「免疫力が上がる」「睡眠の質の向上」「ストレスを緩和する」などで注目される、ヨーグルトや乳酸菌飲料。習慣的にとっている人も多いのではないでしょうか。しかし、そもそもなぜ、ヨーグルトや乳酸菌飲料をとることで、免疫力や睡眠の質などに変化が起こるのか、知っていますか? そこには、私たち一人ひとりの腸内に生息する、細菌とのエキサイティングな共存関係が関わっているのです。新刊『 9000人を調べて分かった腸のすごい世界 』(國澤純著、日経BP)から抜粋、再編集して、ここ十数年で劇的に進む腸と腸内細菌研究をお届けします。2回目は「ポストバイオティクス」について。研究の最前線に迫ります。

(第1回から読む)

人体を構成する細胞数よりも圧倒的に多い「腸内細菌」の神秘

 腸内にどんな細菌がどのくらいいるのかは人によってまちまちですが、国ごとに、ある程度の傾向があることも分かっています。
 例えば日本人の腸内細菌の特徴として、ビフィズス菌が多いことが挙げられ、平均すると腸内細菌の約15%を占めるといわれています。しかし、個人ごとのビフィズス菌の量を見てみると、腸内細菌の半分以上がビフィズス菌という多い人もいれば、ほぼゼロという人もいます。つまり、ビフィズス菌だけ見ても、人種の違いだけでなく、同じ日本人でも大きな個人差があるのです。
 ヒトの腸内に生息する菌の数は、100兆個に及ぶといわれます。人体を構成する細胞数が30兆~50兆個なので、腸内細菌のほうが圧倒的に多いことになります。
 腸内細菌の種類は多い人で約2000種類、平均すると700~800種類です。一口にビフィズス菌や乳酸菌といっても、膨大な数の菌株が存在して、その数は研究が進むにつれて増えています。乳酸菌飲料やヨーグルトなどの商品名で、菌の名前のあとに「○○株」や、アルファベットと数字が続くものがありますよね。あれが「菌株」の名称を示しています。

 菌は棒状や球状、枝分かれ状など形状も様々ですが、機能もバラバラです。これら異なる働きをする菌が集団を形成して腸内に棲むことで、あたかも1つの生命体のようになっていることから、「腸内細菌叢(そう)」や「マイクロバイオーム」といわれます。また、菌が集団を成す形状がお花畑(フローラ)のように見えることから、「腸内フローラ」という名称も付いています。

健康のカギ「腸内細菌がつくる代謝産物=ポストバイオティクス」

 「ポストバイオティクス」という言葉を聞いたことがありますか? 腸内細菌が生み出す代謝産物のことで、これからの健康や体質を考える上で欠かせないキーワードになります。ポストバイオティクスが、研究者などの専門家の間で注目されだしたのは、5、6年前からだと記憶しています。

 最初に使われた「○○ティクス」という言葉は、「プロバイオティクス」です。イギリスの微生物学者フラーによる「腸内細菌叢のバランスを改善することにより、人に有益な作用をもたらす生きた微生物」という定義が広く受け入れられています。こうした微生物が、いわゆる“有用菌”のことで、様々な発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto、糖化菌の一種)、酢酸菌(Acetobacteraceae)、酪酸菌(Clostridium butyricum)などを指します。「いい働き」をしてくれる菌を体内に入れましょう、というわけです。

 次に知られるようになったのは、「プレバイオティクス」。有用菌を増やすエサのことで、主に食物繊維やオリゴ糖を指します。「いい働き」をしてくれる菌の働きを加速するためのエサをとりましょう、ということになります。

 「プロバイオティクス(有用菌)とプレバイオティクス(そのエサ)を組み合わせて両方とると、もっと効果が出るよね」という考えを「シンバイオティクス」といいます。シンバイオティクスの「シン」は、相乗効果を意味する「シナジー」からきているようです。

 さらに研究が進み、今、注目ワードになりつつあるのが「ポストバイオティクス」です。ポストバイオティクスとは、食品成分を材料に腸内細菌がつくり出す、健康に有用な代謝産物のことです。

 腸内細菌はその名の通り「腸にいるもの」です。その腸内細菌が、体の様々な部位やいろいろな体質などに影響を及ぼしているのは、菌が腸でつくり出したもの、つまり「ポストバイオティクス」が、腸から吸収されて、体じゅうで働いているから、ということにほかなりません。その働きが、人にとって非常に重要だということが分かってきたのです。
 代表的なポストバイオティクスは、「短鎖脂肪酸」です。短鎖脂肪酸は有機酸の一種で、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにして生み出す成分です。私たちの体に有益に働く短鎖脂肪酸は、酪酸、酢酸、プロピオン酸の3つになります。

 どれも、健康意識が高い人なら聞いたことがあると思いますが、ポストバイオティクス、つまり腸内細菌の働きによって生み出されているものとして認識している人は少ないのではないでしょうか。

(写真:Shutterstock)
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 短鎖脂肪酸の働きは多彩で、代表的なものは次の通りです。①~④は腸内環境に寄与する働きで、⑤~⑧は体内に吸収されて全身に寄与する働きです。

【短鎖脂肪酸のおもな働き】
 腸内環境に寄与する働き
    1. 腸内を弱酸性に保ち、有害な菌の発育を抑制して、有用菌の発育を促す
    2. 腸の活動エネルギーになって、ぜん動運動を促す
    3. 腸が水やナトリウムを吸収する際のエネルギー源になる
    4. 腸管のバリア機能を強化する …など

      全身に寄与する働き
    5. 疫の働きを整える
    6. 血糖値を一定に保つホルモンのインスリンの分泌を調整する
    7. 脂肪細胞の肥大化を抑制して、肥満を予防する
    8. 炎症を抑制する物質をつくって、生活習慣病などの予防と改善をする …など

 知らないところで、こんなにも短鎖脂肪酸の“恩恵”にあずかっていたのか、という驚きを覚えませんか? こんな重要な働きをしているポストバイオティクスは、短鎖脂肪酸以外にも、いろいろと見つかってきています。

「ストレス緩和」機能で知られるGABAもポストバイオティクス

 ストレス緩和、睡眠の質の改善といった機能を表示する食品やサプリメントに使われているγ-アミノ酪酸(GABA)。トマトや玄米といった食品にも含まれますが、ヒトの腸内細菌が生み出すポストバイオティクスの1つでもあります。

 GABAは、私たちの脳の中でも合成されるアミノ酸の一種です。交感神経を抑制して心身を落ち着かせることで、ストレス緩和などのリラックス効果をもたらす可能性が明らかになっています。

 脳内でもつくられる神経伝達物質として知られているため、ポストバイオティクスであるというのは意外かもしれませんが、腸内でも乳酸菌やビフィズス菌がGABAを生み出します。前述した脳腸相関を踏まえると、腸内細菌が生み出したものが脳内に影響を与えても、不思議はありません。

乳酸菌が生み出すポストバイオティクス「EPS」

 続けて、研究が続々進んでいる、注目のポストバイオティクスの1つ「EPS」を紹介します。「exoplysaccharide/エキソポリサッカライド」の略で、日本語で「菌体外多糖」といいます。

 EPSは菌から分泌・産生される多糖の総称で、ヨーグルトの「とろみ」をもたらすといわれています。EPSは、環境ストレスなどから菌自身の身を守る役割があり、生きていくために必要不可欠な物質です。それだけではなく、ヒトへの健康作用があることも分かってきました。

 特筆すべき健康作用は2つあって、1つ目は食物繊維と同じように働くことです。EPSは菌体外多糖という名の通り、単糖が集まった多糖ですが、難消化性のため小腸で分解されずに大腸に届きます。そして有用菌のエサになり、短鎖脂肪酸の産生を促します。まるで食物繊維と同じように働くことから、EPSは「乳酸菌がつくる食物繊維」といっても過言ではありません。

 2つ目は、免疫機能を高めて、インフルエンザや風邪のウイルスから、体を防御する作用です。EPSを生み出す乳酸菌の菌株はいくつかあり、それぞれ研究が進められています。

 例えば、フィンランドで広く親しまれている伝統的なヨーグルト「ヴィーリ」は、スプーンですくうと伸びるほど粘りがあることが知られており、この粘りこそが、ラクトコッカス・クレモリス菌(Lactococcus lactis subsp. cremoris)が生み出したEPSです。ヴィーリのEPSは、アンチエイジング・老化防止に重要な抗酸化作用や、アレルギーや糖尿病・高血圧・がんといった生活習慣病をはじめとする全身の様々な病気や不調の原因となる炎症をおさえる作用、免疫の機能を調整する作用などが報告されています(※1)。
 フィンランドは脂肪の摂取量の割には大腸がんが少ないとされますが、その背景にも、先進的ながん検診体制だけでなく、この国民的なヨーグルトに含まれるEPSが関係しているのではないか、という説もあるようです。
 また、こちらもとろりとした食感のカスピ海ヨーグルトに含まれるクレモリス菌FC株が生み出すEPSでは、インフルエンザウイルス感染後の生存率を上げる作用(※2)、また、大腸炎の症状を緩和する作用(※3)が明らかになっています。

 クレモリス菌以外にも、ラクトバチルス・ブルガリクス菌(OLL1073R-1株)が生み出すEPSで、免疫細胞のうち、ナチュラル・キラー細胞の活性化を促す働きがあり、その結果、インフルエンザにかかりにくくなったという報告があります。
 EPSのいずれの作用も、現時点ではマウスで確かめられたものですが、例えばラクトバチルス・ブルガリクス菌で発酵させたヨーグルトを8~12週にわたって食べた高齢者と同じ期間だけ牛乳を飲んだ高齢者とでは、ヨーグルトを食べた高齢者のほうが風邪を引くリスクが優位に低かったということが実験で明らかになるなど、人への影響についても徐々に明らかになっています(※4)。
 乳酸菌が生み出すEPSについては、その免疫調整作用に注目し、研究が進められているケースが多いようです。

(※1) Haruki Kitazawa et al., “Antitumoral Activity of Slime-forming, Encapsulated Lctococcus lactis subsp. cremoris isolated from Scandinavian Ropy Sour Milk, “viili”” Nihon Chikusan Gakkaiho. 1991; 62(3): 277–283, P.Ruas-Madiedo et al., “Short Communication: Effect of Exopolysaccharide Isolated from “Viili” on the Adhesion of Probiotics and Pathogens to Intestinal Mucus” Journal of Dairy Science. 2006 July; 89(7): 2355–2358, Hajime Nakajima et al., “Cholesterol Lowering Activity of Ropy Fermented Milk” Journal o f Food Science. 1992 Nov; 57(6): 1327–1329.
(※2) T Maruo et al., “Oral administration of milk fermented with Lactococcus lactis subsp. cremoris FC protects mice against influenza virus infection” Lett Appl Microbiol. 2012 Aug; 55(2): 135–40.
(※3) Yosuke Nishitani et al., “Lactococcus lactis subsp. cremoris FC alleviates symptoms of colitis induced by dextran sulfate sodium in mice” Int Immunopharmacol, 2009 Nov; 9(12): 1444–51.
(※4) Seiya Makino et al., “Reducing the risk of infection in the elderly by dietary intake of yoghurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1” Br J Nutr. 2010 Oct; 104(7): 998–1006, Haruki Kitazawa et al., “Phosphate group requirement for mitogenic activation of lymphocytes by an extracellular phosphopolysaccharide from Lactobacillus delbrueckii ssp. Bulgaricus” Int J Food Microbiol. 1998 Apr 14; 40(3): 169–75, H S Gill et al., “Enhancement of immunity in the elderly by dietary supplementation with the probiotic Bifidobacterium lactis HN019” Am J Clin Nutr. 2001 Dec; 74(6): 833–9, Y H Sheih et al., “Systemic immunity-enhancing effects in healthy subjects following dietary consumption of the lactic acid bacterium Lactobacillus rhamnosus HN001” J Am Coll Nutr. 2001 Apr; 20 (2 Suppl): 149–56.

(第3回に続く)

私たちの腸内には、体を構成する細胞の数の倍以上もの「腸内細菌」が生息しています。そして「生活習慣病などにかかりやすさ・かかりにくさ」「感染症などの重症化のしやすさ」「太りやすさ」「ストレスの感じやすさ」など、多岐に影響を与え得ることが明らかになっています。ここ十年ほどで飛躍的に進んだ世界最先端の研究から、腸の不思議で面白い世界、そして腸内細菌を味方につける生活法を、腸と免疫の第一人者が語ります。

國澤純(著)/日経BP/1760円(税込み)