経験を積んだ世代でも、「ネット炎上に気持ちを揺さぶられる」など、ネガティブ思考に振り回されることは少なくない。そんなときに役立つのが、脳のクセを知り、感情に振り回されないためのテクニックだ。日経Goodayの連載で人気を集めた内容が、1冊の本『 脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法 』にまとまった。本記事では、その中から、SNSから受け取る負の感情への向き合い方についてお届けする。
「ネット炎上」はなぜ起こる? SNSから受け取る負の感情
前回は、不安や苦手意識にまつわるネガティブ思考のコントロール法について紹介した。今回は、SNSにまつわるネガティブ思考との向き合い方について考える。
私たちは、受け取る「情報」からネガティブな気持ちを引きずってしまうこともある。
中でも、ネット社会では、特定の個人や企業などに対して批判的なコメントが大量かつ集中的に発生する「炎上」が定期的に起こる。日常的に顔を合わせる人間同士であれば言わないようなコメントも、匿名性ゆえ平気で言ってしまうこともある――。
ネットでは実生活よりも、他者の痛みに対して鈍感になるのだろうか。
篠原氏は、脳科学から次のように説明する。

「人はどのように他者の痛みを感じるのか、という研究が参考になるかもしれません。
人は、誰かが殴られているなどの暴力的なシーンを見ると、痛みや不快感に関わる脳の島皮質(とうひしつ)が活性化します。島皮質とは、社会的感情、道徳的直感、共感、痛み、ユーモアなどに関わる部位で、自分の外側から来る感覚と内側の感覚をつなぐ役割を果たしています。このように、人は他人の痛みをあたかも自らの痛みのように感じることができるのですが、実験で『この人は悪いことをした』というテロップを流した後で、その人が殴られているシーンを見せると、痛みの感覚は薄らぎ、脳の側坐核(そくざかく)という快感に関係する脳部位が活性化するのです。つまり、相手が悪いというレッテルが貼られたとたん、相手の痛みを見ることが快感に変わってしまうのです。
『相手を個人として認識しない』ことが、『その人は不当な扱いをされてよい』と思う偏見や差別感を増幅させる、という研究もあります。この人はこういう人だから、と類型的かつ固定的に評価することをラベリング、あるいはレッテル貼りといいます。ラベリングが起きるとそれが正義になり、快感に関わる側坐核が活性化し、攻撃することに気持ちよさを感じるということが普通に起こることも分かっています。
SNSは本人の顔が見えないですし、ネガティブな報道でネットに上がる顔写真ってどんどん悪い顔になる。メディア側もビューを稼ぐために悪い表情を選択的に選ぶわけです。それを見続けている私たちも、次第にその人の顔を思い浮かべたときの顔がどんどん凶悪になっていきます」(篠原氏)
ネガティブな情報ほど拡散されやすく、心に残りやすい
ネットで情報を得るときには、ラベリングやレッテル貼りに自らが加担していないかを振り返る必要がありそうだ。
「たとえば、私は大学で学生相談の業務も長年やってきたのですが、子どもの相談に保護者がやってきたとき、子どもが何か問題を起こしているような場合は、話をしているうちにお母さんの頭の中に浮かぶ子どもの顔が凶悪化していくんですよ。だから、どんどんネガティブな気持ちになっていく。そこで、私が『ここでひと呼吸おいて、その子がにっこりしているときの様子を思い浮かべてください』とか『赤ちゃんのときのぷにゅぷにゅしたほっぺの感じを思い出してください』なんていう話をすると、話の方向が少しずれて希望的な内容に変わってくる、ということはよくあります」(篠原氏)
ネット上では誰かを称賛するよりも貶めるほうが情報が拡散されていく傾向がある。これは、「人は得になることよりもはるかに損失に対して敏感である」という考え方から理解できるという。
「情報においても、ネガティブなことのほうがポジティブなことよりも2倍から3倍、心に残りやすい。だから人はネガティブな情報ほどせっせと拡散するし、その現象を傍観するだけでもネガティブな影響を受けます。
また、恐怖や嫌悪、不安などの感情が起こったときに脳の扁桃体が活性化しますが、これは“エサを捕ろうとしたときに襲われそうになった”という恐怖の記憶はしっかり刻む必要がある、という、生き残り確率を高めるための仕組みです。嫌な記憶を強く記憶しておかないと容易に死んでしまうので、人間はそういった『嫌な情報』を見てしまうわけです。
ただ、SNSで炎上が起こっても、永久に続くわけではありません。そういった情報を見ていて嫌な気持ちになるのであれば、多くの人は見なくなるものでもあります」(篠原氏)
あふれる情報から必要な情報を得るためには、ネガティブな情報を避けるわけにもいかない。自分の中で、冷静かつ客観的思考という軸をしっかり持ちながら、ネットとの適度な距離感を維持していく必要がありそうだ。
次回は、シニア期を元気に過ごしていくために実践していきたい「老化脳」からあなたを守る方法について聞く。
[日経Gooday(グッデイ) 2026年5月29日付の記事を転載・一部改訂/情報は掲載時点のものです]
篠原菊紀 著/日経BP/1870円(税込み)
