「投資をしている人と投資をしていない人では、10年後、20年後、30年後に決定的な差が付くでしょう」。「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークス会長兼社長の藤野英人さんは、投資に取り組むことの重要性を強調します。そのことを理解するために薦めるのが、『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(奥野一成著)です。
投資家マインドで変わること
僕は自分自身も投資家ですが、「日本に投資家のスターをつくりたい」と思っています。今回はすでに日本の投資界のスターとも言うべき奥野一成さんの著書、『 ビジネスエリートになるための 教養としての投資 』(奥野一成著/ダイヤモンド社)を紹介します。
奥野さんは農林中金バリューインベストメンツの最高投資責任者で、機関投資家向け、個人投資家向けのファンドを運用しています。ウォーレン・バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践して、大きな成果を上げている方です。
今の日本では現金の価値が下がり、少しずつ、確実に貧しくなっています。それを食い止めるためには「一人ひとりが投資家としての思想を持つことが重要」で、「教養人としては当然、投資の知識は持っているべきだ」と説いているのが、この本です。
ただ、日本で「投資家」というと、どんなイメージでしょうか。なんとなくお金に汚い、はしたない……といった姿を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
フランスの経済学者トマ・ピケティは著書『21世紀の資本』(山形浩生、守岡桜、森本正史訳/みすず書房)で、人類のさまざまな時代において「r>g(rはgよりも大なり)」という不等式が成り立つと証明しています。どういう意味かというと、「r(資本収益率)」は「g(経済成長率)」よりも大きい、つまり労働がもたらす経済成長によって得られる富よりも、投資によって得られる富の方が大きいということです。
そうすると、「投資家はけしからん」という考え方と、「一般の労働者も投資家のように利益を得られる仕組みをつくったらどうか」という相反する考え方が生まれてきます。奥野さんも僕も後者の意見に賛成で、「労働者=株主」であるという世界観の方が平等なのではないだろうかと思います。
格差を解消するために、資本家から税金を取って労働者に分配すべきだ、あるいは、資本家は寄付をすべきだという考え方がありますが、それだと富を税金として強制的に徴収するか、寄付として自発的に納めるかの違いしかありません。でも、労働者が長期的に投資をしていけば収益を得られ、自分も資本家になることができるのです。
この本には、なぜ令和の時代にこそ投資が必要なのか、実際に投資をするとしたらどうすればよいのかが詳しく書かれています。
投資にはいろいろな手法があっていい
僕も、この本に書かれている「投資をすれば働き方のマインドが変わる」「子どもたちに資本家マインドを」といった奥野さんの考えに共感しています。
少し違うのは投資手法について。奥野さんは「ビジネスモデルが強靱(きょうじん)な会社に投資する」と言っていますが、僕は、ビジネスモデルは変化するし、参入障壁は壊すためにあると思っています。それよりも、経営者や現場の人間、個々の力を大事にしたいんですね。
ただ、この違いは、華道に例えると、同じ流派なんだけど、奥野さんと僕では「お花の傾きがちょっと違う」といったレベルかな(笑)。奥野さんに「考え方が違うから改めましょう」という話でもありません。
でも、こうやって投資手法にはいろいろあると知り、自分に合ったスタイルを探すことも必要。この本には投資で重要な論点が網羅されているので役に立つはずです。
投資で10年後が変わる
僕は、「これからの時代はファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)が大事だ」と訴えています。預貯金や金融資産を持っていない、「金融排除」された人々を救う必要があります。
インフレが進むと現金の価値が徐々に低くなり、投資をしている人と投資をしていない人では、10年後、20年後、30年後に決定的な差が付くでしょう。だから、投資の魅力を世の中の隅々まで届け、少額の投資、ローリスクの商品でいいから「投資をしていない人」を減らしたいんです。
今までの日本では、汗水たらして働き、一生懸命貯金して、お金がたまっていくことが良しとされていました。でも、それは自分だけが働いて、「お金が働いていない」状態。
かたや欧米では、働いてお金が入ってくると、「おう、バディ。よく来たな。俺も働くからお前も働いてくれよ」と稼いだお金を投資に回し、リターンを得ます。「自分とお金の共働き」状態になるんですね。
分かりやすい例を一つ挙げると、このコロナ禍で、アメリカ、イギリス、中国などでワクチンが短期間で開発できたのは、国内で投資が活発だから。日本には技術力があるのに、なぜできなかったのか。それは、イノベーションに投資をして、研究開発を促す人が少なかったことが一因だと思います。
日本人は投資が苦手、というか嫌い。消費や浪費も嫌い。だから、遊ばない。ひたすらお金をためることが「清廉」でいいことだと思っているけれど、実は日本人ほどお金に欲深く、お金に執着している人はいないんじゃないかと思っています(笑)。ここに風穴を開けて、投資が本当に心豊かな生活を送るためには必要だと伝えていきたいですね。
そう、そういう意味では、「本を読むこと」も自分への最高の投資ですよ!
取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子