本に関わる人たちが一丸となって読書の秋を盛り上げる、読書推進キャンペーン「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2025」が2025年10月25日から始まり、11月23日まで開催された。それに先立って10月24日にはオープニングイベントが開かれ、会場の紀伊國屋ホール(東京・新宿)は本好きの老若男女であふれ返った。活況を呈した歌人の俵万智(たわら・まち)さんと、動物言語学者の鈴木俊貴さんのスペシャルトークショーを中心に、2回に分けて紹介する。

「秋の読書推進月間」オープニングイベントで壇上に立った運営委員会委員長の高井昌史氏(紀伊國屋書店会長)
「秋の読書推進月間」オープニングイベントで壇上に立った運営委員会委員長の高井昌史氏(紀伊國屋書店会長)
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人気イベント化したオープニングイベント

 2025年で4年目を迎えた読書推進キャンペーン「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 2025」。2025年10月25日から11月23日までの開催期間中には、全国約3000店の書店で10万円分の図書カードネットギフトや、5万円分の星野リゾート宿泊ギフト券が当たるBOOKスタンプラリーが展開され、趣向を凝らした店頭イベントも目白押しだった。

 著名な作家や評論家、声優などによるトークショーも各地で開かれ、東京では、直木賞作家で近著『PRIZE-プライズ-』(文藝春秋)が話題の村山由佳さんが「作家にとっての文学賞とは?」というテーマで登壇した。歴史小説家の和田竜さんがゲスト出演した、人気YouTube番組『宇垣・片桐の踊る!ミリしら会議』のリアルイベントも話題を集めた。

 10月24日に紀伊國屋ホールで開かれたオープニングイベントは満席だった。昨年に次いで、300席の応募枠が申し込み開始と同時に埋まったという。開会の挨拶を務めた同キャンペーンの運営委員会委員長で、紀伊國屋書店会長の高井昌史さんは、「身近な書店での新たな本との出会いを通じて、読書の楽しさを発見し、読書習慣が身についていくことを期待しております。そのためにもこの取り組みを通じて、全国の書店へお客様にお越しいただきたいと考えております」と語った。

 そして、劇団俳優座代表で92歳になる俳優・岩崎加根子さんが、詩人・谷川俊太郎さんの『平和』の朗読と、『生きる』の朗唱を披露した。「平和 それは空気のように あたりまえなものだ それを願う必要はない ただそれを吸収していればいい」「生きているということ いま生きているということ それはのどがかわくということ 木もれ陽がまぶしいということ ふっと或(あ)るメロディを思い出すということ くしゃみすること あなたと手をつなぐこと」――。岩崎さんの豊かな表現力によってメッセージ性が強まり、会場全体が感動で包まれた。

詩人・谷川俊太郎さんの『平和』の朗読と、『生きる』の朗唱を披露した劇団俳優座代表の俳優・岩崎加根子さん
詩人・谷川俊太郎さんの『平和』の朗読と、『生きる』の朗唱を披露した劇団俳優座代表の俳優・岩崎加根子さん
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岩崎加根子(いわさき・かねこ)
1932年北海道生まれ。15歳で劇団俳優座の研究生候補となり、1949年に「おふくろ」で初舞台。同年の養成所設立と共に1期生に。1952年の卒業後、劇団俳優座に入団。劇団俳優座を創設した青山杉作や千田是也らに師事した。2013年からは劇団俳優座代表を務める。代表作に「桜の園」「とりあえずの死」「三人姉妹」などがある。その他、映画「反逆児」「太陽への脱出」などの映像作品へも多数出演。1954年に開場した俳優座劇場では、こけら落とし公演「女の平和」「森は生きている」に出演、1978年改築前の最終公演「人形の家」、1980年改築後の落成記念公演「マリアの首」、2024年には閉館前の俳優座劇場で最後の劇団俳優座公演となった「慟哭(どうこく)のリア」へ出演した。「エヴァ、帰りのない旅」「あなたまでの6人」で第33回紀伊國屋演劇賞個人賞、第6回読売演劇大賞最優秀女優賞。「慟哭のリア」「戦争とは…」で第59回紀伊國屋演劇賞個人賞、第32回読売演劇大賞最優秀女優賞。

人間・動物の言葉のプロによるトークショー

 今年のオープニングイベントの注目企画が、歌人の俵万智さんと、動物言語学者で東京大学准教授の鈴木俊貴さんのスペシャルトークショーだ。

 俵さんは言わずと知れた著名な歌人で、1980年代後半に歌集『サラダ記念日』(河出書房新社)で社会現象を巻き起こし、その後もエッセイや評伝、絵本の翻訳も多数手がけている。近著の、言葉を巡る初の論考作品『生きる言葉』(新潮新書)では、実体験を踏まえ、歌人ならではの視点で「言葉の力」について考察している。

俵万智さん
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俵万智(たわら・まち)
歌人
1962年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。学生時代に佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。1988年に現代歌人協会賞、2021年に迢空賞を受賞。『サラダ記念日』『愛する源氏物語』『未来のサイズ』のほか、歌集、評伝、エッセイなど著書多数。2025年4月、初のことばを巡る論考作品『生きる言葉』(新潮新書)を刊行。

 一方の鈴木さんは、“現代のドリトル先生”といわれて、世代も分野も飛び越えて幅広く注目を集めている学者だ。野鳥のシジュウカラに言語能力があることを発見し、世界で初めて動物が話す言葉を解き明かした学問・動物言語学を創設した。初の単著『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)は、書店員が選ぶノンフィクション大賞2025、第24回新潮ドキュメント賞、第13回河合隼雄学芸賞の三冠を達成している。

鈴木俊貴さん
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鈴木俊貴(すずき・としたか)
東京大学准教授、動物言語学者
1983年東京都生まれ。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本生態学会宮地賞、日本動物行動学会賞、World OMOSIROI Awardなど受賞多数。シジュウカラに言語能力を発見し、動物たちの言葉を解き明かす新しい学問、「動物言語学」を創設。愛犬の名前はくーちゃん。『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)が初の単著。

 この、人間の言葉のプロと、動物の言葉のプロによるトークテーマは「つなぐ言葉、羽ばたく言葉」。2人が交流するきっかけは、俵さんがX(旧Twitter)で鈴木さんの著書を絶賛したことだったそう。以下、対談形式でお届けする。

研究者は研究対象に似てくる!?

歌人・俵万智さん(以下、俵) お会いするのは今日が初めてですが、半年ぐらい前からやり取りはさせていただいているんですよね。そのきっかけが、鈴木さんの著書『僕には鳥の言葉がわかる』があまりに面白くて感激した私がXに投稿して、勝手に応援し始めたことでした。その節は、断りもなしに大変失礼いたしました。

動物言語学者・鈴木俊貴さん(以下、鈴木) いえいえ、ありがたすぎたというか、本当にびっくりしちゃいました。え、俵万智さんて、教科書で読んだあの人だよね…。その人が僕の本を推してくれてるだと!? と一瞬理解が追いつかなかったほどで、親に言ったら、親もびっくりしてました。歌集の『サラダ記念日』はもちろん『アボカドの種』(KADOKAWA)も大好きで、近著『生きる言葉』も発売されるとすぐに読みました。人間の言葉を長く深く観察されている方だからこそ書ける一冊だと思い、とても感銘を受けました。Xの投稿を知ったのはその後のこと。だから余計にうれしくて、驚きと相まって鳥肌が立ちました。

 鳥の研究をされているだけに、鳥肌が!(笑)

鈴木 20年ほど、野鳥のシジュウカラの研究をしているので、同化してきたんでしょうか(笑)。実際、よく鳥に似てると言われます。キョロキョロして落ち着きがないところとか、おしゃべりなところとか。自分でも似てる自覚はあります。研究者は研究対象に似てくる傾向があるか、と。ゴリラの研究者でゴリラに似ている先生もいるんですよ。

シジュウカラはおしゃべり 2語文も話す

 シジュウカラはおしゃべりなんですね。

鈴木 いろんな鳴き声を持っていて、状況によって使い分けているんです。例えば「ヒヒヒ」は「鷹(たか)だ」という意味です。「ヒヒヒ」を聞いたシジュウカラたちは、一斉に藪(やぶ)の中に逃げます。巣箱の下に蛇が迫ってくると、親鳥は「ジャージャージャー」という声を出します。

 すごい発見だったのは、それを聞いたヒナたちが巣箱から飛び立ったことです。ヒナたちは生後約2週間で、ずっと巣箱の中にいて、蛇を一度も見たことがないのに、です。蛇は巣箱に侵入してくるので、食べられてしまう前に飛び出さなきゃいけないんですね。僕が観察したヒナの中には、本来なら、あと1日か2日は巣箱の中にいる必要があったけど、「ジャージャージャー」を聞いて飛び出した子たちもいました。

 人間の赤ちゃんは自力で脱出できません。私たちにはないすごい能力ですね。

鈴木 これまで、動物は天敵を見ると、ただ怖くて鳴いていると考えられていました。動物学者でさえ、動物の鳴き声は恐怖や怒り、喜びなどの感情を伝えているだけで、概念につながった言葉ではまずない、と。でも、シジュウカラは鷹や蛇を意味する言葉を話すし、それだけではなく、言葉を組み合わせて文章も作るんです。例えば「ピーツク、ヂヂヂ」は「警戒して、集まれ」という意味で、「ピーツク(警戒する)」と、「ヂヂヂ(仲間を呼ぶときの掛け声)」を組み合わせた2語文になっています。

 言葉と火を扱うことができるのは人間だけだ、という通説を覆して、実は動物も言葉を話している、というのは、本当に画期的な発見だと思います。ただ、鈴木さんは研究者で、論文発表するためには、発見したことを証明しないといけませんよね。

鈴木 それが本当に難儀でして。「ジャージャージャー」が蛇を意味することを証明するために、蛇に見立てた棒に紐(ひも)をつけて、録音した鳴き声を流しながら動かして反応を見る、という実験を4年間繰り返しました。

 4年も!

鈴木 森の中に滞在する期間は年間1カ月ずつぐらいですが、その間自炊をしながら観察と実験を続けるんですね。初めて森に行ったときは、食料の見積もりが甘くてすぐに足りなくなって、米だけに。普通に炊いて食べるのに飽きたので、「水ごはん」や「お湯ごはん」にしてしのぎ…。あのときは10㎏ぐらい痩せました。

(後編に続く)

オープニングイベントは大盛況だった
オープニングイベントは大盛況だった
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取材・文/茅島奈緒深 構成/白石賢(日経BOOKSユニット) 撮影/尾関祐治