面白法人カヤックは神奈川県鎌倉市に本社を構え、スマートフォン向けのハイパーカジュアルゲーム(ハイカジ)をはじめとしたゲーム・エンタメ関連事業や、広告制作やイベント企画などを行う面白プロデュース事業を中心にビジネスを展開しています。カヤックでは昨年、面白プロデュース事業部で読書会を開催しました。前編の今回は、読書会の狙いや実施方法について、面白プロデュース事業部の松田壮さんと片山直也さんに聞きました。

まちづくりからうんこまで

日経BOOKプラス編集部(以下、──) まず、お二人の仕事内容について教えてください。

面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 事業部長 松田壮さん(以下、松田) 僕はもともとエンジニア出身で、アプリ開発などを手掛けていました。その後はディレクター、プロデューサーを経て、今は面白プロデュース事業部の事業部長をしています。面白プロデュース事業部は、古谷乳業さんの「ミルクの束縛ミルクコーヒー」、サントリー食品インターナショナルさんの「社長のおごり自販機」、うんこをテーマとした「うんこミュージアム」といった、広告やプロモーションの企画・制作を手掛ける事業部です。カヤックには他にゲーム事業部、本社がある鎌倉の地域コインなどを手掛けるちいき資本主義(まちづくり)事業部もあります。「まちづくりからうんこまで」幅広いビジネスを行っています。

パンチのあるキャッチフレーズです(笑)。

面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 プロデューサー 片山直也さん(以下、片山) 私はカヤックに新卒で入社し、プランナー、ディレクターを経て、2023年に企画部のプロデューサーになりました。

「うんこミュージアム」のアート作品の中に立つ松田壮さん(左)と片山直也さん
「うんこミュージアム」のアート作品の中に立つ松田壮さん(左)と片山直也さん
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グループ会社もたくさんありますが、本に関連するところでは2024年2月に英治出版を子会社化されていますね。

松田 我々は株式を取得していますが、英治出版のブランドを守りながら、一緒にシナジーを発揮したいと考えています。今後は「本を読むこと」をエンタメ化、コンテンツ化したいですね。カヤックでは文化としてブレスト(ブレインストーミング)を大切にしていて、年に2回、全社員が集まるブレスト合宿も実施しています。日常的にもブレストでアイデアを発散するのは得意なので、そこに英治出版の知見を掛け合わせて、ブレストで発散したアイデアを収束するところまでをワークショップにしたり、社外向けにも読書会などのプロダクトをつくっていったりしたいと個人的に考えています。

 ちなみに僕たちの名刺には「M&A(合併・買収)責任者」とありますが、実は社員全員に入っています。この肩書に変わる前は、「ぜんいん人事部」という社内制度によって社員全員の名刺に「人事部」と入っており、「一緒に働きたい人はそれぞれの社員が声をかけていこう」という元ネタがありました。その流れで、社員みなが、常にM&Aで一緒にシナジーを発揮できる会社を探していこうという取り組みの一環です。

読書会で取り上げた10冊の課題図書

面白い取り組みですね。では、社内で行われている読書会について教えてください。こちらは面白プロデュース事業部で行われているのですか。

松田 はい。僕が以前、ゲーム・エンタメ関連事業部の経営スキルを学ぶ勉強会に参加したことがありました。そこで読書会があり、本の選び方や読み方に刺激を受けたことが、今回の読書会を始めたきっかけです。

 僕は2023年1月に面白プロデュース事業部の事業部長になりました。1年ぐらい試行錯誤しながら事業部運営をしていると「ぶちあたる壁」が分かってきて、その解決のために読書会を始めたいと思ったんです。そこで、僕がファシリテーターとなって2024年2~12月の間に読書会を13回行い、計10冊の本を読みました。本を「読みっぱなし」にしないため、途中で振り返りの回を入れました。

読書会で取り上げた本一覧
順番 書名 著者 出版社
1 社員の力で最高のチームをつくる <新版>1分間エンパワーメント ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ ダイヤモンド社
2 任せるコツ 山本渉 すばる舎
3 まず、ちゃんと聴く。 櫻井将 日本能率協会マネジメントセンター
4 イシューからはじめよ[改訂版] 安宅和人 英治出版
5 コンセプトの教科書 細田高広 ダイヤモンド社
6 言葉でアイデアをつくる。 仁藤安久 ダイヤモンド社
7 採用基準 伊賀泰代 ダイヤモンド社
8 非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術 齋藤太郎 東洋経済新報社
9 会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方 大手町のランダムウォーカー KADOKAWA
10 ビジョナリー・カンパニーZERO ジム・コリンズ、ビル・ラジアー 日経BP

片山 ちょうど私も2023年1月にプロデューサーになり、メンバーを率いる立場として、うまくいかないことや、自分の仕事量の多さに壁を感じていた頃でした。

松田 基本的にカヤックのプロデューサーは7~10人ぐらいのチームリーダーを兼任します。僕が事業部全体のリーダーとして課題を抱えているように、新しくプロデューサーになった人たちも同じような課題が出てくるだろうと。そのときに、普通に先輩としてアドバイスするだけではなく、一緒に本を読むことで共通の課題を克服できるのではないかと考えました。

松田壮さん
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松田壮(まつだ・そう)
面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 事業部長 M&A責任者
大手建設会社を経て、2011年に面白法人カヤックに入社。エンジニアとして新規事業開発チーム、自社サービスに関わった後、クライアントワーク事業部(現・面白プロデュース事業部)でエンジニアリーダー、ディレクター、プロデューサーと役割を渡り歩き、現職。ビジネスでも結果を出せる「変な会社」としてカヤックをアップデートし続けるため、若きリーダーたちと組織づくりに奮闘中。

自分の言葉で説明するよりも、本という共通のツールがあったほうがいいということですね。読書会には何人ぐらい参加したのですか。

松田 基本的に対面で、各回4~5人ぐらいですね。

片山 早いときは朝8時スタートの回もあったので、遅刻しないように、と緊張感がありました(笑)。

上司と部下の認識のズレを正す本

松田 会社がある鎌倉近辺に住むと住宅補助が出るので、近くに住んでいる社員が多いんですけどね。読書会の1冊目に読んだのが『 社員の力で最高のチームをつくる <新版>1分間エンパワーメント 』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著/星野佳路監訳/御立英史訳/ダイヤモンド社)でした。こちらは星野リゾート代表の星野佳路(ほしのよしはる)さんが教科書にしたという1冊です。

『社員の力で最高のチームをつくる <新版>1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著)。画像クリックでAmazonページへ
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 僕たちにとってはリーダー・マネージャーが最初に悩む壁、人材育成のヒントになりました。カヤックは多様な個性や自主性を大切にする会社なので、実は一律的な人材育成をバリバリやる会社ではありません。マネジメント層としては「どう人材を育成するか」が悩みどころで、何もしないと「何にも教えてくれない」と言われるし、過剰に手をかけると自主性が育ちません。少人数のチームとはいえ、リーダーになると「自律的に課題を見つけ、動ける組織にするにはどうしたらいいか」が最初にぶち当たる壁なんです。そこでこの本を最初に取り上げ、参加者で課題と感想を話し合いました。

片山 少人数での読書会だったので、「その部分、自分も気になりました」「そういう考え方もあるんですね」と、議論を深められてよかったです。もし、読書会の人数がもっと多かったら、単なる感想のシェアだけで終わっていたかもしれません。

こちらの本を最初に選んだ理由はなんですか。

松田 この本の冒頭で、星野リゾートの星野代表が「教科書」として扱う本という紹介をしているんです。教科書なので、書かれている内容を一言一句、そのまま実行すること。うまくいかなくても試行錯誤して粘り強く徹底的にやること、ノウハウのつまみ食いはダメ、と釘を刺されているのです(笑)。

 星野代表が「教科書」と言い切るくらいなので、中身には本当に衝撃を受けました。「どう組織をデザインしていくか」が初めて腑(ふ)に落ちた本です。「これからの事業部の人材育成は、この本の通りに進めていきます」とリーダーをはじめ全体に話しました。事業部全体に組織のデザイン方針のネタバレをするところから始めたのです。

片山 例として「小売業のマネージャーがアシスタントにやってほしいこと」と「アシスタントが考えていること」のズレについて書かれているのですが、現場の人間が「売り上げの数字を1円たりとも間違わないように細かく管理する」のが大事だと思っていたとすると、マネージャーは「いやいや、もっと利益を上げるような構造をつくってほしい」と思いますよね。そうした役割や視座のズレがあると認識できれば、お互いの期待にそえるよう、自律的に動いていける組織になるのではないかと。「まずこのズレを解消しないと、カヤックが目指す自律的な組織はできないよね」と納得しました。

 そして読書会の後、リーダーとメンバー間で認識している役割がどれくらい違うのかを把握するために、「自分の思っている10の役割」についてアンケートを行い、リーダーにはメンバー全員と1on1を実施してもらいました。

片山直也さん
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片山直也(かたやま・なおや)
面白法人カヤック 面白プロデュース事業部 プロデューサー M&A責任者
1992年、大阪府生まれ。学生時代にライターとして書いた記事が話題になり、2018年、エゴサーチ採用によってディレクターとして面白法人カヤックに入社。22年からプロデューサーに。クライアントワークを中心に、ビジョンやゴールを達成するために、与件や手段にとらわれないクリエイティブプロデュースを心がける。カヤックの好きなところは、昨日遅刻してきた人が、今日遅刻してきた人を叱れるところ。

松田 リーダーである自分も、ついこの前まで現場にいたのに、いざ自分がリードする立場になると現場の気持ちを忘れてしまうんですよね。カヤックでは自主性と個人の意見を尊重するので、いわゆる「指示」的なことがほとんどなくて。良い反面、メンバーへの伝え方もあいまいになり、「抽象度の高い伝え方をして、それを上回る結果を出した人が仕事のできる人」といった雰囲気があったのですが、そういう考え方もアップデートしていかなくてはいけないと分かりました。

読書会は参加者が事前に本を読み、当日に感想をシェアするのですか。

松田 はい。事前準備は課題図書を読むだけです。いろいろと事前に提出したり、書き込んだりすると参加するハードルが高くなるので。読書会では「本を読んで一番印象に残ったこと」を15分間ぐらい話し合い、それを「自分たちのチームや課題に対してどう生かせるか」まで深めて議論します。読書会ではどんな感想を言ってもかまいません。「意識高い系の捉え方」をしてもちゃかしませんし、心理的安全性は保たれていますね。

 前出したアンケートや1on1の実施につなげるなどの取り組みは、本で得た内容を実際の事業部やプロジェクトの課題に対して実践していける部分がないか、という議論の延長にあるものでした。

本の知識を実践するところにまで落とし込んでいるのですね。次回は読書会で読んだ2冊目以降について聞かせてください。

取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか