小説もエッセーも好きでよく読むのですが、一番好きなのは森さんの理系的な思考かもしれません。何か問題があるときに、感情論で始末せず、ちゃんとその問題の前提条件を明らかにしてから考える。これはすごく大事なことですが、専門家でもできない場合があります。
例えば以前、私はとある経済学者と日本の経済成長について話したことがありました。その人はさまざまな数式や理論を組み合わせて解説してくれたのですが、その話の中では労働力人口といった前提条件が無視されていたのです。私が素朴な疑問として、「でも、働く人がいなかったら経済成長はできないのではないですか?」と聞くと、「私は君が知らないような難しい理論をたくさん知っている。だから失敗するはずないんだ」と言われてあぜんとしました。
森さんの思考にはそうした理不尽がなく、痛快なのです。
さて、この本のタイトルは『お金の増やし方』ではなく、『お金の減らし方』です(余談ですが、森さんには『 「やりがいのある仕事」という幻想 』[朝日新書]という本もあり、秀逸なタイトルを付ける方だと感服しています)。
一瞬、えっ?と思いますが、確かに人が幸せを感じるのは、お金を使って何かを手に入れたとき、つまり「お金が減ったとき」ですよね。どうやってお金を減らすかは自分の物差しで決めてかまわないし、人にとやかく言われる筋合いはありません。
でも、世の中の多くの人は、他の人からほめられたいため、誰かに見せびらかしたいがためにお金を使っているのではないでしょうか。SNS(交流サイト)の投稿などはその最たる例でしょう。
森さん自身は「欲しいものにしかお金を使わない」と言い切り、自宅の庭に線路を敷いて機関車を走らせたり、工作をしたりと好きなことに使っています。お金を増やすこと以上に、「どうやってお金を減らすか」が自分の幸せに直結すると教えてくれる1冊です。
マネー教育で学ぶべきはお金の使い方
今はマネー教育というと、大人も子どももお金の増やし方ばかり学びます。でも、実は小さいうちからお金を使って、失敗したほうが身になるのかもしれません。お年玉にしても、親は子どもに「全部貯金しておきなさい」と言いがちですが、いくらか使わせて、「これは良い買い物だった」「こちらは本当はたいして欲しくなかった」と実感させたほうがいい。
なぜなら、大人になってからお金で失敗する人は、使い方で失敗する例がほとんどだからです。増やし方で失敗した、貯(た)め方で失敗したという人の話は聞かないですよね。まだ金額が少なくてすむ子どものうちに、あえてお金で失敗させる経験も必要なのかもしれません。
「お金」と「幸せ」について考えさせられる2冊、ぜひ読んでみてください。
取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子


