「1つの分野で5冊読めば、本の当たり外れが分かる。20冊読めば、その分野の大学の先生に質問ができる。30冊読めばその分野の論文を理解できるようになる」。東京カメラ部社長、塚崎秀雄さんのインタビュー第1回は、なぜ、読書は仕事に役立つのか。読書と仕事への姿勢、運と人との出会い、知識と情報の関係について、図解とともにお話しいただきました。

運と出会いと姿勢の関係

 仕事で成果を出せるかどうかは、「運」の要素が圧倒的に大きいと思います。そういってしまうと身もフタもないと思われるかもしれません。しかし、運を因数分解すると質と数の掛け算なので、運でもある程度なら自分で引き寄せることができると考えています。

 例えば、「運=人との出会い」と考えてみれば分かりやすいでしょう。より素晴らしい人(質)と、より多く(数)出会うことができたなら、勝率が高い機会に巡り合える可能性が上がります。結果、仕事がうまくいく可能性は格段に高まる、つまり運が上がるはずです。

 では、どうすれば出会いの機会を増やせるか。それにはまず、自分の「姿勢」を整える必要があります。人と誠実に向き合えなければ、誰も近づいてはくれないでしょう。これが仕事上で不可欠な要素の1つです。

 もちろん、運だけではありません。どんな仕事であれ自分のスキルを磨くことが欠かせません。それは大きく分ければ「知識」と「技術」でしょう。ただいずれにせよ、何をどう学ぶか、どこまで自分を高めたいかという意欲が必要です。つまり、ここでも問われるのは「姿勢」です。

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 ざっくり整理すると、仕事で成果を出すために必要なのは知識と技術と運。そのすべての土台となるのが姿勢。これが私の仕事観です。そして、このいずれにも深く関わって自分を磨いてくれるのが、本だと思っています。

本からでなくては得られないもの

 わざわざ本を読まなくても、必要な情報はウェブ上から拾えばいいという意見もあるでしょう。確かに知識・技術に関しては、ウェブ化されている情報がかなりあります。特に技術については常に新しさが求められるので、ウェブの得意な領域であることは間違いありません。しかしどんな分野であれ、より広く深く知ろうと思えば、まだまだ本の情報の質・量にはかなわないと思います。

 それに、姿勢については、ほとんどウェブ化されていません。一方、姿勢を個々人の生きざまや哲学にも関わる話と捉えれば、古今東西の賢人たちがさんざん悩みながら記してきた名著が多数あります。人間の本質が太古から今日まで変わらないとすれば、その膨大な英知の蓄積から学ばない手はないでしょう。だから読書なのです。

 ただし、知識・技術・姿勢、それぞれを学ぶ上で、本の選び方・読み方は少し変えたほうがいいと思います。

 まず知識を得たい場合は、とにかく広く深く知るために量を読むことが大事。だいたいどんな分野でも、議論が分かれる部分があるものです。その一部だけを読んで分かった気になるのは、何本かの木を見て森を見ないようなもの。だから何冊も読む必要があるわけです。

 私の感覚でいうと、1つの分野について、だいたい30冊読めば全体像を把握できます。世の中の本がすべて良書とは限りませんが、これだけ読めば“当たり”の本があるはずです。

「読書によって仕事への姿勢が整えば、運も引き寄せられます」と話す塚崎秀雄さん
「読書によって仕事への姿勢が整えば、運も引き寄せられます」と話す塚崎秀雄さん

 30冊というと、読み慣れていない方には途方もない量に思えるかもしれません。しかし1冊読むと、まずその分野の用語が分かるようになります。5冊ほど読めば、本の当たり外れがだいたい分かってくる。20冊も読めば、その分野の大学の先生に質問できるようになります。そして30冊読めば、その分野の論文まで理解できるようになる。それで足りなければ、論文を何本か読み込めば、たいていの会社で「その分野に詳しい人」という扱いになれるでしょう。あとは仕事の現場で経験を積めばいいはずですから、仕事上ではそれくらい知識を持っていれば十分でしょう。

プロと付き合うパスポート

 本番はここから。読書で知識を得ることは、プロと対等に話をするためのパスポートを持つようなものです。私は今の会社を立ち上げる前、東京証券取引所、A.T.カーニー、ソニーの3社で働いてきました。東証とA.T.カーニーで働いていたのは20代でしたが、生意気にも上司やクライアントに向かっていろいろ提言するのが常でした。

 業界での経験が圧倒的に浅いのにそれが可能だったのは、それぞれの分野に詳しい方から、業界の課題や今後の狙い目などを聞くことができたからです。なぜ聞けたかといえば、その前にその分野に関する本を30冊読んで、必要最低限の知識を頭に入れていたから。そのため、適切な質問ができたので、「こいつはある程度知っているな」と認識されて、いろいろ話してもらえたわけです。

 こういう経験があったので、私は若い人にも「30冊」読むことを推奨しています。見方を変えれば、わずか30冊の読書で業界に精通し、仕事が一気にしやすくなるということです。さらにいえば、自分のキャリアも切り開ける。かかるお金はせいぜい3万~9万円くらいです。これほど効率的な自己投資方法はないでしょう。

 次に、技術については、頭で考えるより、身に付けたり、試したり、磨いたりすることが大事。ただし、いずれにせよやり方があるはずなので、そのノウハウを本から吸収する。したがって、本を読むのは量よりも質、そして選ぶ際には、基本的には新しさが重要だと思います。

 とりわけ昨今は変化が激しいので、少し前まで最先端だった技術があっという間に陳腐化することがよくあります。例えばIT関係では、少し前のバージョンや技術スペックを前提として書かれた本はほとんど役に立ちません。

 そして最終的には、見て学ぶのが一番。その分野の第一人者と呼ばれているような人の仕事ぶりを観察し、自分でもまねてみるのが上達の近道でしょう。ただその場合も、技術のイロハを身に付けていなければ、勘所は分からない。だから大前提は読書です。

 それから姿勢については、知ることより考えること、あるいは考えている人と交流することが大事。ノイズが増えると考えの妨げになるので、基本的には量よりも質に気を付けて本を選ぶようにしています。最終的には好みの問題ですが、時々読み返して自分を叱咤(しった)激励してくれたり、冷静にさせてくれたり、働く意味のようなものを考えさせてくれたりする本が望ましいのではないでしょうか。

 次回からは、仕事に役立つ本として『ラッセル幸福論』『アラン幸福論』『失敗の本質』『ゲンロン戦記』『NHKテキスト 100分de名著 ブルデュー「ディスタンクシオン」』『ぼくを探しに』の6冊を順に紹介していきます。

取材・文/島田栄昭 写真/塚崎秀雄さん提供