会計や人事労務などのサービスをクラウドで提供するfreee(フリー)。同社で人材育成や採用を担当する執行役員の笠井康多さんは、自社の社員が、成長スピードが速くたくましい「たけのこ人材」になってほしいと言います。そのために役立つ本を笠井さんに聞きました。前編では、『入社1年目の教科書』『7つの習慣』の2冊を紹介します。
たけのこのような人材になってほしい
私は2008年に新卒で住友商事に入社し、2016年にボストン コンサルティング グループ(BCG)、2020年にfreeeへと転職しました。現在は新卒・中途の採用、人事企画、労務、総務、HRBP(HR Business Partner)などの業務を担当する執行役員として働いています。
freeeというとクラウド会計ソフトの会社というイメージが強いかもしれませんが、現在は多種多様なサービスを展開しています。クラウドで経理業務や税務申告などを行う「会計」、給与計算や労務管理などを行う「人事労務」、売上・損益や入出金状況などを管理する「販売」が事業の大きな柱となっています。
フリー 執行役員VP of HR 人事基盤本部長
我々の顧客は個人事業主から中小企業の方々が対象です。今、日本には約660万の中小企業や個人事業主が存在し、そのうちfreee会計を使ってくださっている事業所数は10%ほど。まだまだ市場の白地を塗っていく必要があるため、freeeではチャレンジ精神にあふれた人材を求めています。
それと同時に、今いる社員が成長しないことには会社としての成長も止まってしまいます。できれば、社員には「たけのこ人材」になってほしい。雨後のたけのこって、成長スピードが速く、ちょっと見ない間にものすごく伸びますよね。タフな状況でもへこたれず、まっすぐ伸びるたけのこ人材が育ってほしいと願っています。
そのような社員の成長を促すために、読書は非常に効果的です。2016年から書籍購入制度(書籍費フリー)が始まり、月に3冊まで仕事に必要な本を買うことができ、読み終わった本は社内の「ツバメ図書館」に収められます。2025年7月時点で、ツバメ図書館の蔵書は8000冊を超えています。
王道のビジネス書から学ぶと成長が早い
と言いつつ、私自身は高校生までは部活動に打ち込み、ほとんど読書をしていませんでした。でも、大学で勉強に目覚め、周囲の友人たちが読書家だったため、本を読むように。今では月に10冊ほど読み、書店や図書館にもよく行きます。書店と図書館では棚に並んでいる本が違い、そこでの偶然の出合いも変わってきます。
後編で説明しますが、本が転職のきっかけになったこともありました。社会人になってからは「自分が成長したければ、本を読むしかない」と考えています。
現在は社内で読書会をしたり、メンバーに本を薦めたりしています。今回はその中から2冊を紹介します。
まず、1冊目は『 入社1年目の教科書 』(岩瀬大輔著/ダイヤモンド社)です。この本には、学生から社会人になったときに求められる、基本的な所作や立ち居振る舞いがすべて書かれています。著者の岩瀬大輔さんは、東京大学法学部在学中に司法試験に合格、BCGを経て、ライフネット生命保険の設立に関わった優秀な方です。BCGでコンサルティングファームのやり方をたたき込まれただけあり、王道の知識やノウハウが正しく詰まっている1冊です。もう、この本を読んでおけば「社会人としてのスタート間違いなし」です。
私が若手の頃には、「ノウハウ本なんて意味がない」「ハウツー本ばっかり読んでも仕方がない」と言う人もいたのですが、私はノウハウほど世の中に蓄積しているものはないと思っています。したがって、本を読めば分かることを、自分が実体験して蓄積していくのは時間の無駄ではないかと感じることもあります。それなら社会人の早い段階で優れたノウハウ本を読んで仕事の効率を上げ、余った時間でオリジナリティーや価値を出したほうがいい。そんな思いから、若手社員にはこの本を薦めています。
ちなみにこの本が出たのは2011年なので、今ほど働き方改革が進んでいない時代です。今読むとパワハラのように思える部分もありますが、「深夜まで働け」ということではなく、「それぐらい仕事を頑張ることが大事だ」と本質的なエッセンスを読み取っていければいいと思います。
私もこの取材を受けるにあたって読み返したところ、岩瀬さんが韓国の財務大臣を歴任したイル・サコンさんと話したときのエピソードに感銘を受けました。イルさんは70代になっても「Always be a student」と言い、毎日数時間かけてさまざまな情報を精読していたそうです。
私も社内でよく言うのですが、社会人生活はものすごく長いですよね。毎日どうやって過ごしていくかで、将来大きな差が生まれます。そのためにもAlways be a student、常に学び続けることが大事です。
習慣がすべてをつくる
『 7つの習慣 成功には原則があった! 』(スティーブン・R・コヴィー著/ジェームス・スキナー、川西茂訳/キングベアー出版。リンクは「30周年記念版」)は、私が20代半ばで読み、社会人としての指針となった1冊です。やはり社会人は毎日どう過ごしていくかが大事で、忙しい毎日の中で30分でも勉強し続けて積み上げていった人生と、何もしなかった人生とでは見える景色が違います。習慣がすべてをつくると言っても過言ではなく、この本には社会人としてより良く生きていくための習慣が書かれています。
20代の頃はこの本の「第1の習慣 主体的である」「第2の習慣 終わりを思い描くことから始める」「第3の習慣 最優先事項を優先する」「第7の習慣 刃を研ぐ」といった部分を読み、主体的に働くことや自己研鑽(けんさん)の必要性を感じていました。
本の中では「金の卵を生むガチョウ」の話が出てきます。ガチョウは毎日1つ金の卵を生むのに、飼い主の農民は最後には待ちきれなくなり、一度にたくさんの金の卵を得ようと、ガチョウを殺して腹を割く。しかし、腹の中は空っぽで、しかもそれ以降は金の卵は手に入らなくなってしまった──という話なのですが、金の卵はパフォーマンス、ガチョウはケイパビリティー(能力)と考えられます。パフォーマンスを上げるためには、ケイパビリティーを常に磨く必要があると教えられました。
「第4の習慣 Win-Winを考える」「第5の習慣 まず理解に徹し、そして理解される」は、20代ではちょっと早いかなと。まだ自分の仕事もできないのに「Win-Win」と言っても誰も聞いてくれないので。でも、マネジメント層になったときには役立つ習慣ですね。
今も折に触れて読み返すのですが、頭では分かっていても、なかなかこの本の通りには行動できていません。「やっぱり、こうあるべきだな」と思い返させてくれる良書。羅針盤として、いつもそばに置いておきたい1冊です。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美




