著書『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)が19万部のベストセラーになっている田内学さんに、本書に込めた思いや、お金について考えるためのお薦めの本を3回にわたって聞きました。第3回は、田内さんが読んで納得感が高かった経済学に関連する本、『資本主義の方程式』(小野善康著)と『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(カトリーン・マルサル著/高橋璃子訳)を紹介します。

なぜ人はお金を欲しがるのか

 今回は、私が読んだ経済学に関連する本の中で、特に納得感が高かった良い本を2冊紹介します。

 まず、1冊目は『 資本主義の方程式 経済停滞と格差拡大の謎を解く 』(小野善康著/中公新書)です。この本を読むと、「なぜ人はお金を欲しがるのか」が分かります。

『資本主義の方程式』(小野善康著)
『資本主義の方程式』(小野善康著)
画像のクリックで拡大表示

 太平洋戦争後、日本は経済成長を続ける中でモノが足りず、人々は「モノを買うためにお金が欲しい」と考えていました。しかし、現代の日本は昔に比べればはるかに豊かになり、新たにモノを買いたいという欲求は下がっています。そうした中で、人々はお金を持っていること自体に幸せを感じるようになり、お金を積み上げることに執着する「資産選好」が起きているというのです。

 また、本書では、格差が生まれる原因も説明しています。お金持ちはすでにモノが満たされているため、お金を増やすことに執着して支出を増やしません。そのため、経済全体では需要が不足する状態になり、お金がない人が働く機会をなかなか得られず、十分なお金を稼ぐことができません。つまり、お金持ちがますますお金を増やす一方で、お金がない人はお金を貯(た)めることができません。こうして格差が拡大していくのです。

 さらに、親が資産家であれば、子どもは資産を引き継げます。日本では格差がとかく自己責任のようにいわれますが、自己責任だけが原因ではありません。今後は富の再分配も必要になるでしょう。

 私自身は格差が自分一代で逆転できるものであるなら、奮起する材料ともなりますし、すべて悪だとは思いません。ただし、自分一代で解消できないような格差は問題ですし、それが今の日本の閉塞感につながっているように感じます。少なくとも逆転可能な社会であるべきですね。

 この本では、今の日本が抱える経済問題に対して、一つひとつ論理的に解説されているため、経済学の仕組みを学びたい人にお薦めです。

アダム・スミスが研究に没頭できた理由

 次に紹介するのは『 アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話 』(カトリーン・マルサル著/高橋璃子訳/河出書房新社)です。

『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(カトリーン・マルサル著)
『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(カトリーン・マルサル著)
画像のクリックで拡大表示

 「経済学の父」であるアダム・スミスが研究に没頭する間、彼の夕食を作っていたのは誰だと思いますか。先に答えを言ってしまうと母親なのですが、そこには貨幣経済にカウントされないケア労働が存在していました。

 そこで、この本は、女性は常に国家の富に貢献しているのに経済学者はその地位を貶(おとし)めてきたと、経済学の歴史に鋭く切り込みます。ユーモアにあふれた読みやすい文章ながら、幅広く問題提起されていて読み応えがあります。

 私が特に感心したのは「経済学は愛の節約を研究する学問になってしまった」というくだりです。アダム・スミスは、「我々が食事を手に入れられるのは、肉屋や酒屋やパン屋の善意のおかげではなく、彼らが自分の利益を考えるからである」──つまり、人々の利己心のおかげで我々は食事にありつける、利己心のおかげで社会が成り立っている、と言いました。しかし、それでは損得勘定の上に人間関係が築かれることになり、生きていくのがしんどくなります。

 そうではなく、母親がアダム・スミスに夕食を作ったように、本当は「愛」が必要で、働くという目的もお金を稼ぐことだけではないはずです。現代では女性活躍という言葉が一般的になりましたが、私は、そうした言葉を使って女性の労働を搾取しているような気もしてしまいます。今後、経済を考えるときには「お金を稼ぐ以外の部分」にも目を向ける必要があります。

愛、お金、仲間、一番大事なのは?

 私は中学校や高校で、お金やキャリア教育について講演もしていますが、学生に「愛、お金、仲間、どれが一番大事ですか」と聞くと、「お金」と「仲間」が半々ぐらい。恥ずかしいのか、「愛」と答える子はあまりいません。高校生に同じ質問をすると、「お金」が「仲間」を少し上回るようになります。

「経済を考えるときには『お金を稼ぐ以外の部分』にも目を向ける必要があります」と話す田内さん
「経済を考えるときには『お金を稼ぐ以外の部分』にも目を向ける必要があります」と話す田内さん
画像のクリックで拡大表示

 さらに、高校生に「将来どんな仕事がしたいですか」と聞き、「年収が高い仕事」「投資で儲(もう)ける仕事」「社会の役に立つ仕事」という選択肢を用意すると、「年収の高い仕事」が5割強、「投資で儲ける仕事」が3割強、「社会の役に立つ仕事」は1割強となります。確かに本音だとは思うのですが、こうした子どもが多い社会では、GoogleやAmazonのような革新的なビジネスは生まれにくいだろうな、と思います。

 人によっては、社会のことよりも、自分の年収のほうが大事だと思うかもしれません。しかし、「年収が高い仕事」を目指しても、応援してくれるのは家族くらいです。ところが、「何か社会の役に立ちたい」という志を立てると、家族以外にも応援してくれる仲間が現れます。私も編集者でコルク代表取締役CEOの佐渡島庸平さんが応援してくれたからこそ、ゴールドマン・サックス証券を退職後に本を書くことができました(第1回 「田内学『お金自体には価値がない』 この問いはなぜ生まれたのか」 参照)。こうした仲間がいないと、お金を払って無理やり手伝ってもらうしかありません。

 幸せに生きていくためには愛する人や仲間を増やすことが一番ですが、「お金さえ稼げればいい」と考えていると、そこに気づくのが難しくなります。これからもお金と経済の本質を問うような本を書き、人々が気づくきっかけをつくっていきたいと思います。

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子