本特集では、書籍『AIエージェント 設計&実装 完全ガイド』(日経BP)から抜粋した内容を基に、AIエージェントを実装および活用するための基礎知識を解説します。第2回では、エージェントおよびAIエージェントの歴史を説明します。
エージェントの概念自体は新しいものではありません。エージェント(ソフトウエアエージェント)は1970年代からある概念です。状況を観測して自律的に判断・行動できる比較的小さなプログラム、すなわちユーザーの代わりにタスクを実行するプログラムを指します。
エージェントの重要な属性としては、他のエージェントやユーザーとコミュニケーションできる「協調」、経験を通してパフォーマンスを向上させる「学習」、人間の介入なしに動作する「自律」が挙げられます。
これらの属性は現在のAI エージェントに求められる本質的な要素であり、まさに「代理人(エージェント)」としての活躍が期待されてきました。
エージェントの活用と進化
エージェントは様々な分野で活用されています。例えばECサイトで購入した製品と類似する製品を提示する買い物ボット、Web上の情報を自動で収集するクローラー、在庫状況を監視/管理するシステム、顧客サポートや情報提供のために自動で会話を行うチャットボットなどは、いずれもエージェントに分類されます。普段私たちが何気なく使っている多くの機能も、広義にはエージェントと見なすことができます。
また、1990年代からは単一のエージェントだけでなく、複数のエージェントを協調させて課題を解決するマルチエージェントシステム(MAS)が研究されてきました。
MASは、各ステークホルダーが環境を認識し、自律的に判断することで群衆の振る舞いを形成できるため、交通渋滞の緩和や自動運転の研究などにも応用されています。さらには強化学習を用いて各エージェントが行動し、そこで得られた報酬や学習内容を共有・協力することで、コンピューターゲームをうまくプレーできた事例もあります。
このように、以前から幅広い分野でエージェントの研究・活用が検討されていましたが、産業分野での実用化にはいくつかの課題がありました。例えば計算資源やインフラの未発達によるリアルタイム性の不足、MASにおけるエージェント間の協調や意思決定の複雑さ、機械学習技術の未成熟による動的環境への適応の難しさなどが挙げられます。
自然で適切な回答が可能に
計算資源やインフラの発達、機械学習技術の進化によって、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)が登場しました。LLMとは「膨大なテキストデータとディープラーニング技術を用いて構築された言語モデル」です。言語モデルとは「ある単語に対して次に来る単語を予測するモデル」を指します。例えば「私は仕事でPCを」という文章が与えられた場合、「使う」といった単語が続くと予測できます。
LLMは、従来の言語モデルに比べてコンピューターがタスクを処理できる計算量、事前に学習させたデータ量、学習を通して出力を調整するパラメーター数を大幅に拡張することで、人間並みの自然言語理解と生成能力を持つようになりました。
登場当初のLLMは、単純かつ明瞭な質問には高い精度で回答できていましたが、段階的な思考を要する複雑な問題に対しては「ハルシネーション(事実に基づかない誤情報を生成してしまう現象)」が発生しやすいという課題がありました。
近年「思考の連鎖(Chain of Thought)」のような、回答に至るまでの思考ステップを生成させる技術が発展し、情報や事実をもとに結論を導く推論能力が強化されています。また、生成AI ツールがAPI(Application Programming Interface)や外部ツールと連携しやすくなったことで、事前学習されたデータだけでなく、外部情報や社内特有の情報をもとに、より自然で適切な回答を生成できるようになりました。
これにより、AIエージェントの実用化が一気に進みました。従来の生成AIは「一問一答型」の仕組みであり、特定業務のアシスタントにとどまっていました。しかし生成AIの高度化によって、業務プロセス全体の自動化が可能となり、従来のエージェントでは成し得なかった、リアルタイムかつ動的な環境にも適応できるようになったのです。

[日経クロステック 2026年4月14日付の記事を転載]
アビームコンサルティング(著)/日経BP/3190円(税込み)

