天才たちはどんな本を読んでいるのか? テスラのイーロン・マスク、アマゾンのジェフ・ベゾス、マイクロソフトのビル・ゲイツ。世界一の富豪になったイノベーターたちは、実は猛烈な読書家です。書籍『 天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊 』の一部を抜粋し、加筆・再編集してお届けする連載の第6回では、天才たちの人柄を取り上げます。イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズはイノベーターとしては突出した成果を生んでいますが、人格に問題があるとの指摘もあります。破天荒な天才たちの性格にはどのような特徴があるのでしょうか?
テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクに対する批判が高まっています。「(買収した)ツイッターの従業員をいじめている」「自分を批判したジャーナリストのツイッターアカウントを凍結するような姿勢は許せない」……。ツイッター買収とその後の容赦ないリストラ、周囲があきれるような言動を受けて、マスクの人柄には問題があるという声が目立つようになりました。
ジェフ・ベゾスもアマゾン社内で「ナッター(狂気)」と呼ばれており、部下を激しく叱責(しっせき)することで知られていました。本連載の第5回『“狂気”と呼ばれたアマゾンのカリスマ、ベゾスの「教科書経営」』で紹介したように、仕事に激しい情熱を燃やす一方で、「君は無能なのか?」「そんなアイデアを出すなら首をくくらなきゃいけないな」と社員を叱るような非常に厳しい一面を持っていたそうです。
「天才はいつも私たちをがっかりさせてくれる。少なくとも人としては。ただ、その非は私たちの側にある。天才の基準は、その功績であって、人格でないことを私たちは忘れている。功績とモラルは別物になる可能性があることを私たちは見落としている」
『イェール大学人気講義 天才~その「隠れた習慣」を解き明かす』の著者で、同大学で天才に関する講義を担当してきたクレイグ・ライトはこう述べています。
天才の功績と人格は切り離して考えるべきだ、というのがライトの主張です。マスクの性格に問題があったとしても、テスラがEV(電気自動車)で起こしたイノベーションや、スペースXで再利用可能な宇宙ロケットを実現した実績は色あせることはありません。ベゾスが率いたアマゾンが小売りの世界を激変させたことに異論を唱える人もまずいないでしょう。

傑出した天才たちの人柄にはどのような共通点があるのでしょうか? 自分勝手で周囲のことをあまり考えない、性格に問題がある人物が多いという印象は確かに否めません。
出会った人を必要もなく侮辱し、ナイフのように心を傷つけたジョブズ
例えば、「Macintosh(マッキントッシュ)」から「iPod」「iPhone」まで数々の革新的な商品を生み出してきたアップル創業者のスティーブ・ジョブズ。イノベーションを持続的に生み出す究極のアイコン(偶像)になったジョブズも、性格的には問題が多い人物だったと言えるでしょう。
「ジョブズは上司としても人間としてもモデルになるような人物ではない。悪鬼につかれているかのように、周囲の人間を怒らせ、絶望させるのだ。しかし、彼の個性と情熱と製品は全体がシステムであるかのように絡み合っている―アップルのハードウェアとソフトウェアがそうなっていることが多いように」。『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』を著した伝記作家のウォルター・アイザックソンは、ジョブズをこう評します。
ジョブズには、出会った人を必要もなく侮辱し、ナイフのように心を傷つけていたというエピソードがいくつもあります。それでも、異常な熱意を持って完璧を追求する姿勢で商品開発に取り組み、ジョブズは数多くのイノベーションを生み出しました。
「現実歪曲(わいきょく)フィールド」というジョブズを象徴する有名な言葉があります。「だれもが不可能だと思っていることでも、巧みな話術によって、実現できると納得させてしまうこと」(デジタル大辞泉)を指します。
「カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でも捻じ曲げる熱意が複雑にからみあったもの─それが現実歪曲フィールドです」。前述の書籍『スティーブ・ジョブズ』に登場するソフトウエアデザイナーのアンディ・ハーツフェルドはこう述べています。
現実歪曲フィールドの根底にあるのは、自分は特別な存在であり、世間のルールや秩序に従う必要がないというジョブズの確固たる信念です。「自分は特別な人間、選ばれた人間、悟りを開いた人間だと考えており、力への意志や超人のような概念を感じる」とアイザックソンは述べています。
「相対性理論」で知られるノーベル賞物理学者のアルベルト・アインシュタインも、周囲の人の意見を聞かない自分勝手な性格でした。
アイザックソンが書いた伝記『アインシュタイン その生涯と宇宙』によると、アインシュタインは、幼少期から生意気で、権威に反抗する強情な性格だったそうです。ある校長は彼を学校から追い出し、別の校長は、「彼はろくな人間にならない」と断言したほどでした。
数学と物理で傑出した才能を示し、スイスのチューリヒ工科大学に進学したアインシュタインですが、反抗的な態度は変わりませんでした。この姿勢は教授陣の怒りを買います。「アインシュタイン君、君は大変賢い。極めて賢い。でも大きな欠点を持っている。君のことを他人がどのように話しているかを、君自身が決して聞こうとしないことだよ」。最初の指導教官だったハインリッヒ・ウェーバーはこう語って聞かせたそうです。
アインシュタインは別の物理学教授ともトラブルを起こし、物理学実習に真面目に出席しなかったという理由から公式な懲戒処分を受けたりもしています。しかし驚くほど強かった彼の反骨心は、常識にとらわれない独創的な理論を生み出す土壌にもなりました。
「強迫観念に取り憑かれた自己中心的人物が多い」
アイザック・ニュートン、トーマス・エジソン、ニコラ・テスラなどの歴史に名を残す偉人から、マスク、ジョブズ、ウーバー創業者のトラビス・カラニックまで、周囲の人を怒らせたり、傷つけたりしたエピソードが多い天才は、枚挙にいとまがありません。
「実際、天才は世界を変えたいという個人的願望に取り憑かれているため、性格的には一般の人々よりも悪いことも多い」。天才を研究してきた前出のライトはこう述べています。さらに天才は「強迫観念に取り憑かれた自己中心的人物が多い」とも指摘しています。
しかしながら、多くの天才に共通する、周囲を気にしない自己中心的な性格はイノベーションを生む力にもなります。
成功する起業家の条件について、書籍『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』の中で、著者のピーター・ティールはこう述べています。「シリコンバレーでは人付き合いが極端に苦手なアスペルガー気味の人間が有利に見える」。
空気を読めない人間は、周囲の人と同じことをしようとは思わないからです。「ものづくりやプログラミングの好きな人は、ひとり淡々とそれに熱中し、卓越した技能を自然に身につける。そのスキルを使う時、普通の人と違ってあまり自分の信念を曲げることもない」(ティール)。
日本では空気を読めない人は排除されがちです。しかし他人にどう見られるかを気にせず、好きなことに異常なまでの情熱を持って取り組む人物だからこそ、イノベーションを成功させられる確率も高まるのでしょう。
前述のジョブズやダ・ヴィンチの伝記を執筆したアイザックソンは『イノベーターズ 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』という本の中で面白い指摘をしています。「人に嫌われたくないという気持ちが強い」「怒らない、怒れない」「部下を指導しても、せきたてない」「意見の不一致があっても、対立を避ける」といった性格の人は、イノベーションを起こすという観点からは、理想のリーダーになれないそうです。
これは、部下にやさしい“人格者”のような人物が、イノベーションを起こすリーダーに必ずしも向いているわけではないとも言い換えられます。イノベーションには、世の中の多数派の意見に逆らい、常識を破壊するような革新性が求められる場合が多く、人に嫌われることを恐れていては挑戦すること自体が困難になります。
不可能に思える目標にまで社員を引っ張っていく
さらに意見が対立することを恐れず、真剣に議論しなければ、製品やサービスを研ぎ澄まされたレベルに引き上げることはできません。部下に愛情を持って接するのは大事ですが、能力を引き出し、より高い水準の仕事ができるように成長させるためには、厳しさも必要になります。
天才読書で詳しく紹介していますが、マスクが繰り返し読んでいるという『孫子』には次のような言葉があります。「部下を可愛がり過ぎて使うことができなかったり、大事にするだけで命令を実行させられなかったり、勝手にさせすぎて掌握できなくなったのならば、甘やかされた駄々っ子のように使い物にならなくなるだろう」。リーダーは部下に優しい態度を示すだけではダメで、規律と厳しさを持って接すべきだというのが孫子の主張です。マスクはその教えを、テスラやスペースX、ツイッターの経営において実践しているのかもしれません。
マスクやベゾス、ジョブズは、すでに述べたような「強迫観念に取り憑かれた自己中心的人物」の典型と言えそうです。そして部下には、常に高いハードルを乗り越えていくような猛烈な努力を求めます。「世界を変える」といった強い使命感を共有することで、意欲をかき立てて、不可能だと思われているような目標にまで社員を引っ張っていく──。そんな強烈なリーダーシップが特徴です。
人格者とはほど遠い破天荒な天才たち。しかし厳しい批判や反対を気にせず、自分が正しいと信じる道を突き進むパワーは、驚異的なイノベーションを実現する原動力にもなっています。
=文中敬称略
[日経ビジネス電子版 2023年1月19日付の記事を転載]
山崎良兵(著)、日経BP、2640円(税込み)
