会計や人事労務などのサービスをクラウドで提供するfreee(フリー)。同社で人材育成や採用を担当する執行役員の笠井康多さんに、部下や後輩にお薦めしたい本を聞きました。後編では7冊を紹介。「仕事ができる」とはどういうことかを学んだという『仕事の技法』や、城山三郎さんの経済小説『男子の本懐』『官僚たちの夏』などを取り上げます。

「仕事ができる」とはどういうことか

 前回は若手の成長スピードを速める2冊を紹介しました。今回は私が感銘を受け、若手にも薦めたい7冊を紹介します。

 『 仕事の技法 』(田坂広志著/講談社現代新書)は、「仕事ができるとはどういうことか」を明確に言語化した本で、みんなにも読んでもらいたいと思い、社内の読書会で取り上げました。

『仕事の技法』(田坂広志著)。画像クリックでAmazonページへ
『仕事の技法』(田坂広志著)。画像クリックでAmazonページへ

 改めて考えると「仕事ができる」とは、どういうことでしょうか。この本には次のような象徴的なエピソードが紹介されています。AさんとBさんが上司から急ぎの仕事を頼まれました。すると、Bさんは上司に中間報告をすることは一切なく、締め切りまでに仕事を仕上げます。

 一方、Aさんは途中で「今はこんな状況です」、締め切り直前には「これから最後の確認をするので締め切りに間に合います」と、その都度コミュニケーションを取って仕上げます。2人とも締め切りは守っていますが、果たしてどちらが「仕事ができる」と評価されるのか? 答えはAさんです。

 「どうして? Bさんのやり方でいいんじゃない?」と言う人もいると思いますが、なぜそれが良くないのか、言語化するのはなかなか難しい。でも、この本を読むと、働くとは「傍(はた)」を「楽(らく)」にすることだと分かります。つまり、ちゃんと報告することで上司の心理的負担を軽くしていたAさんのほうが仕事ができるということです。

笠井康多
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笠井康多(かさい・こうた)
フリー 執行役員VP of HR 人事基盤本部長
1984年生まれ。千葉県出身。住友商事、BCGを経て2020年にフリーに入社。入社後は経営企画室長としてビジョン策定、中長期戦略や出社方針の策定などを主導。2022年より組織基盤部長として全社人材戦略の策定主導や継続的な事業成長に向けた取り組みを行う。その後、中途採用部長兼務や人事基盤部長を経て2025年7月より現職。

 freeeはキャリア採用の人材が多く、「良い仕事とは?」「仕事ができる人とは?」という基準が前職の会社によって異なります。読書会でこの本を取り上げ、「freeeが求める良い仕事とはこういうことだよ」と本を通じて言えたのは助かりました。

 実は私も商社に勤務していた30歳ぐらいのとき、当時の上司に勧められてこの本を読みました。自分では入社から6年ぐらいたち、仕事ができているつもりでした。でも、上司からしたら、まだまだ足りない部分があったんでしょう。心に刺さる部分が多く、私にとっても仕事の進め方が変わった本です。

仕事のモチベーションを上げる3冊

 続く3冊は、『 男子の本懐 』(城山三郎著/新潮文庫)、『 官僚たちの夏 』(同)、『 志高く 孫正義正伝 完全版 』(井上篤夫著/実業之日本社。リンクは実業之日本社文庫の「決定版」)で、私が仕事のモチベーションを上げるために役立った本です。

城山三郎さんの『男子の本懐』『官僚たちの夏』(いずれも新潮文庫)。画像クリックで『男子の本懐』のAmazonページへ
城山三郎さんの『男子の本懐』『官僚たちの夏』(いずれも新潮文庫)。画像クリックで『男子の本懐』のAmazonページへ

 城山三郎さんの『男子の本懐』は1930年(昭和5年)の金解禁を敢行した浜口雄幸と井上準之助、『官僚たちの夏』は敗戦後の通商産業省(現・経済産業省)を取り上げた小説で、どちらも「自分の仕事のミッションに対して、真摯に取り組む」ことがテーマになっています。

 実は私自身は、前職で商社やコンサルティングファームにいたときは、「会社のミッションに向かって頑張る」ということがよく分かりませんでした。「ビジネスで利益を出していれば、いいじゃないか」という考え方だったのです。でも、この2冊を読んだときに、「仕事のミッションに対して頑張るのは、すごくかっこいいことなんだ」と腑(ふ)に落ちました。「いずれそういう仕事がしたい」と思い続け、freeeのミッションに共感し、転職するきっかけにもなりました。

 『男子の本懐』の浜口雄幸は「自分は平凡な人間である」と言っていたそうです。そして、「凡人である自分が平凡なことをしていては、平凡以下のことしかできない」と。

 私がこの本を読んだのは20代で、新卒で商社の経理部に配属された頃でした。経理の仕事は会計基準や税法、国際会計など勉強しなくてはいけないことが多く、余暇はすべて勉強にあてていました。

 同僚はアクティブに休日を過ごしているのに、自分は今しか楽しめない時間を犠牲にしているのでは…と迷う気持ちもありましたが、浜口雄幸の言葉を目にして、「自分はもっと平凡なんだから、勉強するのは当然の努力だな」と思えました。結果、米国公認会計士の資格を取得し、それが仕事にも大いにプラスになりました。もし、この本を読んでいなかったら、リア充を求めて遊びほうけていたかもしれません(笑)。

 『志高く 孫正義正伝 完全版』も刺激を受けた本です。孫さんはこの本の中で「火が出るほど勉強した」とおっしゃっていて、それだけ勉強して、リスクを取って、行動していくからこそ、世の中を変えられるんだと納得しました。

『志高く 孫正義正伝 完全版』(井上篤夫著)。画像クリックで実業之日本社文庫「決定版」のAmazonページへ
『志高く 孫正義正伝 完全版』(井上篤夫著)。画像クリックで実業之日本社文庫「決定版」のAmazonページへ

 誰しも長く働いていると、仕事のモチベーションが下がるときがあります。そんなとき、いかに自分の心に薪(まき)をくべて、燃やし続けていくか。この3冊は私の心の燃料であり、たるんできたときに気持ちを立て直す「自主練」的な本です。

コンサルに転職するきっかけになった本

 次は、三枝匡さんの企業再建シリーズ、『 決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか? 』『 決定版 戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く 』(いずれもKADOKAWA)『経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ』(日経ビジネス人文庫)です。

三枝匡さんの『決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか?』『決定版 戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く』。画像クリックで『決定版 V字回復の経営』のAmazonページへ
三枝匡さんの『決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか?』『決定版 戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く』。画像クリックで『決定版 V字回復の経営』のAmazonページへ

 このシリーズは、「経営とは何か」をすごく面白く、ビビッドにイメージさせてくれました。実話を元にしているだけあり、企業に入って、経営危機にある組織を変えていくことの難しさや人間ドラマは読み応えがあります。著者の三枝さんは優秀なコンサルタントでもあり、私も「いつかコンサルで働いてみたい」と感じて、転職するきっかけになりました。

 前回、今回で私が紹介した本は最新のビジネス書ではなく、ビジネスの「古典」と言われるものかもしれません。でも、時代が移り変わってもビジネスの本質的な部分は揺らぐことはなく、役に立つはずです。

 若手には、「忙しいから本が読めない、勉強ができない」のではなく、「本を読んでいない、勉強をしていないから時間がなくなるんだよ」と言っています。本を読めば、仕事ができる方法を学べますから。

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美