物忘れが増えてくると「自分はもしかしたらだまされやすくなっているのでは…」と心配になってくることがある。老後を見据えるとき、脳のクセを知っておけば無理なく楽しく脳の若々しさを保っていけそうだ。日経Goodayの連載で人気を集めた内容が、1冊の本『 脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法 』にまとまった。本記事では、ミドル世代からシニア期にかけての脳の若さの守り方を考えてみよう。

老化すると脳もだまされやすく変化するのか?

 年齢を重ねると、素早い判断や、必要なことをさっと思い出す、といったことが苦手になってくる。となると気になるのが、巷(ちまた)で横行する詐欺被害のニュースだ。スマホに怪しい通知が来ることがあると、自分もいつか巧妙な手口に引っかかる可能性があるのでは、と心配になってくる。まずは詐欺の手口と脳の仕組みについて、篠原氏にひもといてもらおう。

(写真はイメージ:Mongkol/stock.adobe.com)
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詐欺の手口は「脳のメモ帳」を使い切らせることにある

 だまされやすさについて考えるとき、「そもそも脳は複数のことを同時並行処理することができない」という脳の特性を振り返る必要がある、と篠原氏はいう。

 「人を人たらしめているのは、脳の前頭前野という部分。知覚・言語・思考など知性をつかさどる部分です。前頭前野は、脳の別の場所に格納されている記憶や情報を意識に上げてきて、何かのミッションがあるとそのたびあれこれ検討します。この機能があるからこそ、人類はどんな状況に置かれても柔軟に適応し、あらゆる環境下で生き抜いてきました。
 このように優れた働きをする前頭前野ですが、ここはコンピュータのキャッシュメモリのように必要な情報を一時的に保存して情報処理をするところ。実は、その性能には限界があるのです」(篠原氏)

 「前頭前野のメモリのことをワーキングメモリと言い、私はこれを脳のメモ帳と呼んでいます。このメモ帳の枚数は、年齢とは関係なく、誰もが3~4枚しか持っていません。私たちは、『あれ』『これ』『それ』くらいしか同時に処理できないのです。ですから、いくつもの情報をどんどん入れられ、その全部が重要だ、と言われてしまうと脳のメモ帳では処理が追いつかなくなるのが当たり前です。特殊詐欺の加害者はこの脳の仕組みをまさに利用しているわけです。ある人がこう言い、次に違う人から電話がかかってきてこう言い、指示される…と、情報過多にして、脳のメモ帳を使い切らせる状態を意図的に作っているのです」(篠原氏)

 確かに、短時間で情報過多にして脳のメモ帳を使い切らせる、という作戦は、詐欺のあるあるな手口だ。息子が事件を起こしたから大至急、示談金が必要、あなたの口座が犯罪に利用されているからカードと暗証番号が必要、など――。

 「特殊詐欺の加害者は、ストレスフルな情報や人をたくさん入れることで一気に圧をかけてきます。高齢であろうとなかろうと、このテクニックのもとでやられると、人は普段通りに思考できなくなり、稚拙な判断しかできなくなります」(篠原氏)

(イラストはイメージ:gotooo/stock.adobe.com)
(イラストはイメージ:gotooo/stock.adobe.com)

だまされにくい脳を作るために意識すべきことは?

 ここで気になるのは、やはり高齢になるほど引っかかりやすくなるのかということだ。

 「脳の前頭前野は年齢とともにその働きが低下する傾向があるので、高齢になるほど狙われやすい、引っかかりやすいといえるでしょう。だます側からすると落としやすいターゲットといえます。ただ、高齢者一般というよりも、だます側は無数の対象に電話をかけています。おそらく、その大多数の中でも、急にストレスをかけられることに脆弱な人、ワーキングメモリの力が落ちている人が引っかかりやすいということです」(篠原氏)

 詐欺の中にはネットで疑似恋愛の関係を作ってお金を要求する「ロマンス詐欺」など、一見ワクワクすることと組みあわせるような詐欺もある。ストレスフルなことだけでなく、うれしいことも脳のメモ帳を食うので、こういった詐欺も横行するのだという。

 では、日々の判断力低下に歯止めをかけて、だまされにくい脳を作るワザはあるのだろうか。

 「まず、脳のメモ帳を複数使う習慣を作るということです。何かを覚えて、余計なことをやって、また思い出す、ということを意識づける。ちょっと面倒くさいなという作業を脳に課している最中に、前頭前野が活性化します。
 もう一つ、人と話をする、というのも脳のネットワークを広げやすくする大切な行為です。脳には出力依存性という特性があります。入力しよう、覚えよう、と思ってもさほど新しい情報ネットワークは作られないのですが、出力しようとしたときに、記憶の引き出しである海馬がその情報を必要なものと判断し、情報ネットワークを構築しやすい状況にするのです。
 面白い、と思ったこと、今日あった出来事を人に伝えてみましょう。話すのはもちろんですが、文字で起こす、というのもいいですよ」(篠原氏)

 確かに、得た情報を人に伝えようとするときに「なんだっけ」とよくわからなくなることがある。今日の出来事や面白いと思ったことを身近なことに話す「アウトプット」を習慣づけることは、確実に脳トレになりそうだ。

(写真はイメージ: ponta1414/stock.adobe.com)
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日経Gooday(グッデイ) 2026年6月4日付の記事を転載・一部改訂/情報は掲載時点のものです]

怒りや、喜び、憎しみ、親しみ…。これらの感情に、脳は乗っ取られやすく、そしてダマされやすい側面があります。そんな「脳のクセ」を見抜いておけば、やる気にさせたり、落ち込みを避けたり、嫌いなものを「好き」に変えたりと、物事をポジティブな方向へと進めることができます。脳のクセを見抜き、うまく“コントロール”して、あなたを振り回す「感情」から身を守る方法をこの本で見つけてください。

篠原菊紀 著/日経BP/1870円(税込み)