子育てに関する根拠のない神話には、はっきりNOを。答えのない問いには、エビデンスに基づく考え方や行動のヒントを。SNSでの発信が親世代に広く支持されている小児科医・新生児科医の今西洋介さん(ふらいと先生)。子育てに日々真剣に取り組む親御さんたちに届けたい最新知識をまとめた新刊『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実』(日経BP)から、「子どもの発育を気にしすぎないために必要なこと」を、三つのポイントに絞ってお答えします。
子どもの発育は一つの基準だけで判断できない
子育ては喜びに満ちた素晴らしい経験ですが、同時に多くの不安や心配を伴うものでもあります。特に、子どもの発育に関しては、多くの親御さんが心配してしまう傾向にあるでしょう。しかし、最新の研究によれば、子どもの発育には大きな個人差があり、一律の基準で判断することは非常に難しいことがわかっています。
今回は、子どもの発育を気にしすぎないために必要となる三つの重要なポイントを、最新の研究成果を踏まえて解説していきます。きっとこれらの知識が皆さんの子育ての不安を軽減し、お子さんの健やかな成長を見守るための助けとなるでしょう。
ポイント① 個人差を理解し、発育の全体像を見る
子どもの発育を考える上で最も重要なのは、子どもの成長には個人差があることを理解し、発育の全体像を見ることです。当然、母子手帳に記載されている成長曲線が日本の子どもたちの成長の基準になりますので、これを一つの基準とすることは大切です。しかし一方で、ここに記載された目安の通りに成長しないといけないかというと、そうではありません。
健康な子どもであっても、身長や体重の発育速度や成長パターンに個人差があることが、小児科医の間でも認識されています。これは、その子どもの発育が友達や同年齢の子どもと異なっていても、必ずしも問題があるわけではないことを意味します。
さらに、2019年の小児医学に関する学術雑誌に掲載された研究では、身体的発育と認知的・社会的発達が必ずしも同じペースで進行するわけではないことも明らかになりました★1。
例えば、身長の伸びが遅くても、言語能力や社会性の発達が早い子どももいます。したがって、単一の指標だけでなく、発育の全体像を見ることが重要です。身体的成長、認知の発達、社会性の発達など、さまざまな側面を総合的に考慮することで、子どもの真の成長を理解することができます。
また、先述のように、発育曲線に関しても解釈の注意は必要です。2007年の栄養学に関する学術雑誌に掲載された研究も指摘するように、世界保健機関(WHO)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した成長曲線グラフの間には、年齢層、成長指標によって違いが見られます★2。
日本の成長曲線は日本人の体格を参考に作られているため、その点での懸念は低いですが、実際の臨床現場では、子どもたちの成長発育パターンを尊重することが大切です。そして、成長や発達は「点」で判断しないことです。前回の検査時からの成長具合との兼ね合いを見ながら、「線」で判断していくことが重要です。
ポイント② 環境要因と適切な支援の重要性
子どもの発育には、遺伝的要因だけでなく、環境要因も大きく影響します。2023年の栄養学に関する学術雑誌に掲載された、イスラエルの幼稚園を対象としたある研究によると、健康教育プログラムに参加した幼稚園の園児のほうが、肥満予防のために効果的なライフスタイルを採用するようになることがわかりました★3。
これは、栄養、運動、睡眠、ストレスなどの要因を整える環境づくりが子どもの発育に影響を与えることを示しています。したがって、まずは子どもの生活環境を見直し、必要に応じて改善することが効果的です。
特に重要なのは、ポジティブな親子関係の構築です。温かくコミュニケーションの豊富な養育を受けた子どもは、認知的、社会的、情緒的発達において優れた結果を示すことがさまざまな研究でわかっています★4。子どもの小さな成長や成功を「素晴らしい」と褒めてあげて、失敗を恐れずに挑戦することを促す環境を作ることが、健全な発育を促進します。
また、遊びを通じた学習の重要性も忘れてはいけません。2022年の教育的分野に関する学術雑誌に掲載された研究によると、遊びを通じた学習が、特に学童期の認知の発達と創造性の向上に効果的であることが示されています★5。楽しみながら学習すれば、自然と発達も促されていくのでしょう。
ポイント③ 専門家との適切な連携とメディアリテラシー
子どもの発育に関して不安がある場合は、まず小児科医や専門家に相談することをお勧めします。小児医学に関する国際的な学術雑誌に掲載された研究によると、定期的な健康診断を受けている子どもは、発育の問題を早期に発見し、適切な対応を受けられる可能性が高いことが示されています★6。
ただし、専門家の意見を聞きつつも、過度に心配しないことが重要です。多くの場合、子どもは自然に成長していくものです。肝心なのは、必要な時に専門職のフォローが入ること、精査を受けられる環境にあることです。
また、情報過多の現代社会では、メディアリテラシーの重要性も忘れてはいけません。ソーシャルメディアや育児情報サイトの普及により、親は常に膨大な情報にさらされています。
2021年の医療情報学に関する先駆的な学術雑誌に掲載された、複数の研究を吟味する「システマティックレビュー」という手法を用いた研究によると、誤った医療情報の中ではワクチンに関する情報が43%と、その占める割合が高いこともわかりました★7。
信頼できる情報源を選び、批判的な視点で情報を評価することが重要です。疑問や不安がぬぐえない時は、必要に応じて、かかりつけ医などの専門職に頼ってください。
伝えたいこと
皆さんがお子さんの発育を気にかけているのは、素晴らしい親であることの証です。その思いやりと愛情は、お子さんの健やかな成長の基盤となるはずです。
しかし、私たちは子育てに完璧を求めすぎてしまい、その過程で大切なものを見失ってしまうことがあります。子育ては長い旅路です。一時的な発達の遅れや停滞は、むしろ成長の一部だと考えてもよいでしょう。
最新の研究が示すように、子どもの発育には大きな個人差があり、それぞれ独自のペースで成長していきます。だから、成長曲線の中に入っていれば安心、発達に関しても、専門家のフォローを受けていれば安心、くらいの気持ちで十分だと思います。お子さんはそれぞれに自分だけの素晴らしい道を歩んでいるのです。
不安になることがあっても、それは自然なことです。それでも、その不安に支配されるのではなく、お子さんとの日々の触れ合いを楽しみ、小さな成長の瞬間を喜びましょう。それこそが、お子さんの健やかな発育を促す最高の環境となるのです。
お子さんの発育に不安を感じたときは、ぜひ、ここでご紹介した研究結果を思い出してください。個人差は自然なものであることを踏まえた上で、環境要因や専門家との適切な連携の大切さを忘れないでください。同時に、メディアリテラシーを持ち、信頼できる情報源からバランスのとれた情報を得ることも重要です。
また、子育ては決して一人で抱え込むものではありません。同じような悩みを持つ他の親御さんたちとの交流や、家族、友人、専門家にサポートを積極的に求めることも大切です。悩みを共有し、アドバイスを得ることで、新たな視点や解決策が見つかるかもしれません。
★1 Tran TD, et al. BMC Pediatr 2019; 19:276.
★2 Onis M, et al. J Nutr 2007;137 (1):144-8.
★3 Jakobovich R, et al. Nutrients 2023;15 (11):2615.
★4 Li J, et al. Front Psychol 2022; 13:794201.
★5 Parker R, et al. Frontiers in Education 2022; 7:751801.
★6 Council on Children With Disabilities, Section on Developmental Behavioral Pediatrics, et al. Pediatrics 2006;118(1):405-20.
★7 Suarez-Lledo V, et al. J Med Internet Res 2021; 23(1):e17187.
今西洋介著/日経BP/1980円(税込み)


