面白法人カヤックは神奈川県鎌倉市に本社を構え、スマートフォン向けのハイパーカジュアルゲーム(ハイカジ)をはじめとしたゲーム・エンタメ関連事業や、広告制作やイベント企画などを行う面白プロデュース事業を中心にビジネスを展開しています。同社の面白プロデュース事業部では昨年、10冊の本を読む読書会を開催しました。後編の今回は、読書会で読んだ課題図書について、面白プロデュース事業部の松田壮さんと片山直也さんに聞きました。

「自分でやったほうが早い」の落とし穴

日経BOOKプラス編集部(以下、──) 前回は読書会が始まった経緯と1冊目に読んだ本、『 社員の力で最高のチームをつくる <新版>1分間エンパワーメント 』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著/星野佳路監訳/御立英史訳/ダイヤモンド社)について聞きました。今回は2冊目以降について教えてください。

面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 事業部長 松田壮さん(以下、松田) 2冊目に読んだのは『 任せるコツ 』(山本渉著/すばる舎)です。カヤックのリーダー層はもともとクリエイター出身で、いきなりマネジメントをする人間はいません。実際のプロジェクトに関わりつつ、マネジメントもしなくてはならないとなると、リーダーになりたての人あるあるの1つなのですが「自分がやったほうが早い」と思ってしまうんですよね。ただ、複数のプロジェクトをすべて自分でやっていると、遅かれ早かれ破綻してしまうことは目に見えています。まさに「任せるコツ」を知る必要があります。

『任せるコツ』(山本渉著)。画像クリックでAmazonページへ
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面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 プロデューサー 片山直也さん(以下、片山) 特にクリエイターは、マネジメントよりも手を動かすことのほうが好きなんですよね。でも、リーダーになると仕事量が増えるので、パンクしてしまいます。

松田 他人に仕事を渡すことをなんとなく「申し訳ない」と思ってしまう人もいると思いますが、「気持ちよく任せる」のはリーダーの先天的な資質なのではなく、後から身につける技術の1つだということを知ってもらいたかったのです。

人の話をちゃんと聞くための本

3冊目に読んだのは何でしょうか。

松田 『 まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比 』(櫻井将著/日本能率協会マネジメントセンター)です。カヤックは人の話を聞くのが下手というか自分が話すほうが好きな人が多いんです(笑)。だから、この本を読んで、まず人の話をちゃんと聞く。それも「うんうん」と、ただ聞くのではなく、「withoutジャッジメント」(自分の判断を入れずに聞く)ことが大事だと分かりました。

『まず、ちゃんと聴く。』(櫻井将著)。画像クリックでAmazonページへ
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片山 「それは面白いね」「あんまり面白くないね」といった判断をせずに、まずはちゃんと聞くという。

松田 この本ではその聞き方についてテクニカルに書かれています。前出の「任せるコツ」と同じで、他人の話が聞けないのは、個人の資質や性格の問題ではない。聞き方や心構えを知っていれば誰でも変えられるんだというのは救いになりました。

片山 リーダーになると、本当に人の話を聞く時間も心の余裕もなくなってきます。つい、「こうすればいいんじゃない」と言ってしまうのですが、それではチームは育ちません。でも、この本に書かれているように、いったん話を聞いて受け止めると、メンバーが思った以上の活躍をしてくれるようになりました。それにリーダー陣がこの本を「必読の書」としていると、壁にぶち当たったときに「withoutジャッジメントって書いてあったよね」という共通言語で会話ができるのもいいですね。

松田 そうですね。ここまでは「まずはリーダーになりたてのクリエイターが読むべき基本の3冊」でした。

松田壮さん(左)と片山直也さん
松田壮さん(左)と片山直也さん
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松田壮(まつだ・そう)
面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 事業部長 M&A責任者
大手建設会社を経て、2011年に面白法人カヤックに入社。エンジニアとして新規事業開発チーム、自社サービスに関わった後、クライアントワーク事業部(現・面白プロデュース事業部)でエンジニアリーダー、ディレクター、プロデューサーと役割を渡り歩き、現職。ビジネスでも結果を出せる「変な会社」としてカヤックをアップデートし続けるため、若きリーダーたちと組織づくりに奮闘中。
片山直也(かたやま・なおや)
面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 プロデューサー M&A責任者
1992年、大阪府生まれ。学生時代にライターとして書いた記事が話題になり、2018年、エゴサーチ採用によってディレクターとして面白法人カヤックに入社。22年からプロデューサーに。クライアントワークを中心に、ビジョンやゴールを達成するために、与件や手段にとらわれないクリエイティブプロデュースを心がける。カヤックの好きなところは、昨日遅刻してきた人が、今日遅刻してきた人を叱れるところ。

ビジネス書の名著『イシューからはじめよ』

これらの次に読んだ4冊目の本は何でしょうか。

松田 『 イシューからはじめよ[改訂版] 知的生産の「シンプルな本質」 』(安宅和人著/英治出版)です。こちらは英治出版が当社のグループ会社になったこともあり、「読んでない」とは言えないなと(笑)。

『イシューからはじめよ』(安宅和人著)。写真は旧版。画像クリックで改訂版のAmazonページへ
『イシューからはじめよ』(安宅和人著)。写真は旧版。画像クリックで改訂版のAmazonページへ

片山 骨太で、メンバーからは「論文を読んでいるようだ」「頭には入ってくるけれども、まだ消化しきれず何度も読み返したい」「『犬の道(気合いと根性で手当たり次第に進めること)』という言葉にドキッとした」という感想が上がりました。

松田 企画を進める際に「いきなり飛び込まず、1次情報を取りに行く」と書かれていて、普段は直感的に仕事を進めがちだったので耳が痛い部分もありましたね。響いている言葉はメンバーそれぞれだったのですが、クライアントの課題に対してクリエイターとして「つくる」ことにコミットしようとしすぎるあまり、リーダーやプロデューサーに求められる根本的な判断をおざなりにしていないか、という問いを突きつけられていると感じた人が多かったように思います。

クリエイター必読の3冊

5冊目以降の本についても教えてください。

松田 5冊目の『 コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた 』(細田高広著/ダイヤモンド社)、6冊目の『 言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップする思考と技術 』(仁藤安久著/ダイヤモンド社)、8冊目の『 非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術 』(齋藤太郎著/東洋経済新報社)はクリエイターのための3冊です。普段の自分たちの仕事に近い内容のものを選びました。

『コンセプトの教科書』(細田高広著)。画像クリックでAmazonページへ
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『言葉でアイデアをつくる。』(仁藤安久著)。画像クリックでAmazonページへ
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『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』(齋藤太郎著)。画像クリックでAmazonページへ
『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』(齋藤太郎著)。画像クリックでAmazonページへ

片山 実は読書会には「みんなの積ん読を解消しよう」という目的もありました。この3冊は「自宅にある」というメンバーが多く、ちゃんと読んで消化しようと。

松田 『イシューからはじめよ』がチームが結果を生み出すための包括的なプロセスを教えてくれる内容だとしたら、この3冊は目の前の仕事に生かせる複数の観点を得られる内容。この本を薦めてくれた人がどういう点を推していたのかを想像しながら読むことで、具体的な学びを得られた面が大きいと思いました。

その間の7冊目は何だったのですか。

松田 7冊目は『 採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの 』(伊賀泰代著/ダイヤモンド社)です。これは僕が過去に初めてリーダーになったときにカヤックの先輩に薦めてもらった本で、当時も読みやすく、かつリーダーにとって普遍的な内容だったというのが選書の理由です。

『採用基準』(伊賀泰代著)。画像クリックでAmazonページへ
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片山 プロデューサーは事業を担いつつ、一部採用にも関わります。みんなその採用基準をどうするか悩んでいたので、採用リテラシーを高めるために人事採用マネジャーを10年以上務めた著者の考えをのぞいてみようと。

松田 と言いつつ、この本の本質は採用基準ではなく、「どういう人材を採用して、どういう組織をつくっていくべきか」だと思いました。しかも本の大半は「リーダーとは、リーダーシップとは」について詳細に書かれており、最も偉大なタイトル詐欺本の1つです(笑)。

では、『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』の次に読んだ9冊目について教えてください。

片山 『 会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方 』(大手町のランダムウォーカー著/KADOKAWA)です。読書会の中では唯一のハウツー本かもしれません。

『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』(大手町のランダムウォーカー著)。画像クリックでAmazonページへ
『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』(大手町のランダムウォーカー著)。画像クリックでAmazonページへ

松田 これは、読書会で読む本としては意外な一冊に見えると思うのですが、我々プロデューサーはクライアントに何か提案をするとき、理解が浅いままの場合と、その会社がどういうビジネスモデルで、どんな課題があって、そこに対してカヤックに求めているものは何なのかを深く理解している場合とでは話がまったく違ってきます。そのためには決算書などを読み解くことが有効ですが、決算書そのものに対するとっつきにくさがある、というメンバーの言葉をきっかけに、この本を課題図書として追加した経緯があります。

 この本では、クイズに答えることで決算書の読み方を学べます。実例として身近に感じられる有名企業が取り上げられていますし、クリエイター出身のメンバーにとっても「読みやすい!」「面白かった!」と好評だった本の1つですね。

片山 まさに今、自分が提案しようとしている商品が、クライアントが力を入れている事業に関連しそうとなると提案内容も変わってきますよね。

最初から締めくくりに読もうと考えていた一冊

そして最後の10冊目は何だったのでしょうか。

松田 最後の1冊は『 ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる 』(ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著/土方奈美訳/日経BP)です。この本は読書会が始まったときから、最後に総仕上げとして読みたいと考えていました。最後になれば1冊読み通せる読書体力が付いているだろうという希望も込めて。

『ビジョナリー・カンパニーZERO』(ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著)。画像クリックでAmazonページへ
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 『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは成功企業の法則について書かれていますが、『ZERO』ではスタートアップが「偉大で永続的な企業になるために必要なこと」について説明されています。読んでみると「偉大な組織である条件」の中に、すでにカヤックで実践している要素があってうれしかったですね。例えば…「社員がクリエイティブになるために『そんなアイデアはくだらないとは絶対に言わない』」などはできていると思います。

片山 自分たちが目指す数字に到達するには、どういうチームデザインをしていくべきなのかというヒントになりました。「誰をバスに乗せたらゴールを達成できるか」を意識して、「この人なら事業に新しい風を吹かせてくれそうだ」という人と一緒に働きたいとより強く思うようになりました。

 カヤックのビジョンの1つに「何をするかより誰とするか」という言葉があるのですが、事業が最初にあるのではなく、組織が最初にあるという考え方とリンクする部分がありました。一見、個にフォーカスしているように見られがちなのですが、カヤックは組織ファーストな会社であると言えます。この本を読むことで、改めて、カヤックは変だけどすごい組織になる素養を持ち合わせているのだと思えてきました。

松田 そういう意味では、カヤックにはゼネラリストは合わないかもしれません。だからといって、「これしかできない」「これしかやらない」とプロフェッショナルという形にこだわりすぎる人もちょっと違う。もちろん本人に魅力的な能力やパーソナリティーがあることは前提ですが、そこに固執せず、悠々と、自分の姿や活躍できる場所を変えていける柔軟性と軽やかさがある人を採用したいと思うようになりました。

絶妙なバランスが必要だと。

松田 そうですね。ゼネラリスト的なバランスではなく、個と組織のリンク具合のバランスかもしれません。今回の読書会では、組織づくりから、今後の採用についての気づきが生まれるところまでできたこともよかったです。

片山 おそらく、自分一人だと本を読んでも「なるほど」で終わっていたでしょう。みんなで読むことで、本の知識を実際の課題解決に生かせるようになってよかったです。『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』など、自分では手に取らない本が読めたのも面白かったです。読書会をすることで、事業部運営のための教養を参加メンバーと共有し、運営の練度を上げていけると思っています。

 第2期の読書会は2025年6月から始まり、今度は私がファシリテーターを務めています。第2期も有意義なものにしていきたいです。

取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか

世界1000万部超ベストセラーシリーズ『ビジョナリー・カンパニー』の原点で最新刊!

『ビジョナリー・カンパニー』シリーズが発行される前の1992年にジム・コリンズが著し、日本語訳されずにいた名著『Beyond Entrepreneurship』の改訂版。まさに、ビジョナリー・カンパニーの原点だ。

ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著/土方奈美訳/日経BP