会議、プレゼン、日常会話……。あなたの話はなぜ伝わらないのか。「丁寧に人に伝えるためには、説明する要素を徹底的に“分解”することが重要」と話すのは、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さん。その分解の手法として薦めるのが、トヨタ自動車で用いられている「なぜなぜ分析」です。問題や課題の真因を追究するために「なぜ?」を5回繰り返す手法を「伝え方」のブラッシュアップに使うのが有効だといいます。新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)から抜粋・再構成してお届けします。
自分が何かを理解しようとするとき、本当に詳しい人=あなたの周りの“専門家”に教えを請うことはとても大事です。ただ、その専門家に「自分が中学生になったつもりで質問をぶつけられるか」はもっと重要なことです。素人として聞くのではなく、中学生として聞くのです。
人に話を聞くときは、自分も「ある程度の知識はもちろん持っていますが……」と、つい自分を取り繕おうとして、ちょっとした知ったかぶりをしてしまうときもあります。しかし、中途半端な知ったかぶりは、物事の本質的な理解を妨げます。なるべく中学生のままで質問していきましょう。
分かりやすく伝えることは「面倒」である
中学生の視点が大切なのは、彼らが「本質に関わる質問」を投げかけることがあるからです。
中学生たちの素朴な疑問に、大人がすぐに答えられないことがありますよね。それは、彼らの質問が本質を突いているからです。みなさんご存じの通り、大人の社会では「当たり前」でも、実は単純な答えが無いことが多いからです。
例えば、「なぜ学校には制服が必要なんですか?」という質問はどうでしょう。これは、よくある「答えが無い」質問です。制服は、先生たちが生徒を管理しやすくする手段であり、学校のブランドの象徴でもあります。一方で、生徒たちには好きな服を自由に着るという基本的な権利があります。ただ、多くの大人が、こうした本質的な議論に真正面から答えようとはしません。いちいち答えるのが面倒くさいですし、「そういうものだから」というお決まりの言い逃れがあるからです。
しかし、そういう態度こそが、「伝えられない大人」を大量生産しているのだと思います。
「なぜ学校には制服が必要?」にどう答える
素朴な疑問に答えることは面倒です。分かりやすく答えることは、さらに面倒です。特に「そういうものだから」という答えを繰り返すことは、知的な怠惰だと言えます。こういう「言い訳」ばかりをする人は、たいていの場合、物事を説明することが非常に下手です。
この制服の問題で言えば、絶対的な答えが無い以上、時間がかかっても丁寧に中学生に「お願い」するしかないのかもしれません。
私は個人的には学校の制服には反対です。でも、もし私が校長先生の立場だったら、「なぜ学校には制服が必要なんですか?」という質問には、次のような「答え」を説明するしかないかなと思います。どうでしょうか。
最近では制服がない学校も増えていますし、たとえ義務教育であっても、制服を着ることが法律で義務付けられているわけではありません。また、服装で人を差別しない意識を持つことこそが本当に大切ですよね。
とはいえ、学校に制服があることにもいくつかの理由があります。
まず、高い服を買っておしゃれできる人もいれば、そうでない人もいます。もし自由な服装が認められた場合、全員が「服で人を差別しない」という完璧な意識を持てるとは限りません。中には「あの人の服ダサい」などと悪口を言う人が出てきて、いじめにつながる可能性もあります。制服があるだけで、そうしたトラブルを防ぐことができるかもしれません。
また、制服を着ていれば「この人は生徒だな」とすぐに分かるので、もし不審者が学校に入ってきたときにもすぐに見つけられます。自由な服装だと「生徒なのか部外者なのか」を見分けるのが難しくなります。
それに、毎朝「今日は何を着ていこう?」と迷うことなく、サッと準備ができます。その分、朝の時間を短縮できて、遅刻が減るかもしれません。また、たくさんの服を買う必要がないのでお金を節約できるでしょう。
さらに制服はその学校のイメージをつくるものでもあります。「この制服が着たい!」と憧れて入学してくる生徒もいるでしょう。そうした生徒たちが払う受験料が校舎や体育館の修理など、学校を運営するためのお金になることもあります。学校の経営にとって、これは非常にプラスです。
もちろん、先生たちも「制服が絶対に正しい」とは言えません。ただ、制服にはこうしたいくつかのメリットがあるからこそ、校則で定められています。
世の中の物事は良しあしがあって単純に割り切れないものです。みなさんが制服を通じて、物事のいろんな面を学んでもらえればうれしいです。
「丁寧に人に伝える」の定義とは?
ここでは制服の問題について、人間には自由があることを認めつつ、一方で「経済的に服装の差が出る」「いじめや差別の可能性」「生徒の安全」「学校の経営」など様々な要素に「分解」し、それらへの処方箋として「再び組み立てる」ことで丁寧に説明しています。
重要なのは、素朴な疑問に対して、できるだけ寄り添いながら答える姿勢です。「丁寧な説明」の定義とは、単に親切なだけでなく、かみ砕かれて、本当に理解しやすいように組み立てられたものを指します。

つまり、難しいことを理解するためには「分解する」=「極限まで単純にする」、そして「組み立てる」ということを繰り返すしかないのです。人に伝えるというのは、「分解」→「組み立て」を人の前でもう一度やってみせることです。
では、分解し、組み立てるには具体的にどうしたらいいのでしょうか。
「なぜ?」を5回繰り返して分解し、組み立てる
そのときは「なぜ?」という問いを何度も繰り返して物事を掘り下げるテクニックを使います。
物事を掘り下げて考える際には、「なぜ?」は最低でも5回繰り返すべしとされています。これはその昔トヨタ自動車が考案した「トヨタ生産方式」に由来すると言われます。トヨタでは何か問題が発生した際に「なぜ?」を繰り返すことで、原因を徹底的に理解・追究し、確実な解決策を見つけてきたとされています。
非常に単純な例えですが、「なぜ最近、業績が悪いのか?」という問題について、「なぜ?」を5回繰り返すと、次のようになります。
→大きな市場である北米で、クルマが売れていないから。
【2】なぜ、北米でクルマが売れていないのか?
→北米で多くの米国人が使うピックアップトラックの品ぞろえが悪いから。
【3】なぜ、ピックアップトラックの品ぞろえが悪いのか?
→テキサスの工場で生産レーンが止まっているから。
【4】なぜ、生産レーンが止まっているのか?
→最近、生産レーンでトラブルが起きたから。
【5】なぜ、トラブルが起きたのか?
→システムや作業員がピックアップトラックに慣れていないから。
このように「なぜ?」を5回繰り返すことで、「テキサス工場の生産レーンを改善すべき」という結論にたどり着きます。つまりシステムを見直し、作業員をトレーニングし、増強するという解決策が見えるわけです。
その結果、ピックアップトラックの生産が再開され、北米市場での売り上げが回復し、利益が増加する……といった具合に、全体の流れが逆の順番に改善されていきます。問題のボトルネックを明確にして、解決策にたどり着くこの方法は、理解の解像度を上げるひとつの方法です。
同時にこの手法は、伝える前に、まず伝えるべき物事を深く理解する際にも使えます。このプロセスを一度たどった人は「なぜ業績が悪いのか?」について深い部分から理解して説明できるからです。
「深く理解する」というのは、海の底にたどり着くようなものです。「なぜ?」を繰り返すことは、いわば水面から海底に降りていくような作業です。少しずつ水中の段階を降りて理解を深め、海の底つまり問題の根源にたどり着くのです。いつまでも表面的な理解のまま、海面を漂うようなことは避けましょう。
「制服」の問題、具体的に掘り下げてみると…
また先ほどの「なぜ学校に制服は必要か?」の問題で考えてみましょう。
この問題の場合は、以下のように「なぜ」を合計で6回繰り返して、問題を掘り下げるプロセスになると思います。
以下の通り、最初の「なぜ?」で答えが「生徒のために必要だから」「学校のために必要だから」と2つの回答に分かれます。
次に「生徒のため」の「なぜ?」は【2】【3】で掘り下げます。
さらに「学校のため」の「なぜ?」を【4】【5】【6】で掘り下げます。
→生徒のために必要(【2】)であり、学校のために必要(【4】)だから
【2】なぜ生徒のために必要か?
→生徒の間の経済的な格差を露見させないために必要だから
【3】なぜ経済格差を露見させないことが必要なのか?
→服装を通じたいじめや差別が起きる可能性が否定できないから
【4】なぜ学校のために必要か?
→不審者と生徒を区別する必要があり(【5】)、学校の経営のためにも必要(【6】)だから
【5】なぜ不審者と生徒の区別が必要なのか?
→生徒の安全を確保する必要があるから
【6】なぜ学校の経営のために必要なのか?
→制服を利用して学校のブランドを高め、収益を安定させる必要があるから
こうして先ほどと同じように、「経済格差」「いじめや差別の可能性」「生徒の安全」「学校の経営」など様々な要素に「分解」して理解します。次に、それへの処方箋として「再び組み立てる」ことで説明していくのです。

[日経クロスウーマン 2025年6月24日付の記事を転載、一部改訂]
豊島晋作(著)、日経BP、1980円(税込み)
