働く女性に支持され続けている『日経ウーマン』で、27年も続く連載「妹たちへ」。キャリアに迷い、人生これでいいのかと悩む女性たちから圧倒的な支持を得てきました。その名物連載が、15年ぶりに単行本『一歩が踏み出せなかった私へ』として登場。雑誌掲載当時の語りを1冊にまとめた、20人の“姉”からのエール集です。(本連載は、書籍『一歩が踏み出せなかった私へ』に収録されている日経ウーマンの記事から一部を抜粋してお届けします)
つらいことを経験して、人は強くなる
46歳から3年半所属した事務所との契約が終わり、私は自分の事務所ですべてを担っていくことにしました。そうすると、仕事にかかわる全責任が私にのしかかってきます。スタッフをたくさん抱えていたので、仕事が減ってしまっては大変です。すでにヘアメイクの現場からは退いていましたが、タレント活動をはじめ、化粧品のプロデュース、トークショー、書籍の執筆など、幅広い仕事に精力的に取り組みました。
そこで役立ったのが、辣腕経営者の事務所でハードな仕事をこなしてきた経験。ビジネスの世界の厳しさを教わったことで、難しい局面に対応できる力が身に付いたようです。壁にぶち当たっても、「ここが踏ん張りどころ!」と自分を鼓舞し、必死に頑張ることができました。改めて、どんな経験にも無駄はなく、すべてに意味があると感じる日々でした。
そんな中、私を落ち込ませたのは、長年頼りにしてきたスタッフが次々と去っていったことです。親元に戻る事情ができたり、体調を崩したり、独立していく人などが出てきて、大きな喪失感を味わいました。しかし冷静に考えてみると、年を取るにつれ、それぞれの状況が変わるのは当たり前。ましてや、これから年を重ねていくほど、身近な人が亡くなったり遠くへ引っ越して行ったり、つらい別れが増えていくに違いありません。だから私にとって50代の10年間は、喪失感に慣れていくための訓練期間だったと思います。
人はつらいことを何度も経験し、乗り越えていくうちにへこたれない精神力が培われ、心が強くなっていくようです。私の経験からいうと、その出来事を振り返り、なぜ自分が傷つき悲しい思いをしたのか省みることが肝心。ただ単に、明るくポジティブに考えようとして、「嫌なことは忘れて、前だけを向こう」と思うのは、短絡的すぎます。
心の傷に蓋をしてしまうと、人は成長しません。つらいことから目を背けず、しっかりと受け止めて自分の心と向き合うプロセスが重要なのです。そこからプラス思考で、今後の人生に生かしていくようにすれば、明るい未来が開けていくはずです。
実感した「自分が変われば人も変わる」
とはいえ、私も若い頃を振り返ると、反省することばかり。修業時代はいくら頑張っても評価されないことに不満を抱き、人に注意されると反感を覚えてよくグチをこぼしていました。自分の欠けている部分を省みることなく、見たくないものは見ないようにしていた、あの頃。「人の言うことなど気にせず、腕を磨くことだけ考えよう」と、心にガードをかけていたのですね。
でもあるとき、「どうして私のやっていることはうまくいかないのだろう」と思い始めました。何が悪かったのか、あのときはどうすればよかったのか、過去を振り返って内省し、自分のやり方を見直すことにしたのです。
一度立ち止まって、自分を悩ます状況にじっくり向き合っていくと、打開策が見えてきます。心と対峙していくうちに、なんらかの気づきがありますからね。私の場合、「グチを言うのは、天に唾を吐くようなもの。それは必ず自分に返ってくる。注意されるのは、ありがたいこと。素直に人の意見を聞いて、感謝しよう」と考えを改めたことで、その後の人生が大きく変わりました。すべての流れが好転していったのです。よく「自分が変われば、人も状況も変わる」といいますが、本当にそのとおりだと思いました。
「悪いこと、いいことは…」私が胸に刻んでいること
以来、「悪いことは、自分がその種を蒔いて招いた結果。いいことは、人のおかげと思って感謝しよう」と胸に刻みながら、清く正しく生きることをモットーにしています。ここで私がみなさんにお伝えしたいのは、「自分のやったことは、必ず自分に返ってくる。よいことをしていれば、いつか自分が報われる」ということ。
例えばAさんを助けたら、巡り巡ってAさんとは無関係のBさんに自分が助けられるとか、思わぬところから恩恵がもたらされます。私も非常に困難な状況に追い込まれたとき、予期せぬ助けで救われたことが何度もありました。どんな人にも誠意をもって尽くしていれば、素敵なご縁を招くのは確かなこと。逆に、人をおとしめるようなことをしたら、それは必ず自分に返ってくるので、ご注意くださいね。
60代を前に本当の自信を持てるように
この連載の最初に述べたとおり、私は長く自分に自信を持てずにいました。女性だと認められたい、一流の人間として評価されたいという思いが強く、無理をしていた部分もあります。超高級品を身に着け、自分を大きく見せようとしていたのも、本当の自信がなかったからだと今なら分かります。若い頃に見栄を張ることは、必ずしも悪いとは思いません。自分が高みを目指す上昇志向につながりますからね。でも、年を取ってからの「張りぼて」のような見栄はNG。年齢を重ねると、その人の真実の姿が佇まいに表れるのですぐにバレますし、むしろ痛々しい印象を与えます。
私が本当の自信を持てるようになったのは、60代になる手前です。寝る間も惜しんで肌にいい美容成分を徹底的に研究し、美容家として一流の力を極めたと実感した時に初めて、誰の前に出ても恥ずかしくない自分になったと思いました。
加えて、2024年の国際女性デーに個人部門・HAPPY WOMAN賞をいただいたことも自信になりました。受賞の趣旨は、「女性の地位向上と持続可能な社会づくりに貢献した」ということ。ずっとボーダーレスの社会になるよう願ってきた私の思いと、理想の女性を目指してきた私の生き方が認められて、この上ない誇りに思えました。
真の自信がつくと、自分をことさらよく見せようとする気負いがなくなります。自然体で、ありのままの自分をさらけ出せる心地よさも感じ、生きるのがラクになりました。美容家というしっかりとした基軸が確立されたためか、タレント活動をしていても自分自身が楽しんでいることに気づきます。人に喜んでもらえることが、自分の喜びになっているのですね。以前は周りの雰囲気を見ながら人に合わせたり、他人が何気なく発した言葉を気にしたりしていましたが、それらをサラリと受け流せるようになったのは、心に余裕ができた表れ。「年の功」とはよくいったもので、年を重ねたことで豊かな人間力も備わってきたのでしょうか。そう考えると、年を取ることへの恐れがなくなります。
私は美の表現者としていくつになっても美しい自分でありたいと思うので、肌のお手入れは怠りません。着るものへのこだわりも人一倍あります。でも本当の美しさとは、内側からにじみ出てくるもの。そう思い至ってからは、内面を磨くことに重点を置くようになりました。顔は心の写し鏡。どんなに着飾って完璧なお化粧をしても、心が美しくなければそれが顔に表れます。たとえシワだらけの顔でも、美しく感じる人っているでしょう? 品位のある立ち居振る舞いもさることながら、やはり心の美しさが決め手になるのだと思います。私もそのお手本となれるような女性を目指して、日夜精進しているところです。
取材・文/浅野祐子 写真/美容家IKKOマネージメント・オフィス提供
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日経WOMAN編集部編/日経BP/1980円(税込み)

