第2次トランプ政権の発足をきっかけに、新政権の“黒幕”とも見られるリバタリアン(自由至上主義者)への関心が高まっています。しかし、そもそもリバタリアンとは、どのような人たちなのでしょう? 『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊(日経ビジネス人文庫)』を刊行した著者が、イーロン・マスクをはじめとする、リバタリアンが愛読する本などから、その本質を読み解きます。(文中敬称略)

 ドナルド・トランプの大統領返り咲きをきっかけに、リバタリアン(自由至上主義者)への関心が高まっています。返り咲きを後押しした“黒幕”はリバタリアン、そんな見方が広がっているからです。

 トランプの大統領選を400億円規模の巨額献金で支援したイーロン・マスクに加えて、副大統領になるJ・D・バンスをトランプに引き合わせた投資家のピーター・ティールも、リバタリアンとして有名です。さらに新設される「政府効率化省(DOGE)」をマスクと共に率いる予定の実業家ビベック・ラマスワミも筋金入りのリバタリアンで、ハーバード大学の学生時代に、リバタリアンをテーマにしたラップも歌っていました。

トランプ政権で「政府効率化省(DOGE)」を率いるイーロン・マスクとビベック・ラマスワミ(水色のネクタイの男性)。共にリバタリアンだ(写真=ロイター/アフロ)
トランプ政権で「政府効率化省(DOGE)」を率いるイーロン・マスクとビベック・ラマスワミ(水色のネクタイの男性)。共にリバタリアンだ(写真=ロイター/アフロ)
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 そもそもリバタリアンとは何を指すのでしょうか。個人的な自由と経済的な自由の両方を追求することがよく取り上げられますが、それだけでは分かりにくいのではないでしょうか。

 “リバタリアンのバイブル”とも呼ばれるのが、ロシア系米国人の女性作家、アイン・ランドが1957年に発表した小説『肩をすくめるアトラス』です。リバタリアンの世界観をより具体的に感じていただくため、『天才読書』で解説した同書のあらすじを、簡単にご紹介します。

 舞台は、長引く不況に直面して社会主義化が進みつつある米国。国家による統制や規制が強まる中、民間企業のリーダーや、起業家、科学者たちは技術や製品を提供することを拒否する“ストライキ”を決行します。

 革新的なモーターや軽量で耐久性が高く安価な金属を発明するなど、傑出した高い能力を持つ人々が相次いで姿を消した結果、経済は立ち行かなくなり、政府は必死になって行方を捜します。彼らはロッキー山脈の渓谷に集まり、優れた能力を持つ者だけのコミュニティーを形成します。社会に途方もなく大きな価値を生み出す天才たちが真っ向から反旗を翻したことにより、政府は崩壊し始めます。

 テクノロジーで世界を変えようとするイノベーターにとっては共感できる点が多いストーリーでしょう。マスクやティールが読んで影響を受けたというのもうなずけます。ランドは革新的な技術を生み出す起業家を高く評価しており、「イノベーターこそが人類を前進させる」と述べていました。個人が生み出す成果は純粋にその人物の能力のおかげであり、優れた能力と知性がある人間は逆境を克服できるというのがランドの主張で、多くのリバタリアンが共鳴するところです。

税金廃止と、大麻使用の自由を主張する米リバタリアン党

 リバタリアンの思想をさらに知るため、米国のリバタリアン党が掲げる「Principles(行動指針)」を見てみましょう。同党の党員は約74万人で少数政党ですが、米国で共和党、民主党の2大政党に次ぐ、「第3の党」です。

 まず「個人の自由」については、「すべての個人が自分の人生に対して主権を持ち、他人の利益のために自分の価値観を犠牲にすることを強いられない世界を求めている」と書かれています。そんなの当たり前じゃないか、と思う読者の方も多いかと思いますが、リバタリアン党の認識は違います。

 歴史を通じて政府は「国家には個人の生命と労働の成果を処分する権利があるという原則に基づいて運営されてきた」と指摘します。ロシア革命を経験したランドが憎んだソ連の共産主義やナチスドイツのような全体主義がその典型といえるでしょう。自由の国とされる米国でも、ベトナム戦争が終わる頃まで徴兵制が存在し、現在でも18~25歳のほぼすべての米国人男性は、有事の際に徴兵される可能性がある「選択的徴兵制度(Selective Service System)」に登録する必要があります。

 このような政府が個人の自由や権利を制限する考え方にリバタリアン党は反対します。「生存権」に加えて、「言論および行動の自由」「財産権」など、個人のいかなる権利も政府は侵害してはならない、と行動指針で述べています。

 具体的には、「性的指向、嗜好、性別、性自認などが、個人に対する政府の処遇に影響を及ぼすことがあってはならない」とし、その対象として、結婚や親権などに加えて、兵役法も挙げます。また、「アルコール、タバコ、銃器、大麻の購入と使用は成人の権利と責任に任せるべきだ」、「国家による死刑執行に反対する」といった方針が明文化されています。

 「経済的な自由」については、「自由で競争的な市場が最も効率的である」と宣言。リバタリアン党の「小さな政府」を追求する姿勢は過激で、「すべての課税の最終的な廃止を目指す。その目的をさらに進めるために、所得税の廃止、内国歳入庁(IRS)の廃止を求める」とまで書かれています。IRSは日本の国税庁に当たります。また、自由な経済活動の一環として、売春の合法化を求めていることも特徴的かもしれません。

 もちろん自らをリバタリアンと呼ぶ人でも、それぞれの思想にはかなりの違いがあります。マスクやティールはリバタリアン党員ではありません。あくまで同党に参加するメンバーの間で一定の合意が得られた方針といえますが、リバタリアンを自称する多くの人の考え方は、上記のような思想と共通する部分があります。

 リバタリアン党の行動指針を読むとよく分かるのが、ランドの強い影響です。『肩をすくめるアトラス』に書かれた言葉に代表される、ランドの思想が取り入れられている部分が目立ちます。

 例えば、個人の自由については、「自分を他人の犠牲にしてはならないし、他人を自分の犠牲にしてもならない」「人は自分自身のために存在する」「自分自身の幸福を追究することが、人にとって最高の道徳的目的である」とランドは述べていました。

 経済についても「個人の権利を最大限尊重する自由な資本主義が理想的な唯一の社会体制である」と考え、経済活動は民間にできるだけ任せて、国家は可能な限り介入しない「自由放任資本主義」を理想としていました。このようなランドの思想は、リバタリアン党の行動指針と驚くほど重なります。

 リバタリアン党の創設者の1人であるデイヴィッド・ノーランは「アイン・ランドがいなかったら、リバタリアン運動は存在しなかっただろう」とまで述べています。リバタリアニズム(自由至上主義)の本質とリバタリアンの正体を知りたい人にとり、ランドが書いた本を読むことは助けになります。

ランドはリバタリアンを「右派のヒッピー」だと非難した

 マスクやティールはもちろん、読書をしないことで有名なトランプも、ランドのもう1つのベストセラー小説『水源』(1943年初版)を読んでファンになったと述べています。トランプは、自身がランドのファンで、『水源』は「ビジネス、美、人生、内面の感情に関係している。この本はすべてに関係している」と、2016年4月のUSAトゥデイのインタビューで述べました。トランプは『水源』の主人公、ハワード・ロークに共感したそうです。ロークは革新的な建築家で、伝統的な設計手法に背を向け、周囲に迎合したり、妥協したりすることなく信念を貫いて、建築の世界にイノベーションをもたらす英雄的な人物として描かれています。

 ランド自身はリバタリアンというレッテルを貼られることに拒否感を示し、リバタリアン運動を「右派のヒッピー」運動として厳しく非難しましたが、本人の意志とは裏腹にリバタリアンの“女神”のように祭り上げられていました。個人の自由と経済的な自由の両方を追求するランドの思想は、多くのリバタリアンに強い影響を与えています。

 リバタリアンとランドが、米国の政治に及ぼす深い影響は、トランプ政権に始まったことではありません。次回は、1970年代以降に広がった新自由主義との関係を踏まえて、現代の「テクノ・リバタリアン」の台頭について、考えたいと思います。

アイン・ランド。リバタリアンの“女神”とも呼べる存在だが、ランド自身はリバタリアンのレッテルを貼られることに拒否感を示した(写真=Cornell Capa/International Center of Photography/Magnum Photos/アフロ)
アイン・ランド。リバタリアンの“女神”とも呼べる存在だが、ランド自身はリバタリアンのレッテルを貼られることに拒否感を示した(写真=Cornell Capa/International Center of Photography/Magnum Photos/アフロ)
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天才イノベーター3人が選ぶ100冊を一挙紹介。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ。世界一の富豪になった3人は猛烈な読書家。歴史、SF、科学、経済学……古典から最先端まで。「21世紀の教養」が学べる最高のブックガイド! 著者テレビ出演(日本テレビ系列「世界一受けたい授業」)で大反響のベストセラーが、ついに文庫化。

山崎良兵著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)