投資した直後に値下がりして大損する可能性があるから「一括投資」は危ない。一方、「つみたて投資」は安全……と通説のようにいわれる。しかしそれは本当? 新NISA制度がスタートして1年、資産形成への不安や疑問がさまざまに渦巻いている。そんな悩みに対してデータを武器に一発解消するのが株式ストラテジスト・井出真吾氏。『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(井出真吾著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。
一括投資は危ない?
「一括投資は危険」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。
一括投資した直後に値下がりして大損する可能性があるから、というのが理由のようです。
私は、新NISAがスタートする直前の2023年12月に「新NISA、『毎月投資』か『1月一括投資』か」と題するリポートを公開しました。
主な内容は「過去のデータを検証した結果、毎月定額つみたて投資よりも1月一括投資のほうが平均的な運用成績がよかった」ことを紹介したものです。
すると、「一括投資は危ない」「買った直後に株価が下落したらどうするのか」という趣旨の不安の声が届きました。
気持ちはわからなくもないですが、「一括投資は危ない」もしくは「つみたて投資のほうが安全だ」というのは本当でしょうか?
検証結果を紹介しつつ、一括投資とつみたて投資を考えたいと思います。
過去は「一括投資」が勝率7割程度
図1は2005年1月に投資をスタートした場合(20年間)の検証結果です。
「毎月投資」は2005年1月から毎月初めに1万円ずつ(年間12万円)、「1月一括投資」は2005~2024年の毎年1月初めに12万円投資して、2024年末まで保有し続けた場合の資産額です(税金や手数料は考慮しません)。
この結果からTOPIX、S&P500、全世界株式(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)のすべての投資対象で「1月一括投資」のほうが「毎月投資」よりも運用成績がよかったことがわかります。
ただ、これは「2005年1月に投資をスタートした場合」の1ケースを検証した結果に過ぎません。
そこで、3指数のデータがそろっている最長期間の1988年1月投資スタート、翌1989年1月投資スタート……という具合に2024年1月投資スタートまで全37ケースを検証した結果が図2です。
結果はどうでしょう。
TOPIXの場合、37ケース中21ケースで「1月一括投資」のほうが高い運用成績となりました。1990年のバブル崩壊から2011年頃まで約20年間、日本株の株価下落局面が続いたことが影響して勝率こそ57%にとどまりましたが、平均的には「1月一括投資」が有利だったのです。
日本のような極端なバブルがなかったS&P500や全世界株式は、もっと勝率が高く7割前後です。
少なくとも過去は勝率7割程度で「つみたて投資」よりも成績がよかった。
なぜ「一括投資」の勝率が高かったのか?
なぜ、「毎月投資」よりも「1月一括投資」の勝率が高いのでしょうか。
答えは簡単で、「株価指数が基本的に右肩上がりだったから」です。
図3の「TOPIX、S&P500、全世界株式」をご覧ください。
S&P500も全世界株式も、リーマン・ショック時(2008年)など大きく下落した局面もありましたが、基本的には右肩上がりで推移しました。
そのため毎月定額で購入するよりも、1月に一括購入したほうが購入単価は安く済んだのです。
実際に購入単価を比較すると図4の通りで、「1月一括投資」の購入単価は「毎月投資」のそれと比べてS&P500では約7%低く、全世界株式では5%ほど低かったのです。
TOPIXはやや状況が違って、バブル崩壊後の株価下落局面が続いた2011年頃までは「1月一括投資」の勝率が54%とやや低かったため、購入単価の違いも約2%にとどまりました。
今後も一括投資が確率的には有利
今後についても株価指数は長期的に上昇が見込まれるので、一括投資が有利な状況が続くと考えています。長い目でみれば確率的には一括投資の勝率が高いと思います。
もちろん短期的には上げ下げを繰り返しますし、世界的な景気後退局面では1~2年タームで株価の下落基調が続くこともあるでしょう。そのような時期は「つみたて投資」が有利です。
過去の日本株は一括投資の勝率が米国株等よりも低かったですが、これはバブル崩壊後の株価下落局面が長く続いたからです。
バブルの清算は2010年頃に済みました。極端な割高状態は解消され、今や「普通の市場」に戻ったので、今後は米国株や全世界株式と同様に長期的な上昇が見込まれます。
つまり、日本株に関しては一括投資の勝率が過去よりも高くなる可能性があります。
今後も株価指数は長期上昇が期待できるので、確率的には「一括投資」の勝率が高いと考えられる。
インフレ時代を賢く乗り越え、豊かに生きる63の知恵をQ&A形式で解説。一括投資とつみたて投資、元本割れリスクが小さいのは? 全世界株式とS&P500、どちらが優位? 年金以外に老後資金の必要額は?……などこれから投資を始める人にも、見直したい人にも。新NISA2年目対策にも。
井出真吾著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)





