「公的年金で老後資金をどのくらいカバーできる?」「ゆとりある老後のためにはいくらためればいい?」……。新NISA制度がスタートして2年目、資産形成への不安や疑問がさまざまに渦巻いている。そんな悩みに対し、データを武器に一発解消するのが株式ストラテジスト・井出真吾氏。『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

最低限の日常生活費もカバーできない?

 年金だけでは平均的な老後生活費をカバーできない――残念ですが、これが現実です。
 そして、実態はより深刻です。

 生命保険文化センターが実施した「生活保障に関する調査(2022年度)」によると、「老後を夫婦2人で暮らしていくうえで、日常生活費として月々最低いくらぐらい必要か」というアンケートに対して、約4800人の回答の平均は「毎月23.2万円」だそうです。

 年金額はどうでしょうか。
 夫婦2人とも厚生年金の場合は年金月額およそ32.5万円(2024年度)なので、最低必要額(23.2万円)をクリアしています。

 しかし、1人が厚生年金、もう1人が国民年金の場合は年金月額およそ23万円なので、最低必要額に足りるか足りないかといったところです。
 2人とも国民年金の場合は年金月額およそ13.6万円ですからまったく足りません。

 繰り返しますが「最低限の日常生活費」すらまったくカバーできないわけです。

ゆとりある老後生活費は月38万円

 一方、このアンケートで「夫婦2人のゆとりある老後生活費」を尋ねたところ、回答者の平均は月37.9万円でした。
 ゆとりある生活とは、旅行・レジャー、日常生活費の充実、趣味や教養、子や孫への資金援助などに使うために、最低必要額よりも月15万円ほど上乗せしたいという意味です。

 この場合、夫婦2人とも厚生年金でも足りません。
 片方が国民年金の場合や2人とも国民年金の場合はまったく足りません。

 単身世帯はどうでしょう。
 ゆとりある老後生活費を2人世帯の7割と仮定すると、厚生年金でも月10万円ほど、国民年金の場合は月20万円ほど足りない状況です。

 実際、先ほどのアンケートでも「老後の日常生活費を公的年金で賄えない」という回答が7割以上を占めています。

図1 ゆとりある老後生活費と年金額
図1 ゆとりある老後生活費と年金額
(出所)『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著)
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年金だけでは「最低限の日常生活費」すらカバーできないケースも。
「ゆとりある老後生活費」は厚生年金でもカバーできない。
国民年金はより深刻な事態。

「ゆとりある老後」のための貯蓄額

 2019年に「老後2000万円問題」が大きな話題になりました。
 家計調査によると高齢夫婦無職世帯の平均収入は支出よりも毎月5.4万円不足しており、30年間の累計では約2000万円足りないというものでした。

 ただ、これは「毎月の支出額がおよそ26万円」なので、割と質素な生活だと思います。
 当時、私はもう少し踏み込んだ試算をしようと思いました。

 そして退職金や退職年金(企業年金)、公的年金の繰り下げ受給などを加味したうえで、「ゆとりある老後」には夫婦2人で2000万円ほど足りないことを突き止め、「新2000万円問題」としました(拙著『 40代から始める 攻めと守りの資産形成 』)。

 ここでは最新の試算結果を紹介します。
 先ほどご説明したように「ゆとりある老後」に必要な額は夫婦2人で毎月37.9万円です。
 65歳から90歳まで25年間の合計では実に1億1370万円にのぼります。

 90歳までとしたのは、65歳時点の女性の平均余命が24・3年、すなわち平均的には89・3歳まで生きるからです。ちなみに男性は84・4歳です。

 収入は退職金・退職年金がおよそ1900万円(大学・大学院卒の平均、2022年)、公的年金が7176万円(1人が厚生年金、もう1人は国民年金)で、これらの合計が9076万円です。
 なお公的年金は2人とも70歳受給開始とします(5年繰り下げ受給)。この場合、年金額は42%増えますが、税金や社会保険料負担も増えるので手取りベースで3割増えると仮定しています。

 25年間の総収入と総支出の差額は2294万円です。
 つまり、ゆとりある老後を送るには、夫婦2人でざっと2300万円、少し余裕をみて3000万円ほどの貯蓄が1つのメルクマールになるわけです。

(図2)ゆとりある老後に必要な貯蓄額の試算
(図2)ゆとりある老後に必要な貯蓄額の試算
(出所)『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著)
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毎月いくら投資するかを逆算

 単身世帯について同様に計算すると(ゆとりある老後生活費は2人世帯の7割と仮定)、およそ1000万円となりました。

 余裕をみて1500万円くらいが目標貯蓄額といったところでしょうか。

 NISAやiDeCoを活用しつつ、この不足額を貯蓄するのが1つの目標になります。

 そのために毎月いくら投資すればよいかは、図3で逆算できます。たとえば利回り6%を想定して30年後に3000万円をためるには、毎月3万円強(3000÷979=3.06)という具合です。

(図3)毎月1万円つみたて投資した場合の資産額
(図3)毎月1万円つみたて投資した場合の資産額
(出所)『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著)
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 もちろん生活スタイルは人それぞれですし、公的年金や退職金の額もまちまちなので、あくまで平均的な姿に過ぎません。ご自身にカスタマイズすることが必要です。

「新2000万円問題」が「2300万円問題」に悪化。
NISAやiDeCoを活用し、不足分プラスアルファを貯蓄するのが必達目標。

インフレで将来の必要額が増える可能性

 ここで紹介した「ゆとりある老後生活費」は現在の金額です。

 今後のインフレしだいで将来の必要額が増えるかもしれません。
 一方、賃上げが続けば退職金・退職年金の増加も期待できますし、公的年金もある程度は増えるでしょう。

 「生活保障に関する調査」(生命保険文化センター)によると、2022年の「老後の最低日常生活費」は年率1.8%増えました(2019年比)。同期間の「ゆとりある老後の生活費」は年率2.1%の上昇です。

 一方、公的年金は本格的な賃上げが始まる以前だったこともあり(年金額は基本的に賃金上昇率に連動)、同期間の国民年金は年率0.1%減少、厚生年金と国民年金の2人世帯は年率0.3%減少しました。

まずは自分の必要額を算出、NISAやiDeCoで不足分プラスアルファを貯蓄する(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
まずは自分の必要額を算出、NISAやiDeCoで不足分プラスアルファを貯蓄する(写真:琢也 栂/stock.adobe.com)
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30歳の人が老後を迎える頃はさらに深刻

 今後についてはきわめて不確実ですが、「ゆとりある老後生活に必要な貯蓄額」が年率1%または2%で増加した場合を試算してみました。

 2人世帯の場合、現在の約2300万円が年率1%で増加すると、現在40歳の人が70歳になる30年後(2055年)には3000万円を超えます。
 現在20歳の人が70歳になる2075年時点では3773万円です。
 もし年率2%で増加したら、現在50歳の人が70歳になる2045年に約3400万円、現在30歳の人が70歳を迎える40年後(2065年)は実に5000万円を超える計算です。

(図4 ゆとりある老後生活に必要な貯蓄額の将来試算)
(図4 ゆとりある老後生活に必要な貯蓄額の将来試算)
(出所)『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著)
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 この試算に近いかたちとなるかは今後の経済状況(インフレ率、賃上げ率、年金額など)しだいなので、数字が独り歩きするとよくないのですが、少なくとも当面はインフレが続きそうですし、年金給付額を抑制する仕組み(マクロ経済スライドによる調整)も当面は続きそうです。

 ここで紹介した「ゆとりある老後2300万円問題」は、あくまで現時点の金額に過ぎません。

 将来世代はより多くの貯蓄が必要になるかもしれないことをよく理解しておいてください。

インフレ、賃上げなど将来は不確実。
必要な貯蓄額が年率2%で増えれば、40年後は「ゆとりある老後5000万円問題」に。

人気ストラテジストが、投資に関する疑問や不安をデータで一発解消

インフレ時代を賢く乗り越え、豊かに生きる63の知恵をQ&A形式で解説。一括投資とつみたて投資、元本割れリスクが小さいのは? 全世界株式とS&P500、どちらが優位? 年金以外に老後資金の必要額は?……などこれから投資を始める人にも、見直したい人にも。新NISA2年目対策にも。

井出真吾著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)