「うまく伝えられている!」と思ったときこそ要注意。テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏は、「脳が興奮状態になると、論理的な思考力が低下してしまう」と指摘する。新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)から抜粋・再構成してお届けする(参照:[動画]テレ東豊島キャスター「中学生にあなたの話は伝わらない」)。

 1対1の会話や大勢の相手を前にしたプレゼンといった「伝える」場面で、気を付けたいのが「自身の判断力の低下」です。特に、自分の気持ちが乗ってきて興奮したり、徐々に気持ちが良くなり始めたりする場面は要注意です。

 脳が興奮状態になると、論理的な思考力が低下し、「聞き手が話を理解しているか」「他者満足を満たしているか」が判断できなくなります。多くの場合、話が長くなればなるほど、人間の判断力は低下していくのです。

「上司の話は、最初は失敗談をもとにした役に立つ話ばかりだったのに、気分が乗ってきたらどんどん自慢話が増えてきた」というようなケースです。

 つまり、人間は一気に話し続ければ続けるほど、自分に対する客観性を失い、周りが見えなくなるのです。「自慢話や昔話を話したい」という本能的な欲望が次第に首をもたげてきます。特に聞き手が「すごいですね」などと話し手を乗せるような相づちを打てば、一気に罠にハマりやすくなります。私もたびたび陥りそうになる恐ろしいトラップです。大勢を前にしたプレゼンなどでこのトラップにハマるのは致命的です。

 しかし、プレゼンであれば、事前に原稿を準備することで失態は避けられます。前もって話の流れをしっかり決め、原稿やスライドを用意し、あらかじめ決めた流れから外れないよう確認しながら話すのです。原稿やスライドは、話し手の判断力低下からくる失態を避けるためのものです。

 事前準備なしの“ぶっつけ本番”で話をすれば、ライブ感のある面白さが生まれる可能性はあります。しかし、これはかなりプレゼン慣れした人の手法です。慣れていない人は判断力を失い、ダラダラとまとまりのない話をしてしまう危険があります。なので、あらかじめ準備した流れに沿いながら、そこに感情や個性を乗せて話すことを心がけるとよいでしょう。

ただし“完璧な原稿”はいらない

 ただ、事前準備では、一言一句細かく書かれたような原稿を準備することは、本書ではあまりおすすめしません。確かに、企業の新商品発表会や、経営戦略説明会などでのトップのプレゼンは、目の前のプロンプター(原稿を表示する装置)の原稿を一言一句を読みながら進める方式が一般的です。私も何百回とそれらを見てきました。

 しかし、そのやり方で「聞き手が引き込まれる話」をする経営者を私はほとんど見たことがありません。用意された原稿がたとえ完璧でも、多くの経営者がそれらを上手に読めるほど優れた“役者”ではないからです。

テレビ東京キャスターの豊島晋作氏(写真=竹井 俊晴)
テレビ東京キャスターの豊島晋作氏(写真=竹井 俊晴)

 原稿を魅力的に読めるのは役者や一部の限られたプレゼンターだけです。そこで必要なのは「伝える力」と重なる「演じる力」ですが、実際に演じ切るのは簡単ではありません(この「優れた伝え手」を「演じる」という要素は非常に重要で、多くのビジネスパーソンに求められるスキルでもあります。演じて伝える方法については本書で別途触れます)。

 そのため、理想的には話す内容はなるべく原稿にせず、できれば箇条書きのメモにして、それを自分の言葉で話すようにするのがベストだと思います。

 例えば、

  • 売り上げは前年の2倍を確保し、特に営業利益は過去最高となった
  • アジア市場を攻略するために組んだパートナー企業との合弁事業が成功した
  • 従業員たちには感謝したい

 ……といった形で伝えるポイントを箇条書きにしておくことです。「箇条書きのメモというシンプルなレールを敷くことで、話し手の判断力低下による脱線を防ぎます。さらに、あくまで“自分の言葉”で話すことで多少のライブ感も出せます。

 大企業の経営者も、極めて重要なイベント以外は、プロンプターに出すのは箇条書きのメモにして、それを自分の言葉でまとめて話すトレーニングから積んでいくべきだとかねがね思います。

 そもそも、経営者にとって「伝える能力」は必須ですが、現実は、プレゼンを前に緊張や不安を感じた社長が、広報部などに「原稿にしてくれ」と指示するのでしょう。広報部も「間違いがあってはならない」と完璧な原稿を準備したくなると思います。

 ただ、完璧な演説原稿を完璧に読みこなすのは、まず「自分の言葉で話せる」ことが前提です。そのレベルの伝える技量を持った日本の著名な大企業経営者は、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOやサントリーホールディングスの新浪剛史会長など、ほんの一握りかもしれません。経営者や管理職クラスに限らず、誰もがまずは箇条書きのメモを自分の言葉で話すことを基本にするのがいいと思います。

日経ビジネス電子版 2025年6月20日付の記事を転載、一部改訂]

テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏が、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「自分の考えや情報を分かりやすく人に伝える方法」、「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、基本的な部分から応用的な要素までを徹底解説。

豊島晋作(著)、日経BP、1980円(税込み)