若年層に向けたマーケティングを考える上で必要となる視点とは? 今をときめくZ世代と、2030年代に消費の主役となるα世代では、例えば「選択の失敗」の捉え方や「正しい答え」のたどり方、あるいは「個性」「自分らしさ」についての意識にも違いがある。なぜそうした差が生じるのか。その背景とこれから起こる変化を、新刊『新消費をつくるα世代』著者の小々馬敦氏が読み解く。[日経クロストレンド 2024年6月11日付の記事を転載、一部更新]
Zとαで「失敗しない」ための情報探索行動に違い
「膨大な情報量に惑わされて選択を失敗したくない」Z世代(1997~2009年生まれ)、α世代(2010~24年生まれ)と話しているとよく感じる意識です。そしてZ世代とα世代では、膨大な情報量の中で選択を失敗しないための行動アプローチに違いが見られます。
Z世代は、自分が納得できるまでSNSで情報を調べるのに対して、α世代は、何が正解なのかをすぐに知りたいと考え、情報を調べることに手間と時間をかけたがりません。
Z世代の「失敗したくない」意識は、彼ら彼女らに特有の慎重な購買行動に影響しています。失敗したくないのは、「周りの人に失敗したと見られたくない」という他者承認欲求が根底にあると思うと、ある学生は言っていました。
では、Z世代は失敗しないために、どのような行動を取るのでしょうか。
例えば、化粧品を購入する際には、その商品が本当に自分に合っているか不安で、美容系のインフルエンサーのYouTube動画を見て、商品の効能だけでなく自然光の下で肌の色味はどうなのかなど、自分が使った時の使用感をイメージできる情報を確認します。
失敗しないという安心を得るには「自分に合っていること」を確信したいので、フォロワー数の多い人よりも、自分と背格好や肌感が近いインフルエンサーを探します。
さらに、そもそもそのインフルエンサーを信頼して大丈夫かを確認するため、その人のInstagramで暮らしぶりを確認し、X(旧Twitter)での発言を読むなどしてSNSで情報を調べます。
このように、気になる商品を見つけても、その場で衝動買いすることはめったにありません。「自分に合っていて大丈夫」と確信を得られるまで情報を得ようとします。
「気になった商品を衝動買いした」と聞くこともありますが、よくよく聞いてみると「SNSで調べた上で自分に合っていることが分かったので買った」というのが事実で、Z世代が言う「衝動買い」は上の世代がイメージする「衝動的に即買いした」とは異なる意味の場合があります。
また、情報を調べまくる前段階として、いいなと思う商品やサービスの情報に出合った際に、一旦写真を撮ったりSNSの保存機能で保存したりして、スマホの中に「かわいいもの」というように後で見つけやすいようにラベル付けをして画像を保存する行動も見られます。後で思い出して、画像を見た時にもう一度ときめいたら、購買のための情報収集プロセスに進みます。
では、α世代は「膨大な情報に惑わされず失敗しない」ために、どのように行動するのでしょうか。
- Zとαで“失敗しない”ための情報探索行動に違い
- そのCXはマーケター都合になっていないか
- 市場創出の鍵をにぎる「界隈」の概念
- α世代はAIの助言でコミュニティーを選択?
- 「あなたにベストな商品!」は受け入れられない
- 個性に悩むZ世代、個性アピール不要のα世代
α世代は、すぐに答えを求める傾向が強くあると前述しました。AI(人工知能)から情報を得ることを自然だと感じているα世代は、Z世代のように、あれこれ調べて自分で判断することに時間をかけるよりも、信頼できるソースが示すものを“正しい答え”として受け取れば事が済むと考えます。失敗しないために、そもそも情報源を絞るのです。
そして、彼ら彼女らにとっての“正しい答え”とは、「みんなが正しいと思うこと」です。旧来のようにそれぞれの価値観やイデオロギーを持ち出して意見をぶつけ合うと、時間ばかりがかかって結論や落としどころを見いだしにくくなります。そのため「みんなにとってよいこと」を共有し、その答えを実現させるための活動に時間をかけるのが、α世代です。
みんなにベターなことは、「中庸」と言い換えられます。AIは世の中に現れる声の中庸を整理することが得意そうなので、適切に利用すれば「みんながよりよいと思うこと」を発見するサポートになりそうです。
そのCXはマーケター都合になっていないか
ここからは、Z世代からα世代へ世代が移り変わる流れの中で、2030年代に向かって起こり得る、マーケティングの大きな転換について洞察します。
私は、マーケティングの転換を洞察する鍵は、人々がつながる様態(=コミュニティーの形)と、自分らしさの表現(=アイデンティティーの実感)がどのように変容していきそうかを捉えることだと考えています。2030年代に向かって起こり得る転換を考える上でも、この2つを網羅して見ていきます。
私たちが暮らす社会は、既にリアルとバーチャルの境目が曖昧になっています。コミュニティーの多次元化は、AIやICTの進化によって、ますます加速することでしょう。マーケターには、生活者がリアルとバーチャルをストレスなく往来できる体験をデザインすることが求められます。
そして実際、マーケターはCX(顧客体験)をデザインできるのですが、そのアプローチ方法がマーケター都合のものになってしまっており、ここに課題があると感じています。
現状マーケターは、自社Webサイトなどを指すオウンドメディア、広告などを指すペイドメディア、広報とUGC(ユーザー生成コンテンツ)などを指すアーンドメディアの情報を組み合わせて、消費者との接点を持とうとする傾向があります。
この3媒体を用いるトリプルメディアの枠組みは本来、広告主がメディア予算を配分する際に使われる観点で、生活者にとっては自分たちに関係のない企業側の戦略にすぎません。
企業にとっては高い効果を得られるものかもしれませんが、生活者の観点からすると、自分を狙った情報に追いかけられ、押し付けられている感覚を覚えるなど、心地のいい体験にはなっていないかもしれません。
この状態が、Z・α世代が社会の中核を担う2030年代にはどのように変化するでしょうか。彼ら彼女らはSNSを中心としてオンライン社会におけるストレスに敏感なので、メディアをメインのコミュニケーション媒体にするのではなく、生活者のコミュニティーを起点としたCXが再考されると予想します。
市場創出の鍵をにぎる「界隈」の概念
2010年代に進んだSNSの発展により、誰もがインターネットを介して世界中の人とつながれるようになりました。XやLINEなどの主要SNSの利用者数は、あっという間に数億〜数十億人規模へと拡張し、数億単位のフォロワーを有するインフルエンサーが登場します。
こう見ると、コミュニティーのスケールは拡大しマスメディア化している印象を受けますが、私の身近にいるZ世代を見てみるとリアル(フィジカルな)な交友範囲は狭くなっていて、それぞれのコミュニティーも小さくなっていると感じます。
SNSはソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の略称ですが、海外では一般的に「ソーシャルメディア」と呼びます。日本国内では「ソーシャルネットワーク」と称して、インターネット上のコミュニティーサイトを指すことが多く、これは、マーケティングにおけるSNSの捉え方が、メディアではなくコミュニティー寄りであることを反映しているように思います。
Z世代はSNS社会で生活しています。SNS上で多くのコミュニティーにつながり、そこで多様な人とつながりを広げていくことで成長を実感し、自身を社会化していきます。どんなコミュニティーにつながっているかは、自分のアイデンティティーでもあります。
また、SNSが発展する過渡期に育ってきたZ世代は、自分の投稿に対する周りからの反応で嫌な思いをした経験があり、SNS社会で生じる様々なストレスから自分を守っています。例えば、同じSNSに複数のアカウントをつくって使い分けることで、コミュニティーごとの空気を読み、アカウントごとにつながる人との心理的な距離感を変えています。
例えば、Instagramに複数のアカウントをつくって使い分けることは主流になっていて、本アカ(本アカウント)とサブアカ(サブアカウント)、趣味アカ(趣味のアカウント)やヲタアカ(ヲタ活用アカウント)など、平均して1人2~3個のアカウントを持っています。これらの外に、オフラインで面識はなくオンラインを中心につながる、趣味アカ、ヲタアカなどがあります。
ここ数年、こうした趣味や推しを共通項として集まるコミュニティーを「界隈(かいわい)」と呼ぶようになりました。K-POP界隈、アニメ界隈、アイドル界隈、量産界隈など、趣味やファッションスタイルなどのジャンルごとのコミュニティーがSNS上に顕在化しています。
界隈一つ一つの規模は大きくありませんが、当該ジャンルに関連する購買行動はこのコミュニティーの影響を大きく受けるため、「界隈」の概念は市場性の高いトピックとして注目すべきだと考えます。
以上のように、Z世代はオフラインとオンラインの次元を超えて、複数のコミュニティーにつながっています。彼ら彼女らは各コミュニティーに合わせて表現をチューニングするので、スマホの画面にはアカウントごとに異なる世界観が現れます。
ここですごいと感じるのは、どの世界観も自分らしい、自分の好きな世界観だと認識できていることです。Z世代にとっては、自分の中に多様な好みや世界観があることは当たり前のため、複数のコミュニティーとつながりを持つことは自然なことなのです。こうした自分の多面性を認識し、人が多様なコミュニティーを持つ傾向は、上の世代とはまた少し異なる傾向だと感じます。
α世代はAIの助言でコミュニティーを選択?
α世代は、Z世代のようにいくつものアカウントをつくって個別に管理するような手間を、面倒に感じるのではないかと思います。それよりも、自分のことをよく知っているAIのサポートを受けて、つながるコミュニティーを選択したり、そこでの自分らしさの表現(どのアバターを使用してアイデンティティーを表現するかなど)を最適化したりすることが合理的だと考えるかもしれません。
また、α世代はオンラインゲームで自分の分身のアバターを使用して、見知らぬ人とゲームをプレーすることに慣れている世代なので、人とのつながり方やコミュニティーの捉え方が変容するのではないかと考えます。
現代でもその兆候が見られますが、今後さらにSNS社会のストレスを解消したい社会ニーズが高まり、人々は居心地のよい自分の場所を探し始めると予想します。
こうした社会的背景を受け、α世代はコミュニティーを、日常的にフィジカルな接点がある家族や親友とのコミュニティーである「ファーストプレイス」、学校や仕事仲間とのコミュニティーである「セカンドプレイス」、それ以外につながるコミュニティーを「居心地のよいサードプレイス」に分けて考えるのではないでしょうか。
そして、α世代には成果志向が強いという特性が見られますが、この特性は「界隈」の概念も進化させます。共通の興味を持った人が集まるコミュニティーから、つながる人がお互いを高め合いながら何かしらの成果をつくる「プロジェクト型コミュニティー」のような形にアップデートするのではないかと思うのです。
プロジェクトの趣旨やパーパス(社会的意義)に共感する人が自由につながるこのコミュニティーは、いわばクラウドファンディングや応援購買と近い感覚です。
「あなたにベストな商品!」は受け入れられない
2010年代まで、マーケターが企画するコミュニケーションの主流は、マスメディアと広告を通じたコンテンツでした。主要メディアは時代とともに、音声からテキストへ、テキストから画像へと推移し、現在では、画像やショート動画による直感的なビジュアルコミュニケーションが主流となっています。
そして2020年代以降は通信規格5Gや6Gの登場で、離れた場所にいる人とでも同時に同じ体験ができるようになります。国境を越えて同時に同じ体験をしている人がいると感じられることで、共感や熱量が高まり、コミュニティー内に新しいコンテクスト(文脈)が生まれることの社会的価値が高まると考えます。
例えば、旧来から広告の基本機能は「伝達と説得」だとされているため、広告は、生活者が興味を持ってくれそうな魅力的な情報を入れ込んだものになります。すると結果的に、広告は広告主によってつくられた完璧なブランドストーリーや世界観を映すものになります。
しかしSNSとコミュニティーの時代においては、広告主がきれいにまとめた情報ではなく、コミュニティーにつながるみんなが、自分の思いを投影して情報価値を高めていくことで、それぞれのコンテクストをその中に感じられるようなコンテンツが求められるのではないでしょうか。
「あなたにベストな商品!」というメッセージは「私にベストだと誰が決めたの?」と押し付けに受け取られてしまうことがあるように、生活者たちそれぞれが自分の好きな世界観や思いを溶け込ませられる余白があるほうが、受け入れられるのです。
企業はコンテンツ(情報)を届ける存在から、コミュニティーの中でコンテクストを生み出すことを支援する存在へと変化し、コミュニケーションの方法も変化していくでしょう。
個性に悩むZ世代、個性アピール不要のα世代
Z世代は「みんなちがって、みんないい」という言葉をよく口にします。Z世代は多様性を尊重しようとする機運が高まる時代に育ち、好きな髪形やメーク、ファッションなどを通して、なりたい自分になれる自由さを感じています。
その一方で、進学や就活の面接の場面などで「あなたらしさについて教えてください」と、他人との違いや個性を問われることに生きづらさを感じる世代でもあります。
「みんなちがって、みんないい」に込められた本意は、「あなたはあなたでいい」というメッセージだと思いますが、多様性を尊重する教育の中で育ってきたZ世代は「違いを認め合おう」という文脈理解が強くなってしまい、他人と違うことが明確でないと「個性が弱い」と感じてしまうことがあるようです。
α世代は、生まれたときから多様な価値観が尊重される社会で育っていて、多様性に関する教育もZ世代よりアップデートされているため、「あなたはあなたでいい」という感覚を強く持っていると感じます。
そしてアイデンティティー(自分らしさ)をどのように実感するのか、その変化を捉えることで、マーケティングの進化が見えてきます。
Z世代だけでなく、SNSでの他者承認に疲れが見えてきた広い世代で、「自分らしさの実感の仕方」に変化が見られます。例えば、次のような意識の変化があるようです。
- 他者との違いこそが個性だという意識から、中庸から取った距離で自分らしさを感じたいと思うように
- 相手の気持ちに入り込んで同調するのではなく、相手の気持ちを尊重して距離感を保ちながら共感することが、お互いに心地いい
- 価値観を出すとぶつかることが多いが、自分の世界観を出すことでつながりやすくなる
- 見た目から分かるスタイルよりも、どのようなスタンス(思い)を取っているかでつながる相手を判断したい
- 所有物や所属のブランドよりも、どんな人とつながっているかでアイデンティティーが分かる
この変化を踏まえると、属性からターゲットグループを設定するSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)マーケティングはもはやあまり効果を発揮せず、コミュニティー内でのアイデンティティーを中心とするマーケティングが主流になっていくことを象徴しています。
小々馬敦(著)、日経BP、1980円(税込み)
『新消費をつくるα世代』出版記念・研究報告会
日時:2024年6月28日(金)16時00分~17時40分 【ハイブリッド】
場所:日本マーケティング協会 アカデミーホール&オンライン配信
詳細・お申し込みはこちら

