行動しなければ何も変わらない。では、行動するために最も「コスパ」がいい燃料とは何だろうか? 元プロ野球選手、現在は50社以上の経営改革に関わる人気ビジネスコーチ・高森勇旗さんの新刊『 降伏論 「できない自分」を受け入れる 』の出版記念イベント(主催:VOOX)の一部内容を抜粋・編集してリポートする。その前編。

なぜ直前にならないと行動できないのか

 いきなりですが、この2つの質問、どちらが答えやすいでしょうか? 「人生を懸けて成し遂げたいことは何ですか?」と「今、直面している自身の課題は何ですか?」。

 多くの人にとって、後者の方が答えやすいのではないかと思います。人生のゴールは遠いところにあります。「幸せに老いて死ぬことです」と思っても、数十年後のことはリアルに想像できない。そんな人が多いのではないでしょうか。

 一方、いま直面している課題は、いやでもよく見えます。「夏休みの宿題を今日中に終わらせなければならない」や「来週、結婚式でスピーチを頼まれた」などありますよね。直前になると、追い込まれて爆発的な力を発揮できる。これは多くの方が体感されていると思います。

 では、なぜ私たちは、直前にならないと行動を起こせないのでしょうか。そもそも人が行動を起こすって、何なのでしょうか。2012年に戦力外通告を受けてプロ野球選手を辞め、現在はビジネスコーチとして経営改革をお手伝いする中、僕は「いかに人が行動を起こさないか」ということに向き合ってきました。

『降伏論』出版記念イベントが行われた(写真:鈴木愛子、以下同)
『降伏論』出版記念イベントが行われた(写真:鈴木愛子、以下同)
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ネガティブを飼いならして、成長の燃料に

 「年収を上げたければ、自分の年収の3倍稼ぐ7人と友達になれ」。そう教わったことがあります。いわく、運の良さは14パーセント伝わるので、7人で100パーセントになるそうですが、ちょっと根拠は怪しいです(笑)。これを聞いた私は、とりあえず素直に従い、高年収コミュニティーに参加してみました。

 ここに参加すると、強烈に「不快」を感じます。考えてみてください、周囲は成功者ばかりです。「こんなことを言ったら無知と思われないか」「自分は邪魔ではないか」。何か言おうとするたび、こんな不安がよぎります。心理的安全性はゼロですよね。

 不快でたまらないから、もう行きたくないと心が抵抗します。それでも行き続けると何が起こるでしょうか。すると、いつの間にか「あちら側」の会話や風景が当たり前になっていきます。不思議なことに、結果も「あちら側」に引き寄せられていくのです。

 ここでお伝えしたいのは、「不快」を自分の燃料にするということです。

 人を動かす燃料には、2種類あります。

 「あの人、すてきだな」「こんなふうになりたい」。これは、ポジティブな燃料です。もう一つはネガティブな燃料です。締め切りに間に合わない。笑われたら恥ずかしい。そこから逃れようとする時、人はすごい力を発揮します。

 ポジティブな燃料とネガティブな燃料。どちらも燃焼効率は同じです。高邁(こうまい)な志に突き動かされようと、不快から逃れたい一心であろうと、引き起こされる行動は変わりません。そして多くの場合、ネガティブな燃料の方が調達コストは安いです。不安や恐れ、ストレス。劣等感やプレッシャー。そんな感情は、簡単に入手できるはずです。

 不快と感じる場所に自分を強制的に連れていく。脱出しようとする力を使って、行動を引き起こす。ネガティブを飼いならすと、とてもコスパがいい燃料になります。

「人は強制力がないと行動しない」と話す高森氏
「人は強制力がないと行動しない」と話す高森氏
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行動を邪魔するのは、自分がつくり出したストーリー

 トライアスロンをしていた時、たとえ前夜1時まで仕事していても、必ず朝5時には練習場所にやってくる先輩がいました。その先輩と約束することで、自分も一緒に練習を継続できたエピソードは、『 降伏論 』でご紹介した通りです。

 僕一人だったら、必ず誘惑に負けて寝てしまいます。「よくできますね」と言ったところ、先輩はこう言いました。

「ただ走るだけだから」

 成果を上げているビジネスマンに話を聞くと、たいていこう言います。「ただ、やるだけ」。多くの人は、ここに自分のストーリーや解釈を付け加えようとします。

 元・ベイスターズの筒香嘉智選手がメジャーリーグに行く前のことです。得点圏打率が低いと悩んでいました。得点圏打率は、ランナーが2塁3塁にいる場面での打率です。しかし打席に立った時、ランナーが出塁しているかどうかは、自分でコントロールできません。

 それでも得点圏打率を気にしてしまうのは、余計なストーリーを背負ってしまうからです。この一打でランナーを本塁に戻す。チームの勝利に自分が貢献する。そんなストーリーは捨てた方がいい。

 あるのは事実だけです。18.44メートル先にピッチャーがいて、0.4秒でボールが通過する時、バットをどう振るか。これ以外のものは何もない。“Only fact, no story.” 僕はそう伝えました。

 彼は、次の試合でホームランを打ちました。ヒーローインタビューで「どんなボールが来たんですか?」と記者に問われた彼は、「ミズノの白いボールです」と答えたそうです。行動を邪魔しているのは、自分がつくり出したストーリーです。電話したら迷惑ではないか。ずうずうしいと思われないか。傷つけてしまうのではないか。ありもしないストーリーにとらわれて、いつまでも行動できない。

 これを排除して、“Just do it.”(「ただ、やるだけ」)。この感覚まで自分を持っていけるかどうか。それが鍵です。

「ただ行動をするというシンプルなことが実は難しい」という高森氏
「ただ行動をするというシンプルなことが実は難しい」という高森氏
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“行動”して“継続”するだけで、ライバルはいなくなる

 年収1000万円プレーヤーになりたい。多くの人がそう思っています。ところが現実に年収1000万円以上稼ぐ人は、全体の5パーセント弱です。

 では全員が1000万円プレーヤーを目指して、95パーセントが脱落したのでしょうか。そうではありません。ほとんどの人は、5パーセントに入ろうと計画さえしていない。つまり無意識のうちに95パーセントの側にいることを自分自身が選択しているのです。

 高年収の人は、低年収の人よりも日記を書く人の割合が30パーセント多い。そんな統計があるそうです。そこで日記を書き始めたところ、実際に年収が上がりました。翌年、書くのをやめたら年収が下がったので、慌てて再開しました(笑)。

 日記を書くだけでいい。そう話すと「じゃあ僕も書きます」と言います。しかし次に会った時には、そんな話をしたことすら忘れています。

 ただ行動を起こすだけで、人生は変えられます。けれども、ほとんどの人は行動に移さない。継続できる人は、さらに少数です。だから継続するだけで、ライバルはほぼいなくなります。

『降伏論』出版記念イベントでのスライド
『降伏論』出版記念イベントでのスライド
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降伏することで、未来は変わり始める

 書籍でもご紹介したエピソードですが、プロ野球選手時代、ピッチングコーチに相談しました。「コントロールって、どうすれば良くなるんですか?」。コーチの前で投げたボールは、的から右に外れました。では、もう少し左に投げよう。そう思った私に、コーチはこう言いました。

「“もう少し左に投げる”コントロールがあるのなら、最初から当てられるだろ。右に外れたなら、今度は左に外せ」「お前に、際どく修正する能力は、ない。それを認められたら、コントロールは良くなる」

 この考え方は、いまでも重要な教訓として生きています。

 自分を変えるために最も手っ取り早く、強力なやり方は、うまくいっている人のまねをすることです。しかし多くの人は「いいところを取り入れよう」「できることから少しずつ」などと言い訳しながら、現状にとどまろうとします。それでうまくいかないことは、自分が一番よく知っているはずです。

 遠いところにきれいな目標を掲げて、これまでのように「自分はできるはず」と思ったまま、未来を変えられるでしょうか。いまの自分は、これまでの意思決定の結果です。同じ思考回路で、同じような意思決定を繰り返している限り、未来は変えられません。自分にはできない。そのことを認めて、降伏する。

 私たちは、遠くのことはよく見えません。でも本当に手にしたい成果は、いつも遠いところにあります。

 身近にある不快を直視する。ネガティブな感情を飼いならして、原動力にする。行動を繰り返した結果、遠くに見えた場所に、気づけばたどり着いているはずです。

何も考えずに、うまくいっている人のまねをすることが大事
何も考えずに、うまくいっている人のまねをすることが大事
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<後編に続く>

構成/渡辺裕子 写真/鈴木愛子

「うまくいかない」「結果が出ない」「ついてない」。これらは、すべてあなたの「決定」の結果である。大切なのは、「いつもやっている行動」を色々な物理的な仕組みで(本書にさまざまな方法を掲載)変えること。この本に載っていることをやってみると、それまでとは違う人生に変わるだろう。いつもと違う選択をする“だけ”で、これまでとは違った景色を見ることができる。

高森勇旗(著)、日経BP、1760円(税込み)