人生100年時代と言われる今、安心して退職後の人生を過ごすために、手持ちの資産をどのように活用すべきでしょうか? 退職後は運用のポートフォリオの組み方を見直す必要があると野尻哲史さんは言います。野尻さんの著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法 60代からの“まさか”に備え、資産寿命を伸ばす知恵』(日本経済新聞出版)より抜粋・再構成します。

リスクを下げるための3つの視点

 最近セミナーなどで、「退職後、運用のポートフォリオはどうしたらいいでしょうか」と聞かれるようになりました。資産活用期のポートフォリオが資産形成期のものとは違うべきだ、ということを知っている人が増えていることはうれしいところです(「資産活用」と「資産形成」の違いについては「 寿命は予測できない だから資産計画は『100歳まで』立てておく 」を参照のこと)。

 その質問に対して私は、「退職後の資産のポートフォリオではリスクの低さが重要です」と答えるようにしています。

 これを考える際には、3つの視点が必要となります。

 1つ目はどうやってリスクを下げるのか。すなわち現役時代に資産形成をしてきたのですからある程度リスク性資産を保有しているはずです。そのリスクをどうやって低下させればいいのか、という視点です。

 2つ目はどこまでリスクを下げるべきか。リスクを下げるといっても「あるべきポートフォリオの姿」があるはずです。その目標値を考える必要があります。

 3つ目は、資産活用期は、加齢に伴ってそのリスク水準を変化させるべきか。「使うだけの時代」に向けてどうやって引き出しをしながら、リスクの水準をコントロールするべきかを考える必要があります。

リターンよりもリスク重視の考え方に

 まずはリスクをどうやって低下させるかを考えます。

 資産形成期では、積立投資を20年、30年、40年と長期で行うことからリスクを抑制しやすいために、リターンをより優先することが可能になります。そのため海外株式や国内株式を組み入れることが多くなると思います。私も資産形成期の有価証券部分は、すべて株式投資信託でした。

 しかし資産活用期になると、給与からの積立投資が難しくなるだけでなく、運用期間が徐々に短くなっていきます。

 65歳以降の運用は、確かに10年を超えることはあり得ますが、先に書いた「 寿命は予測できない だから資産計画は『100歳まで』立てておく 」で説明した「80歳まで運用する」を原則にすると、20年を超えることはないということになります。

 しかも年々、運用期間が短くなるので、長期運用のリスク軽減効果は弱くなる可能性が高まります。

退職後の資産のポートフォリオではリスクの低さがカギになる(写真:tadamichi/stock.adobe.com)
退職後の資産のポートフォリオではリスクの低さがカギになる(写真:tadamichi/stock.adobe.com)
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債券投資やバランス型投信を活用する

 一般に金融資産クラスごとのリスク(=収益率のばらつきの大きさ)は、高い順に海外株式、国内株式、海外債券、国内債券、預金といわれます。

 このリスクの高さに合わせてリターンも高くなるのが一般的です。

 そこで、現役時代に株式や株式投資信託で資産形成を行ってきて、退職後にリスクを下げるために、債券のウエイトを高めるといった方法を考えるのは大切な発想です。

 例えば、保有している株式投資信託2000万円のうち、500万円分を個人向け国債に乗り換える、というのも一案でしょう。

 このところ金利が上昇してきて、2025年8月の募集分では表面利率で個人向け国債も変動金利型10年満期で0.97%、固定金利型5年満期も0.97%、固定金利型3年満期で0.79%が提示されています。この満期を引き出すタイミングと一致するように、すなわち満期まで保有することを前提に投資するという方法です。

 ただ債券となると、今のところNISA(少額投資非課税制度)での保有ができませんから、非課税投資というわけにはいかない点は注意して欲しいところです。

 このほかにもポートフォリオのなかに債券型の投資信託を組み入れるとか、債券を多く組み入れた投資信託を増やすといった方法もあります。

 ただ、あまり分散投資を意識して、多くの資産クラス(=多くの投資信託=多くの金融商品)をポートフォリオに入れるのは、加齢に伴って徐々に取り崩す時期に入っていくことを考えると、得策ではない場合が出てきます。

 取り崩しの際に、「どの投資信託、どの金融商品から売却すればいいのか迷う」といったことはよく聞かれる指摘です。

 それを避けるためにバランス型投資信託も検討対象になります。正直なところ私は現役時代にはほとんど見向きもしませんでしたが、退職後にリスクを軽減する方法として、多様な資産クラスに投資をするバランス型投資信託を活用する余地は多くなると思います。例えば海外株式に投資する株式投資信託から株式や債券など多くの資産クラスに分散する投資信託に乗り換えるわけです。

 その結果、少ない数の投資信託に集約できれば、その投資信託を部分売却することは相対的に簡単になります。

退職をきっかけに手持ちの株式や投資信託の見直しを図ってみる(写真:DESIGN ARTS/stock.adobe.com)
退職をきっかけに手持ちの株式や投資信託の見直しを図ってみる(写真:DESIGN ARTS/stock.adobe.com)
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「投資対象を変えない」ことも選択肢

 実は、私がやっているのは前述した債券をポートフォリオに組み入れたり、バランス型投信に乗り換えたりといった方法とは違って、「何も投資対象を変えない」という方法です。

 変えるのは「金融資産全体に対する有価証券の比率だけ」です。

 つまり、リスク性資産である有価証券の比率を下げて、現金の比率を高めるという方法です。

 有価証券のなかにおけるアロケーション(資産配分)を考えるよりも、資産全体に対する有価証券の比率で調整する方が、現実的だと考えるからです。

 もちろん、新たに投資商品を選ぶとなるとなかなか面倒なことも多いですから、これまで長く付き合ってきた投資信託をできるだけそのまま保有した方がいいという考え方でもあります。

 この方法のメリットは、売買の手間とコストがそれほどかからないことです。

 ただ保有する金融資産が多い場合には、リスク性資産比率を引き下げるといっても限界があり、その場合、この方法はあまりお勧めできません。やはり運用資産そのもののリスクを下げる方法を考えるべきでしょう。

 ちなみに、運用商品のリスクを低減させるのではなく、リスク性資産比率を低減させる方法は、後述する加齢に伴ってリスク性資産比率を引き下げるアイデアにも通じる方法です。

 なお私の場合、一般NISAでの投資をしてきましたから、新NISAに資産を移す際に一度、現金化をしなければなりませんでした。新NISAでは、この10年くらいで新しく設定された投資信託に一部乗り換えを行いましたが、それでも投資方針である「日本株、アジア株、欧州株、米国株にそれぞれ投資する」という方針は変えてはいません。

 またそれ以外の課税口座で保有している投資信託に関しても、原則そのままで変更していません(もちろんいろいろ考えるのが嫌だからという、あまり評価できない「現状維持バイアス」が強く出ている可能性もあります)。

 個別の投資信託を乗り換えない代わりに、全金融資産に対するこれら有価証券の比率は常に確認するようにしています。

「退職後はポートフォリオをどう変えればいいのか?」「相場急落時の上手な引き出し方は?」「インフレ期に資産をどう取り崩すか?」「もしも認知症になったら?」…身近な10の質問に答えながら、60代からのお金の賢い取り崩し方について具体的な考え方を紹介します。

野尻哲史著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)