三菱総合研究所(三菱総研、MRI)はグループ企業とともに、シンクタンク・コンサルティングサービスとITサービスをワンストップで提供する大手です。同社では2016年から「MRI読書会」を継続的に開催しているといいます。読書会の運営に携わってきた同社ビジネスコンサルティング本部の山越理央さん、金融BAコンサルティング本部の山田晋弘さんに話を聞きました。前編は、MRI読書会が始まった経緯や運営方法について。
知的好奇心を高め合う
日経BOOKプラス編集部(以下、──) まずはお2人の現在の仕事内容について教えてください。
三菱総合研究所 ビジネスコンサルティング本部 山越理央さん(以下、山越) 三菱総合研究所は、社会課題の解決と価値創出を使命とする総合シンクタンク・コンサルティングファームです。官公庁向けの政策立案支援や民間企業向けの経営コンサルティングに加え、ICTソリューションを提供するITサービス事業、自社の研究開発や社会実装にも取り組んでいます。
その中で、私が所属するビジネスコンサルティング本部では、主に民間企業向けの経営コンサルティングを担っています。具体的には、経営ビジョンや中期経営計画の策定および実行支援、新規事業の開発や組織・人事戦略などの支援をしています。
また、私個人としては、民間企業の経営を支援する一方で、組織横断型チームであるDESIGN×CREATIVE TEAMのリーダーとして、経済産業省や特許庁のデザインやアート、クリエイティブの領域の政策立案や実行支援にも取り組んでいます。後編で詳しく紹介する『 パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える 』(名和高司著/東洋経済新報社)の内容にも通じるのですが、現在は2018年に経済産業省・特許庁から発信された「デザイン経営」という経営コンセプトのアップデートや新たな実践プログラムの開発などに取り組んでいます。
三菱総合研究所 ビジネスコンサルティング本部 経営戦略コンサルティンググループ 特命リーダー 兼 DESIGN×CREATIVE TEAM リーダー
三菱総合研究所 金融BAコンサルティング本部 山田晋弘さん(以下、山田) 私は前職が銀行員で、三菱総合研究所に入社してからは金融機関向けにシステム開発の支援をしてきました。今はその支援の幅を広げ、官公庁向けにシステム開発の支援をしています。コンサルティングとプロジェクト管理の両方を担当しています。
読書会はどのような経緯で始まったのですか。
山越 私が転職してきた10年ほど前、三菱総研では中途の社員が非常に少なかったんです。当時の本部長がどうすれば中途の社員がプロパーの社員となじめるかを考えてくれました。
私が個人的に読書会を開催していたことや、本が好きであることから、「三菱総研の人間は知というものに関心があり、知的好奇心が高い。ただ、みんな忙しく、部署を超えて知的好奇心をさらに高め合うような取り組みができていない。異なる専門性を持っている人間が同じテーマで話せば、いろんな論点が広がるのではないか。知をつなぐ読書会を開いてみたら?」と。それで半ば強制的ではあったのですが(笑)、まずは本部内の100名程度に呼びかけた読書会を2016年に開きました。
実際の参加者はどれぐらいだったのですか。
山越 初回は若手からシニアまで20名程度が参加してくれました。社内を見渡すと、何かしらの本を机に置いて仕事をしている本好きが多いので、本の中身について他の人と話し合える場をつくれてよかったですね。その後は月に1回、今は2カ月に一度、年に6回ぐらいのペースで読書会を開いています。
山田 読書会は、社内活動である「知的倶楽部」の一つ、「MRI読書会運営倶楽部」が運営しています。準備、企画、読書会の時間は勤務表に計上できるんです。
三菱総合研究所 金融BAコンサルティング本部 ビジネスアナリティクス・ITコンサルティンググループ
それは続けやすいですね。他社では早朝やランチタイム、終業後の実施というところもあります。
山越 三菱総研には「FC(Future Co-creation。未来共創活動)時間」というものがあり、知的倶楽部活動や長期未来予測、技術研究、社会モデル研究などの研究開発(自主参加の場合)、学会活動などに要した時間を勤務表に計上できます。1人当たり年間2000時間の5%=100時間を「未来共創時間」として提供されており、人と組織の持続的成長に役立つ活動に積極的に活用することを推奨されています。自分という価値をさらに高め、知を豊かにするための大切な時間ですね。
MRI読書会では、本を読んで意見交換するだけではなく、著者を招いた講義も行っています。これまでに『美徳の経営』(NTT出版)の共著者である紺野登先生などにお越しいただきました。社内にも本を書いている人が多いので、社内の著者を呼ぶこともあります。
自分が興味のある本を持ち寄る
山越 私は4年間ほどMRI読書会の幹事を務めました。ただ、正直なところ『パーパス経営』のような分厚い本を月に1冊のペースで読むのは大変で(笑)、また、メンバーが固定されてきたようにも感じ、「これから会社を担う若手に任せたほうがいいのでは」とバトンタッチしました。
選ぶ本も、どうしてもビジネス書に偏りがちでしたが、今はさまざまな学際的な領域を取り扱うようになっています。
山田 受け取ったバトンを育てています。
山越さんが育てた芽を山田さんが大きくしていると。現在のMRI読書会は何名ぐらいが参加していますか。
山田 リアルとオンラインの併用で、だいたい20名程度です。4~5名のグループに分かれて、課題図書について感じたことを話し合います。各グループで話した内容は議事録にまとめ、他のグループでどんな意見が出たかも確認できるようにしています。
MRI読書会運営倶楽部の活動は、社内向けに書籍を共有する「企画」と、メンバー同士で情報交換・議論する「読書会」に分かれており、「企画」は「読書会」に所属していない人も参加できます。「読書会」では、メンバーが半年に1回ぐらい自分が興味のある本を持ち寄り、倶楽部内で共有します。メンバーはそれぞれ専門領域も興味関心も違うので、持ってきてくれる本も学術書から小説まで、幅広いですね。その後、持ち寄った本の内容を簡単に説明し、参加者全員で意見交換します。倶楽部内で評判が良ければ、それを「企画」にして社内で共有することもあります。
他の人が専門領域として扱っている内容についての説明・意見を聞くことで、本への理解を深められるんですね。そうすると、自分の専門領域ではなく、一読しただけではピンとこなかったことでも体系的に頭に入ってくるので、能動的にその分野を調べるきっかけになり、仕事の付加価値向上や新たな可能性を広げるのにも生かせると期待しているところです。
MRI読書会運営倶楽部としては、なるべく多くいい本を取り上げたいので、特に形式を定めたり期限を設けたりすることはせず、社内チャットで「読んで気になった本」を気軽に共有しています。
参加者はコンサルタントが多いのですか。
山田 いえ、コンサルタント、シンクタンク、コーポレートと職種はさまざまです。学生時代に社会学を専攻していた人、ドイツ語に堪能でドイツ語の原著を紹介してくれる人などもいます。もちろん、私たちに説明してくれるときは日本語で説明してくれますが。
山越 コーポレート部門も勉強熱心な人が多く、法務部門で弁護士資格を持っている人、経理部門で一橋大学のMBA(経営学修士)に通っている人など個性豊かですね。そうした人と部署を超えて出会えるのも読書会の醍醐味です。みんないい意味で「オタク」で、その知識を披露できる場としても貴重なのではないかと。
山田 みなさん、本当に好きなことについて話し出すと止まりません。1対1だとみなさん夢中になるので聞くのは大変ですが(笑)、読書会という限られた時間の場の中だと、ポイントを押さえて説明してくれて、参加者同士の意見交換もできるので、幅広い分野の知識をそれぞれの魅力も含めて共有できます。
みなさんお忙しいと思いますが、「企画」や「読書会」のときにはちゃんと本を読んでくるのですか。
山田 はい。オタクにとって「本は別腹」みたいで、読むのが苦にならないみたいです。
なるほど。MRI読書会の進め方が分かりました。次回はMRI読書会で取り上げた本について教えてください。
(後編に続く)
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美


