元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗(としあき)さんが選ぶ「ラグビーをもっと深く楽しむ本」4冊目は、廣瀬さんの著書『ラグビー 知的観戦のすすめ』(角川新書)。ラグビーの魅力は多様性にある。ポジションごとの選手の特徴や役割を知れば、その動きや作戦が見える。2023年9月開幕のラグビーワールドカップ・フランス大会へ向けた予習にも最適の1冊。

ラグビーはさまざまな個性の集合体

日経BOOKプラス編集部(以下、――) 2023年9月からいよいよ、ラグビーワールドカップ・フランス大会が始まります。日本代表の活躍にも期待が高まります。一方で、なお「ルールが複雑でよく分からない」という声も少なくありません。2019年の前回大会の直前、廣瀬さんはそうした声に応えるように、『 ラグビー 知的観戦のすすめ 』(角川新書)を刊行されました。

廣瀬敏明さん(以下、廣瀬) ラグビーの最も面白いところは、「多様性」だと思います。さまざまな個性を持った選手がさまざまなポジションに入り、細かく連携しながら激しく戦う。こういうスポーツはなかなかありません。

 そこで本書の第1章では、ラグビーのポジションごとの特徴を説明しました。誰がどこにいて、どういう役割を果たしているのか? どういう性格の人が向いているのか? 例えば「結婚するならフロントロー」「お酒を飲むならロック」「何かあったときに助けてもらうならフルバック」のように、各ポジション別にキャラクターを説明しています。そういうことを知るだけでも、ラグビーへの理解がぐっと深まると思います。

『ラグビー 知的観戦のすすめ』(角川新書)。「ラグビーの面白さは多様性にあります」と廣瀬さん
『ラグビー 知的観戦のすすめ』(角川新書)。「ラグビーの面白さは多様性にあります」と廣瀬さん
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初心者から見ると、ラグビーで一番分かりにくいのは、何がファウルで、何がファウルではないかです。今のホイッスルはどういう意味? と思うこともしばしばあります。

廣瀬 基本的には立ってプレーするスポーツなんです。膝をついた時点でボールに触ってはダメ、それからセコいことをしてもダメ。例えば、ボールの上に倒れ込んで抱え込む(オーバーザトップ)のも、スクラムを壊す(コラプシング)のも、ボールを横から奪いにいくのもファウルです。つまりラグビーとは、常にフェアな状態で相手とボールを奪い合うスポーツなんです。この大前提を頭に入れておけば、選手の動きの意味が理解しやすくなると思います。

作戦や戦略も、なかなか見えにくいですね。

廣瀬 ラグビーにはサインプレーなどもありますが、基本はストラクチャー(陣形)を整えて臨むこと。相手によっては、こちらのシステムがバラバラにされることもあります。そういう場合でも、いかに基本の陣形に戻って、アタックできるかが勝負です。

「ポジション別の選手のキャラクターを知れば、ラグビーはより楽しくなります」と廣瀬さん
「ポジション別の選手のキャラクターを知れば、ラグビーはより楽しくなります」と廣瀬さん
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 だから、ラグビーは、激しく格闘する部分と、知的に作戦を練ったり、チーム内で緻密に意思統一を図ったりする部分が混在しているスポーツなんです。決してやみくもに激突したり、走ったりしているわけではありません。

 それに人数も多いし、点数の入り方も独特だし、レフェリーによってオーガナイズの仕方も違う。そういう多変量の要素が幾つもある中で、どうやって勝ちをつかむかが面白いところですね。

野球やサッカーに比べて、ラグビーは選手個々人があまり目立たないような気もします。やはり個人の能力より組織力のほうが重要ということでしょうか。

廣瀬 確かに組織力を上げることが基本です。組織力が不安定なままで誰か突出した選手がいたとしても、チームはあまり機能しないでしょう。ただし、チームを作っていく上で、強い個がいることも大事です。組織対組織で戦いながらも、なおかつXファクターとして現状を打破できるような選手がいたら、そのチームは強くなる感じがしますよね。

日本代表はどこまで勝ち進めるか

さて、今回のワールドカップの見どころは?

廣瀬 一番大きなポイントは、優勝国が予測できないということでしょう。2019年までは、南半球のチームが優勢でした。2011年と2015年の優勝チームはニュージーランド、2019年は南アフリカでした。

 しかし、ここ3~4年では、ヨーロッパのチームが軒並み調子を上げています。直近の世界ランキングで見ると、1位がアイルランドで2位フランス、3位ニュージーランド、4位南アフリカと続きます。ちなみに日本は10位です。

 このランキングに従えば、今大会はヨーロッパのチームが優勢かもしれません。特にアイルランドは好調で、毎年2~3月に開催される「シックス・ネイションズ」というヨーロッパ6カ国による国代表リーグ戦でも、2023年大会は全勝優勝しています。ただし、前回のワールドカップの予選で、アイルランドは日本に負けています。もともと地力はあるのに、なぜかワールドカップになるとうまくいかないのが、このチームのこれまでの歴史です。今回こそはどうなるのか。その意味でも優勝の行方はなかなか読めません。

「今回のワールドカップは優勝国がなかなか予測できないという面白さがあります」
「今回のワールドカップは優勝国がなかなか予測できないという面白さがあります」
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では、日本代表はどこまで勝ち進めるでしょうか?

廣瀬 日本も実力はあります。ただし、コロナ禍でここ2年ほど国際試合ができていません。海外のチームはずっと試合をしていたので、その経験の差がどう影響するか。前回大会がホーム開催でベスト8だったので、今回はアウェー開催でベスト8に入れたら、一歩成長。そこでさらにもう1勝してベスト4まで行けたら、大成功じゃないでしょうか。

 アジア全体で見ると、かつては香港や韓国も強かったのですが、今は少し実力を落としています。だからこそ、日本がアジアの牙城となってラグビーを支えなければなりません。日本代表の選手やスタッフは、そういう使命感も抱きつつ、試合に臨むと思います。

文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸、南浦淳之 写真/木村輝