不動産と並んで中国人が多いと言われている業界に、生命保険会社がある。ある大手生命保険会社の成績優秀者を表彰するパーティーでは、全体の3分の1~4分の1が中国人だったという。人手不足のこの業界では、「中国人がいなければ成り立たなくなるのではないか」という人もいるほどだ。在日中国人に人気の生保業界の現状を、日経プレミアシリーズ『中国人は日本で何をしているのか』(中島恵著)から抜粋・再構成して紹介する。

5万人の営業社員、成績優秀者は中国人だらけ

 「きらびやかなシャンデリアが輝くヒルトン福岡シーホーク(ホテル)の宴会場に足を踏み入れて驚きました。そこには自分と同じ中国人の営業社員が大勢集まっていたからです」

 2025年の夏、日本を代表する大手生命保険会社で働く張玲さん(仮名)はカフェで私の向かい側の席に座ると、身を乗り出すようにして、そのときの様子を話し始めた。彼女の会社では年に1回、成績優秀社員を表彰する大規模なイベントがある。航空券やホテル代など、選ばれた約400人の参加費用はすべて会社が負担する。招待されるのは全国約5万人の営業社員の一握り、125人に1人だけだ。

 選考は成約件数、解約件数の少なさ、損害保険の契約件数などさまざまな項目によって総合的に判断される。ここ数年の優秀社員は、中国人が多いと社内で話題になっている。自身も優秀者に選ばれた張さんの目算では、全体の3分の1~4分の1は中国人だったという。

中国人がいないと生保営業は成り立たなくなる

 張さんはそのときの様子を思い出しながら、興奮ぎみにこう語る。

 「全国の第1位は業界で有名な日本人のカリスマ営業社員でしたが、順位と名前が公表されるトップ10のうち、確か2~3人は中国人でした。入社5年以内の若手を対象とした別のイベントに選出されたのは約450人で、その半分は中国人、3~4割が日本人、残りがベトナム人かその他の国籍の人、という感じでした。

 このままいくと、生保の営業職は中国人が増え続け、日本人のほうがマイノリティー(少数派)になるかもしれません。優秀社員も近い将来、中国人がトップ10の半分以上、あるいは全国の第1位が中国人、なんていう日が来るかもしれません。それほど生保会社には中国人が多いんです。

 他の生保会社で働く中国人に聞いても似たような状況らしく、会社の上層部は『中国人がいないと日本の生保営業は成り立たなくなる』と危惧しているようです。日本人は高齢化しているし、プレッシャーのかかる営業職は嫌う傾向がありますので。

 こういう話は、日本の大手メディアではあまり報じられない『不都合な真実』ではないでしょうか。でも、現在の生保の営業社員は中国人だらけ、というのは紛れもない事実です。数年前から、業界関係者であれば、誰でも知っている話です」

営業所の社員の7割が中国人

 私にとっては初耳で驚く話ばかりだった。張さんの話は本当なのだろうか。日本人の生保会社社員に聞いてみると、「本当です。とにかく最近は中国人が多くなっています」と認めた。そこで、現場の営業所には一体どれくらい中国人がいるのか、張さんや他の生保会社にいる中国人に聞いてみた。

 張さんによると、張さんが所属する関東の支社の社員数は約四百数十人で、そのうち約100人、つまり約4分の1が中国人だという。営業部は三十数人で、張さんを含めて数人が中国人。張さんの入社前、中国人は1人もいなかったが、新型コロナウイルス禍の数年間で増えた。

友人や知人の紹介をきっかけに生保業界に入る中国人も多い(写真はイメージ)(写真:buritora/stock.adobe.com)
友人や知人の紹介をきっかけに生保業界に入る中国人も多い(写真はイメージ)(写真:buritora/stock.adobe.com)

 一方、別の大手生保に勤務する李翠さん(仮名)は専業主婦だったが、コロナ禍の22年に中国人の友人から誘われて入社した。李さんが勤務する支社には約600人の営業社員がおり、そのうち中国人は約百数十人。こちらも全体の4分の1が中国人だ。

 李さんが所属する営業所は東京都内にあり、25年夏の時点で社員は百二十数人、そのうち中国人はなんと7割にも及ぶという。李さんもこれまで何度も成績優秀社員に選ばれている。この営業所はまさしく「中国人がいないと成り立たない状況」になっている。

 さらに別の大手生保で働く黄秀青さん(仮名)の入社は約10年前。行きつけの美容院の担当者から、「うちの中国人のお客さんが生保の営業をやっていて、社員を募集している」と教えられたのがきっかけだった。当時、その営業所で働く中国人は美容師に話をした客と黄さんの2人だけだったが、この10年間で2倍になった。

 黄さんは入社5~6年のときに営業成績で都内のトップ15位以内に選出され、全国でも25位以内に入るなど、営業所のエース的存在だ。現在も黄さんがいる営業所は都内屈指の成績を誇るという。

 この3人のほかにも、生保営業に従事する中国人から、「営業所内の3分の1〜4分の1が中国人という所が増えている」「成績優秀者の集いに行くと中国人ばかりで驚く」「どの生保会社も、都内で中国人が最も多いのは上野と池袋の営業所だ」といったコメントが寄せられた。

 別件の取材で会った在日中国人に「今、中国人が多い職業、業界は何だと思いますか?」と聞いてみると、「生保会社と不動産会社」という名前が真っ先に挙がった。彼らもそれくらい「多い」と実感しているのだろう。

日経プレミアシリーズ『 中国人は日本で何をしているのか
生保営業、SE、起業家、料理店経営、コンビニ店経営からユーチューバーまで――今や100万人規模となった在日中国人は、さまざまな分野で日本の経済、社会に大きな影響を与えている。彼らの意外な稼ぎ方、驚きのビジネス事情を豊富な取材で明かす。

中島恵著/日本経済新聞出版/990円(税込み)