「免疫力が上がる」「睡眠の質の向上」「ストレスを緩和する」などで注目される、ヨーグルトや乳酸菌飲料。習慣的にとっている人も多いのではないでしょうか。しかし、そもそもなぜ、ヨーグルトや乳酸菌飲料をとることで、免疫力や睡眠の質などに変化が起こるのか、知っていますか? そこには、私たち一人ひとりの腸内に生息する、細菌とのエキサイティングな共存関係が関わっているのです。新刊『 9000人を調べて分かった腸のすごい世界 』(國澤純著、日経BP)から抜粋、再編集して、ここ十数年で劇的に進む腸と腸内細菌研究の最前線をお届けします。1回目は「腸内細菌の知られざるすごい働き」について。

腸は「過小評価」されている?

「睡眠の質を上げる」「ストレスを緩和する」。
 近ごろ、ヨーグルトなどの乳製品や乳酸菌飲料のCMで、このようなキャッチコピーが使われるのを目にしませんか?
 そうしたキャッチコピーを見て、「ヨーグルトや乳酸菌飲料が健康にいい、とはいわれているけれど、腸内環境の改善と、睡眠の質の向上やストレス緩和とは、ちょっと話が違うのでは?」「『風が吹けば桶屋がもうかる』のような話を誇張しているのでは?」と感じた方もいるのではないでしょうか。
 たしかに、ストレスを感じたり睡眠の質に関わったりするのは、主に脳のはずですから、「なんで腸にいる菌が関係するの?」と不思議に思って当然です。

 でも、最新の腸と腸内細菌の研究を少し見ていただければ、その疑いは晴れることでしょう。近年、「脳腸相関」といって、「脳と腸は互いに影響し合っている」ことが実証されつつあるからです。
 脳の状態が腸に影響を与えるだけでなく、腸の状態が脳を変える力を持つ。そうした特徴から、腸は「第二の脳」ともいわれています。

 特にここ数年は、腸内細菌が脳の働きに与える影響についての研究が進んでいます。例えば、2020年に報告された、国立長寿医療研究センターの佐治直樹氏らの研究によると、「腸内細菌が代謝の過程で生み出す乳酸が多い人では、認知症リスクが低い」という相関関係が明らかになっています(※1)。
 また、同じ研究グループの別の報告では、認知症の人と認知症でない人の腸内細菌を比較すると、認知症の人の腸内細菌には、種類が明らかにされていない不明の菌が増えていることも分かりました(※2)。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

 腸の研究が進んだのはこの10年、20年の話で、脳腸相関についても明らかになっていないことが多いのが現状です。ただ、「過度の緊張や不安から、お腹が痛くなると同時にグルグルッと便意をもよおした」という経験は誰にでもあると思います。これはまさに脳腸相関を表す現象で、脳で感じたストレスが腸に伝わるために起きています。

 逆に、お腹の調子が悪いと、物事に集中しづらくなりますよね。これは「いつ便意をもよおすか分からなくて落ち着かない」ということもありますが、腸が抱える不調が脳に影響を与えるために、そうなっているわけです。

 この脳腸相関は、おそらく研究の進展以上に、日常生活で実感されていることではないでしょうか。実際、古くから私たちは、「腹言葉」という形で脳と腸の関係性を認識してきました。
 例えば、激しい怒りを抑えきれない状態を表す「腸(はらわた)が煮えくり返る」、非常に苦しくて悲しい気持ちを表す「断腸の思い」、納得がいくという意味の「腑(ふ)に落ちる(腸は五臓六腑の六腑の一つ)」など。感情や思考と腸が密接であることが分かります。

 また、「直感」は英語で「Gut Feeling」といいますが、「Gut」の意味は「腸」。「ガッツを出せ」のガッツ(Guts)も同様で、内臓=体の奥にある底力といった意味です。日本語だけではなく英語でも、感情や行動を表す言葉に「腸」が使われているのです。
 私たち人間は人種を問わず、感情や行動を司る脳が腸とつながっていることを、感覚的に知っているからではないか、と想像せずにはいられません。

(※1) Naoki Saji et al., “Relationship between dementia and gut microbiome-associated metabolites: a cross-sectional study in Japan” Sci Rep. 2020 May 18; 10(1):8088.
(※2) Naoki Saji et al., “Analysis of the relationship between the gut microbiome and dementia: a cross-sectional study conducted in Japan” Sci Rep. 2019 Jan 30;9(1): 1008.

「腸活=便秘対策、善玉菌」の先の「これからの腸活」

 脳腸相関という新たなトピックが注目される一方で、腸活というと、「イコール便秘対策」というイメージも根強いと思います。ずっと、腸に関する健康法といえば便秘対策が中心でした。
 情報番組や健康誌で取り上げられていた方法には、「毎朝バナナを食べると“出”がよくなる」「主食を玄米に変えると快便になる」「ゴボウなどの食物繊維が豊富な野菜を食べると“詰まり”にくい」といったものがありました。
 快便であることは確かに大事ですし、こうした方法の多くには効果が期待できます。しかし、こうした便秘対策だらけの「腸活」像が、あたかも「腸は便を排せつするため(だけ)の臓器」という印象をつくってしまっているのではないかと感じています。

 そうした「便秘対策の腸活」から一歩進んだ考え方が、「腸内環境の改善」「腸内環境の正常化」による様々な健康効果の増進でした。ここでのポイントは「善玉菌」を増やして「悪玉菌」を減らすこと。この考え方を通して、「善玉菌」の代表である乳酸菌やビフィズス菌(Bifidobacterium)の名前も浸透しました。しかし、様々な研究が進む今、アップデートが必要です。

 なぜなら、これまで「悪玉菌」とされてきた菌の中にも、実は一部でいい働きをしている菌もいることが明らかになってきたから。そして、ある腸内では「悪玉」とされている菌が別の菌の存在によって何の“悪さ”をしないこともあるからです。腸内は、「善玉菌vs.悪玉菌」といった単純な世界ではありません。

 さらに花粉症の増加にともなって「免疫」に注目が集まると、腸に免疫細胞が多く集まっていることから、腸の重要性が再認識されました。「花粉症にはヨーグルトを食べて腸の免疫力を整えるといい」ということを見聞きした人は多いでしょう。腸と密接に関わっている「免疫」についても重要なテーマの1つです。

腸は「体内に吸収するか、排出するか」の仕分け窓口

 私たちが口から入れた食べ物は、食道を通って胃で消化され、さらに腸でも分解され、栄養として吸収できる形になります。口から入れたものを「吸収」するのは、腸の役割。腸で栄養が吸収され、様々な組織や器官に送られます。

 このように、腸は口から入れた食べ物が吸収される「体への入り口」となっています。しかし、実はそこには食べ物だけではなく、外から入ってきたウイルスや病原細菌、ホコリ、アレルゲンなどの有害な異物(抗原)も混入しています。

 そうした「体に吸収すべきもの(食品や栄養)」と「吸収せずに排出すべきもの・危険なもの(病原体やアレルゲンなど)」がごちゃまぜになっている腸の中で、正しく仕分けを行い、さらに後者が悪さをしたり、侵入したりしないように防御しているのが腸の免疫です。

 今では、「免疫力を高める」などと聞くと「腸」という特定の器官を思い浮かべる方もかなり多くなったのではないかと思いますが、「体の番人」としての腸に体全体の半分以上の免疫細胞が集中しているのは、常に“外敵”の脅威にさらされている部位だからでしょう。

 実際に、腸管の内側を観察してみると、異物を抗体で排除したり、食べて処理したりするなど、様々な役割を持つ免疫細胞が存在します。腸は人体最大の免疫器官で、「免疫臓器」ともいえるのです。
 花粉症などのアレルギー、風邪やインフルエンザの流行によって、腸が免疫の要であることを知った人もいると思います。「腸活=免疫力アップ」がもはや一般常識化したといっても過言ではないかもしれません。

 実際、腸にアプローチして「免疫力を高める」乳酸菌が注目され、商品化もされてきました。その流れは、今後もしばらく続くことが予測できます。

(第2回に続く)

私たちの腸内には、体を構成する細胞の数の倍以上もの「腸内細菌」が生息しています。そして「生活習慣病などにかかりやすさ・かかりにくさ」「感染症などの重症化のしやすさ」「太りやすさ」「ストレスの感じやすさ」など、多岐に影響を与え得ることが明らかになっています。ここ十年ほどで飛躍的に進んだ世界最先端の研究から、腸の不思議で面白い世界、そして腸内細菌を味方につける生活法を、腸と免疫の第一人者が語ります。

國澤純(著)/日経BP/1760円(税込み)