「脳は使い方次第で80歳でも成長する」「大人になっても記憶力は落ちない」と説き、脳機能は加齢と共に衰えるというイメージを覆す1冊『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)が話題だ。著者はMRIによる「脳個性診断」や、脳を機能で区分した「脳番地」に基づくトレーニング法を提唱する、脳内科医の加藤俊徳氏。自身も60歳を超えても、分野を横断した研究・啓蒙活動を精力的に行う同氏が、学習効率を最大化する「大人の脳の使い方」を伝授する。[日経クロストレンド 2023年6月1日付の記事を転載 一部情報を更新]

加藤俊徳氏
大人の脳の仕組みに合った学び方を、キャラクターを用いて分かりやすく解説
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脳内科医 加藤俊徳 氏
かとう・としのり。1961年、新潟県生まれ。医師・医学博士、「脳の学校」代表、加藤プラチナクリニック院長、昭和大学客員教授、日本小児科学会小児科専門医、日本医師会認定産業医。専門分野はMRI脳画像診断、脳科学、発達障害、ADHD、認知症。著書に『 1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き 』(ダイヤモンド社)、『 部屋も頭もスッキリする! 片づけ脳 』(自由国民社)、『 脳とココロのしくみ入門 』(朝日新聞出版)、『 ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング” 』(大和出版)、『 大人の発達障害 』(白秋社)、『 人生がラクになる 脳の練習 』(日経BP)など多数
加藤俊徳『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)2022年11月発売
加藤俊徳『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)
2022年11月発売
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「脳の旬」は中年期にやってくる

──多くの人が中年期あたりから「記憶力が落ちた」「物事を学ぶのが難しくなった」と感じ始めます。しかし本書ではむしろ、40代や50代こそが物事を学ぶのに人生で最適の時期だとしています。

 「大人になると記憶力が落ちる」は、実は大きな間違いです。確かに、小さな子供が意味も知らない言葉を聞いただけで覚えるように、いわゆる「丸暗記」には子供の脳の方が向いています。それが、大人になると丸暗記が難しくなるのは、記憶力が衰えるからではなく、記憶するための脳の仕組みが変わるからなんです。

 例えば、スポーツの世界では年を取ったプレーヤーは、体力が落ちた分をテクニックや戦略で補いますね。脳も同じで、年を取ると丸暗記の力は落ちますが、一方で学生時代には理解が難しかった複雑な物事に向き合い、知識をより深く学べるようになる。

 脳の中でも特に複雑な情報処理を行う「超頭頂野」は40代でピークを迎え、実行力や判断力をつかさどる「超前頭野」は50代がピーク。それどころか脳科学的には、脳は一生成長を続けることができ、使い方次第では80歳を超えても成長します。

──大人になっても「丸暗記型」の学び方をしているせいで、頭に入りにくいと感じていたのですね。

 人間の脳は各場所ごとに様々な役割を担っていて、私はそれらを「脳番地」と名付けています。物事を覚えたり思い出したりするには、「記憶系脳番地」を働かせる必要がある。子供時代は「聴覚系脳番地」から「記憶系」へとつながるルートが強いため、意味が分からなくてもとりあえず聞き覚え、後から理解が追い付いてくる丸暗記がしやすい。しかし大人になるにつれ、脳は物事の意味を理解して初めて記憶できる仕組みへと変わっていく。何かを記憶したいと思ったら、同時に「理解系脳番地」などを働かせなければならない。大人の「記憶系」は、単独ではしっかり働いてくれないのです。

 このように、それぞれの脳番地の働きや仕組みを理解してうまく連携させ、活性化することが大人の勉強ではとても大事なんです。得意分野があるからといって、同じ脳のルートばかりを使っていると、脳全体の機能が低下してしまいます。

脳番地の位置(『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』50ページより)
脳番地の位置
(『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』50ページより)
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脳科学で「気の進まない勉強」を攻略

──仕事で必要な知識や資格試験の勉強など、大人でも必要に迫られて、なじみのない分野について学ばなければならないことがあります。とりわけ、あまり気の進まない勉強を、脳科学の観点から効率よくこなすコツはありますか?

 脳の容量は無限ではないため、脳は常に必要な情報をしぼり込み、今まであまり縁のなかった物事に関する情報は受け付けにくいという特性があります。逆に、情報を取り込む「視覚系脳番地」と「聴覚系脳番地」は、自分が好きで興味を持っていることや、過去に既に見聞きしたことがある物事に関しては受け入れやすい。この特性をうまく利用します。

 私自身、全く興味がなかったり理解できない本を、1ページ目から律義に読んでいくことは大の苦手です。ではどうするか。本の中で、自分が分かりそうな部分、楽しそうだと感じる部分を先に読み、「分からない部分は後でやろう」という発想で取り組む。すると、先に分かる部分を押さえることによって、「何が分からないのか」「どのように分からないのか」も把握され、結果的に全体を理解するスピードも速くなるのです。

──脳が受け付けやすい、自分にとって最も身近だと感じる部分から取り組めばよいのですね。

 もっと単純に「身近さ」を脳に錯覚させる方法もあります。例えば私は昔、散歩に出るときに、読むのがちょっと面倒だなと思う論文を、カバンの中に入れて持ち歩いていました。別に散歩中には読みません(笑)。でも、カバンの中に入っていると、論文のタイトルくらいは頭をよぎる。そのうちに不思議と、「ちょっと読んでみようかな」と思えてくる。本も同じです。ずっと持ち歩いていたんだから、パラパラとページをめくってみるくらいはしないと損だなという気持ちになってきます。

 芸能人の熱愛報道では、「ドラマで共演したのがきっかけ」というケースがよくありますよね。人間の脳はそもそも、一緒に過ごす頻度や接触時間が増えるほど、親近感を抱きやすくできている。勉強も同じで、参考書に触れる機会を物理的に増やせば、自然と抵抗感が軽減されていきます。

 それでもうまくいかないときは、参考書や資料の内容そのものよりも、まず著者本人に興味を持ってみるのも一手です。例えば、いきなり本居宣長が書いた本を読むのはハードルが高くても、どんな人生を送った人なのか、恋愛に関するエピソードなど、何か人間味のあるところを見つけてみる。本人に興味を持ち始めると、その人が書いたものも自然に読んでみたくなってくるわけですね。

気分屋な「海馬」をうまくだましてコントロール

──大人の勉強では、モチベーションのつくり方がより一層大事なのですね。

 新しく覚えた物事を長期記憶として残すかどうかは、脳の中枢を担う「海馬」が判断しています。この海馬は非常にストレスに弱く、すぐに“居眠り”をし、サボりやすい。また、自分の興味があることしかやらない気分屋で、「視覚系」や「聴覚系」が運んできた情報の多くは、海馬によって「保存不要」と判断され捨てられてしまいます。

 つまり、記憶にとどめるためにはいかに海馬に「これは長期記憶に残さなければ!」と思わせるかが重要です。嫌々ながら勉強しようとすると、ストレスで海馬が萎縮して記憶力も低下する。モチベーションや意味付けは、海馬に気分よく働いてもらうためにも大事なんです。

 特に「感情系脳番地」が強く働いた情報は、海馬に「長期記憶行き」と判断されやすい。心からの興味や憧れを持って学習に取り組んでいれば、そもそものモチベーションが高いうえに、本を読んでいない時間にもワクワク感が続いたり、その分野で尊敬する人に対して「やっぱりすごい!」と憧れを反すうしたりして、勉強をしていない時間にも記憶が強化されていきます。

 実はこの仕組みを使い、勉強そのものにはモチベーションが湧かなくとも、好きな飲み物を飲みながら学習したり、好きな先生の授業を履修したりすることでワクワク感を高め、海馬にうまく錯覚を起こさせる手も有効です(笑)

──「リスキリング」に取り組む人にもヒントになりそうです。

 「リスキリングをしたい」や「頭がよくなりたい」といった、それ自体を目的にするのは、持続可能な強い学びの動機にはなりにくいです。リスキリングでは、多くの人が「働くスキル」を身に付けようとして勉強しますが、興味の領域を広げたり、自己発見につながったりすると感じられるリスキリングにこそ、人は心からの価値を感じやすい。取り組むことで、自分にとっての1日が「生きた心地」のするものになったり、楽しくなったりする感覚を重視すれば、結果的に学習効率も上がります。

──学習に取り組んでいく中で、モチベーションを見失うなど、メンタルが不安定になったときの対処法は?

 メンタルが不安定だと感じるときは、脳に情報を入れようとしないことが大事です。まずは生活を規則正しい周期に戻し、暴飲暴食はせず、適度な運動をする。脳は細胞でできていますからね。その仕組みを壊すような生活をしていると、正常に作動しなくなります。人間が何かを「面倒だ」と感じるときは、脳に情報がうまく入らなくなっている状態、負荷がかかる案件だと脳が判断している状態だと考えてください。

「脳が決定的に変化したに違いない!」

──加藤さんはどのような経緯で、脳機能の研究に取り組むようになったのですか。

 そもそもの発端は、私自身の脳の働きに対する悩みや問題意識です。昔からテストが苦手で、テストのために暗記するタイプの勉強にはモチベーションが上がらず、学校教育になじめませんでした。けれど、医学の分野に進んでからは、小児科学、アルツハイマー研究、MRI研究、老年医学と、多岐にわたるジャンルを学んで研究し、今では会社経営もしています。学校では勉強ができなかった私が、なぜそんなことができるようになったのか。

 大学院を出たとき、「もうテストなんて受けなくていいんだ!」と思った。もちろん不安もありましたが、これからは何を好きに学んでも誰からも文句を言われず、不当な評価を受けることもない。私は急に今までのイライラが消え、一気に気が楽になったのを覚えています。そこからはただ「自分が知りたいことを知ろう」というシンプルな姿勢に目覚め、自分に合うと思う方法、頭に入りやすい方法を体得的に身に付けていきました。

 はっとしたのは、34歳でアルツハイマー病の脳機能研究のために米国に渡り、3年がたった頃でした。それまで、英語の読み書きはできるけれど、ヒアリングとスピーキングはからきしだった私の耳が急に英語をはっきりと聞き取り始めた。「これは私の脳に何か決定的な変化があったに違いない!」と確信を持ちました。その自分の実感を伴った「30代後半から脳は変わる」という仮説を証明するために、MRIによる脳画像診断法を開発。大人の脳が成長して「個性的」になっていく様を、確実に捉える技術を確立して今に至ります。

──分野を横断して様々なことをモチベーション高く学んだことも、脳機能の成長に大きな効果を発揮したのでしょうか。

 例えば、メジャーリーガーの大谷翔平選手の「二刀流」スタイルは、ピッチャーとバッターの両方で高い能力に到達したことがすごいのではなく、両方を同時にやったからこそ、他の選手にない視点を得て、ピッチャー+バッターの超一流になれたのではないかと私は考えています。

 一つの物事だけをやっていると、人は近視眼的になったり遠視眼的になったりし、脳の同じルートばかりを使うことになる。事業でも、ある商品で成功した人はその成功体験に依存して、類似のヒットを狙おうとしてしまう。そうではなく、外へと踏み出して別分野の知見と結び付けられてこそ、誰も持っていない新しい視点に立つことができ、それが脳の成長にもつながるのです。

 私自身は、小児科医をやりながらアルツハイマー病の脳研究をしていた。脳の成長期の子供を診る小児科と、脳の衰えの病であるアルツハイマー病は、ベクトルがちょうど真逆ですよね。子供の成長だけを見ていたら、人間の衰えのことを考えられない。両方をやることによって、比較が可能になったわけです。脳機能の研究に関しても、磁石を使ったMRIで脳を観察するだけでなく、30歳のときには近赤外光を使い、頭皮上から脳機能を観察する技術「fNIRS(エフニルス)」を発見しました。

 このように同じ対象を別の角度から把握することで、適切な自己評価ができるようになり、また自分の座標を意識して物事を考えていくうちに、多くの人が向かっていくところや、逆にまだ人がいない場所も見えてくるようになりました。

人工知能全盛時代の「学習」の価値

──「ChatGPT」など生成AIの登場で、人工知能(AI)の活用は新たな段階に入りつつあります。加藤さんは今後、人間の脳はAIとどのように付き合っていくべきだと考えますか?

 結局は、「人間とは何なのか」「自分自身とは何なのか」という大きな問いに立ち返っていくと思います。いくらAIの情報収集や分析能力が優れていたとしても、使う人間の側は絶えず選択肢に直面し続けます。例えば「戦争の是非」のような問いや、自分のお金の使い道といった問いには、AIがいくら答えをくれたとしても、最後はかならず一個人として答えを選択するしかない。

 また、AIが発達し、多くの情報を得るのが簡単になればなるほど、情報の「そぎ落とし」がこの先さらに求められる時代になると思います。動画サイトにしろSNSにしろ、今の時代は自分で選び取ったものではない情報にあっという間に時間を持っていかれて、人生を過ごしてしまう。

 人間の時間には限りがあります。その中で自分が何に注目し、何をそぎ落とすのかこそが個性であり、真に価値あることになっていくでしょう。そして、大人が何かを学ぶというのは、そのような自分の興味や個性が「本来はどこにあったのか」の再発見であるべきだと私は思う。それを多くの人にもっと分かってほしいのです。

 厚生労働省は2025年には認知症患者は約700万人を超え、65歳以上の5人に1人が患うと推計しています。しかし、中年の時期に脳をしっかり働かせておけば、「脳の中年期」は75歳ごろまで延長でき、認知症の発症時期も大幅に遅らせることができる。そのためにも大人の脳の仕組みに合った効果的な学び方を理解し、年を取っても自分が知りたいこと、やりたいことに有意義に向き合ってもらいたいという思いから、本書を執筆しました。

著者が薦める本
本居宣長『うひ山ぶみ』(講談社学術文庫)
本居宣長『うひ山ぶみ』(講談社)
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 私の若かりし頃の脳の使い方は、ほぼ本居宣長に学んだと言っても過言ではありません。江戸時代の国学者であった彼は、学問の根本にあるのは「道」を学ぶことだと説きます。そして物事を学ぶには学問を分類し、日本が中国から受けた影響を理解して切り分けなければならないと指摘。これはまさに、今の時代にも求められている情報を扱う際の基本的な姿勢と言えます。また、古典籍は丁寧に一から十まで読むよりも、何度も繰り返し読むことの方が大事だと指摘している点も、脳科学的に正しい。作中の「志を高く持して、ただ年月長く倦(う)まず怠らず、励みつとめることである」は座右の銘です。(加藤氏)

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