Z、α世代が主役となる2030年代、マーケティングはどう変化するのだろうか。マーケティングの転換を洞察する鍵は、人々がつながる様態(=コミュニティーの形)と、自分らしさの表現(=アイデンティティーの実感)がどう変容していきそうかを捉えることにある。今回は、SNS社会に生きる若年層のコミュニティー観について、新刊『新消費をつくるα世代』著者の小々馬敦氏が掘り下げる。[日経クロストレンド 2024年6月26日付の記事を転載、一部更新 ※この記事は『新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」』を抜粋、Web用に編集した内容です]
緩いつながりを象徴する「界隈コミュニティー」の概念
これからの時代に人々はコミュニティーにどんなことを期待しているのでしょうか。2022年9月に、大学生と小学生、そして大学生と小学生の母親を対象に「コミュニティーの認識」についての調査を実施しました。
興味深かったのは、「あなたは、コミュニティーという言葉にどのようなイメージや考えを持っていますか」という問いに対する、各世代の母親からの回答です。
大学生の母親は「適度な距離感でお互いを思いやり助け合う居心地のよい場所」、小学生の母親は「ほどよい距離感でお互いを思いやり助け合うつながり」と、共通の認識を読み取ることができました。
大学生の回答からは「共通の趣味で集まる仲間」「ネットでの出会いやつながる場所」とコミュニティーについての説明的なイメージが見られましたが、インタビュー調査をすると、大学生も「緩いつながり」を好んでいることが分かりました。
大学生にインタビューをすると、「そこまで、他者とつながりたくない」と言います。
経験上、「そこまで、」と前置きする後に本音が現れることが多いのですが、「そこまで、つながりたくない」からは、所属したり登録をしたりして、自分の身分を明かしてまで強くつながると面倒なことも起こるので、ほどよく距離を保ちゆるくつながるほうが気が楽だという思いが透けて見えます。
コミュニティーに、お互いが尊重される居心地のよさを期待することは、親世代と同じ感覚です。緩くつながることへのニーズは、世代共通で芽生え始めていると感じます。
SNS社会の中には、「緩いつながり」を象徴する「界隈(かいわい)コミュニティー」という概念が生まれ始めています。
SNS社会には、人とつながることから生まれるノイズやストレスが多くあります。それをうまく避けたい気持ちが高まることで、緩くつながって心地よく過ごせる界隈コミュニティーが、たくさん生まれていくのではないでしょうか。
「緩いつながり」はこれからのマーケティングの大切なコンセプトになるはずです。
SNS上のそれぞれの界隈の中では、人々が影響し合い消費が活発に行われています。界隈は、顧客が集まる市場機会になっているのです。私たちの研究室では、界隈の中に生まれるグループダイナミクス(熱量)から、より多くの人の行動に導く新しいマーケティングの考え方を、「界隈マーケティング」と仮称して、その可能性を探求しています。
伝統的なマーケティングが「人」を対象(ターゲット)とするのに対して、界隈マーケティングでは、「人の思い」をマーケティングの中心に置きます。人にダイレクトにつながると、その人がゆずれない価値観とぶつかることもあります。そしてそこから生じるストレスをわずらわしく感じることもあります。
お互いに共感しやすい思いに緩くつながる心の距離感のほうが心地いいので、思いで人とのつながりを広げていくダイナミズムが生まれます。
つながり方が変わることで、マーケティングも変わるでしょう。
2014年に女子高生と女子大学生を対象とするファッションスタイルのクラスター調査分析を行ったのですが、その際に「なるほど!」と思う発見がありました。
分析から、5~7つの「◯◯系」ファッションスタイル、系統が見つかりました。ただし、彼女たちには「私は◯◯系」という意識があまりありませんでした。それよりも、いくつものスタイルを自分の世界観として受け入れていて、その日に行く場所の雰囲気や一緒に行く友人と世界観を合わせて、状況別にいろいろなスタイルを楽しんでいることを知りました。
インタビューでは、「自分を◯◯系女子とくくらないでほしい」という声が多く上がりました。「山ガール」「カープ女子」「カメラ女子」というように、女子を系統でくくる記事が目立った時期でしたが、自分のことを他人に決めつけられることを「うざい!」と感じていたのです。
市場をセグメンテーションする際には、セグメントの内部の同質性が高く、セグメント間は異質性が高いことを原則として設定するので、価値観が同じ人が集まる集団がイメージターゲットとなります。
価値観が同じ人が集まる集団には、ヒエラルキーがあって、集団に先にいる人からマウントを取られることもあります。多様性が尊重されるこの時代では、価値観ベースで人とつながり集まることは、特に若年層からは面倒だと敬遠される傾向が見られます。
多様性が進む時代では、社会の中に多様な価値観やスタイルがあるだけでなく、個々人の中に多様な自分のスタイルや世界観があります。この感覚を尊重せずに、「あなたは◯◯系」とくくってターゲティングするやり方は、生活者から寛容されず、これからの時代では合理的でなくなると予感しました。
価値観ベースの集団に代わる界隈コミュニティーは、第3章で紹介した通り「共通の関心ごとやカルチャー、好きな世界観を持つ者同士で構成されるゆるいコミュニティー(SHIBUYA109lab.の定義を引用)」です。
界隈はSNS上に顕在するので容易にコンタクトでき、その様子を観察することができます。個々の界隈は比較的小規模(数千から数万単位)の集まりですが、人の思いが中心にあり共感でつながっているので熱量が高く、「緩く深い関係」がつくられることが特徴です。
共感は互いに高め合い応援し合いたいという空気を生むので、界隈内での相互作用が起こりやすく、新しい価値やアイデアが生まれやすく、購買行動も活発になります。
また、界隈には「内と外」の感覚はあるものの、境界線が曖昧でオープンなので排他的な集団にはなりにくいという特徴があります。そのため一つの界隈で話題になった物やトレンドは、他の界隈に伝播していきます。こうすることでやがて一定程度の規模になり、あるジャンルやテーマに関連する市場が顕在化します。
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)に代表されるような人ターゲティングのマーケティングは、市場を選択して抜き出すアプローチなのに対して、界隈マーケティングのアプローチは、人の思いが社会に伝播・循環していくダイナミズムを活用することが最も異なるポイントです。
若年層がコミュニティーに属したくない理由
人の思いを中心に置いて緩くつなぐ界隈マーケティングへの進化は、SNSが発展する社会において必然だと考えます。界隈マーケティングへの進化と期待することを、ネットワークの進化から整理します。
ネットワークの進化の影響を受けて、マーケティングのアプローチは進化してきました。例えば1990年代には、データベース管理の発展により顧客購買履歴データを見られるようになります。企業が顧客情報を管理して、収益性の高い顧客層を育てるCRM(顧客関係管理)を重視したマーケティングが盛んになります。
消費者中心から顧客中心のマーケティングへと転換した時代です。そして2010年代には、ネットワークの民衆化が進みSNSが登場します。影響力のある個人を中心としてつながるネットワークが成長し、インフルエンサーマーケティングの手段が生まれました。
2020年代の現在、ネットワークは中央集権型から自律分散・コミュニティー型へ進化しています。ネットワークが分散化することで、個々のコミュニティーは小規模になるものの、緩いつながりながらも共感の思いで深く通じ合い、長くつながっていられるサステナブルな関係づくりが可能となりました。
α世代は、日ごろからオンラインゲームの中で緩くつながる関係に慣れていて、性別・年齢などの属性に捉われずに自分らしく振る舞える場所を心地よいと感じています。
Z世代も、リアルとSNSの様々なコミュニティーに参加する中で、ヒエラルキーやカーストがあることによるストレスを経験しており、コミュニティー疲れを感じています。ここにSNS疲れが重なっているため、緩いつながりと居心地のよいコミュニティーを志向する思いが強まっています。
界隈コミュニティーに期待することは、ずばり居心地のよさです。身分を明かす必要がなく、気楽に安心してつながれる感覚が重要視されます。次の3つの環境を満たしていることが大切です。
- 自分らしさが尊重されると感じられること
- 界隈の中の情報を信用できること
- ヒエラルキーがないこと
この思いに応えるマーケティング活動は、受容性が大きいと考えます。
ファンコミュニティーは有効か
界隈コミュニティーでは、企業あるいはブランドと生活者との関係はどうなっていくでしょうか。
マーケターは「ファン」という表現を多用します。自社商品の購入や推奨に積極的に協力してくれる熱量が高いファンを組織化する活動は、事業の将来持続性を高める上で重要な活動であることは変わりません。
ですが、生活者側は、企業が主催するコミュニティーに登録や所属することには、「そこまでつながりたくない」と必ずしも積極的ではないことにも留意が必要です。
Z世代の大学生は、「そのブランドをいいと思って使っているけれど、ファンかと言われるとそれほどではないので、ファンコミュニティーみたいな場には参加しません」「ファンと決めつけられるのはちょっと嫌。買うほど得するというような報酬で囲い込まれたくない」と本音を口にします。
マーケターが思う「ファン」と生活者が思う「ファン」の間にギャップがありそうだと考え、学生たちがよく使う「ファン」「推し」そして「界隈」の違いを絵にしてもらいました。
それぞれどのような立ち位置の関係なのか、そしてそれぞれでどのようなお金の使い方が発生するのか、「ファン経済」「推し経済」「界隈経済」の観点からも比較します。
3つの概念に共通してあるのは、成長を応援したい気持ちです。もう一つ共通するのが、昭和のアイドル時代や平成のカリスマアイドル時代のファンほどに「憧れ」という意識が強くないことです。
異なる点としては、ファン→推し→界隈へと、見返りを求めない利他の思いが強くなることです。
学生はステージの上にいる対象と客席で見ている自分の絵を描き、それぞれの違いについて、分かりやすく説明してくれました。
ファン経済:ステージの上に対象がいて、客席で応援している私が「ファン」です。自分の楽しみのためにCDやグッズを購入します。
推し経済:ステージの上に対象がいます。客席にいる私は推しに思いをやり、推しを応援するためにお金に糸目をつけずに貢ぎます。成長していく過程を一緒に実感したいと思います。
界隈経済:共感できる思いが中心にあります。その思いを応援したい気持ちでその界隈の人とつながってみます。思いを高め合えれば見返りはなくてよくて、誰かの役に立てることが心地よい場所です。
以上の感覚を捉えると、ブランド側から断りなく自分のことを「ブランドのファン」と呼ばれることに少し違和感を覚える感覚が理解できます。
ではブランドは、生活者の「ファン」や「推し」になれそうでしょうか。結論から言うと、今の時代にそうした関係になるのは難しそうです。関与度が高いカテゴリーであれば可能かもしれませんが、学生の話を聞いていると、熱量の高さはカテゴリー関与度(憧れやこだわり)の強さよりも、自分が興味を持つジャンルとのレレバンシー(関連性)や、共感の思いの強さに表れるのだと思います。
これらを踏まえると、共感でつながる「界隈」で生活者との関係づくりを行うやり方が、今の時代には合っています。界隈コミュニティーの中心にあるのは人ではなく思いであり、イーブンな関係で皆がつながるので、企業と消費者の立場で相対する感覚を排除することができ、応援し合う関係を形成しやすいと考えます。
では、ブランドあるいは企業は、どのように界隈コミュニティーに関わっていくべきでしょうか。ブランドの立ち位置と役割について考えました。
企業やブランドがよって立つのは人間社会です。企業に求められる働きは、ここに生まれる界隈の居心地のよさを支援し、人々が感じるSNS社会での生きづらさを解消できるように応援することです。
どのような立ち位置を取るかは2つ考えられます。
一つは界隈のプラットフォーマーとなり、安心して心地よく過ごせる環境づくりを支援すること。もう一つは、自身も思いの共感者として、界隈内の人たちとイーブンな関係で活動することです。
また、界隈において企業やブランドは、オフィシャルな情報(メッセージ)を伝える役割を発揮しますが、そのメッセージが決め付けや押し付けだと受け取られないように留意が必要です。
そして、企業やブランドには、重要な社会使命があります。それは、界隈コミュニティーの熱量から生まれる価値やアイデアをマネタイズ、経済価値に変換して、市場経済へつなげることです。
従来型のファンコミュニティーはコアなファン顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化する仕組みとして市場経済に近い場所で継続されます。
他方で、企業・ブランドが界隈コミュニティーの緩くつながる関係が活発化するよう促すことで、生活者から応援される存在意義を得ることができ、より熱量の高いコアファンのコミュニティーとの流動性が高まります。その結果、ブランド事業の持続性が高まるという好循環を実現できるはずです。
小々馬敦(著)、日経BP、1980円(税込み)






