「新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、口座は作ってみたものの放置している」「人気の銘柄に投資はしているけど、自分の生活スタイルに合っているのかよく分からない」…こんな方におすすめなのが『優待株・高配当株投資のきほん』(大口克人著/日経文庫)です。株式投資はどこから手を着ければよくて、どんなメリット・デメリットがあるのかなどを解説。ここでは、実際に優待株に投資して実績を積み上げてきた優待バリュー株投資家・みきまるさんのインタビューを本書から抜粋してお届けします。前編は、賢く資産を増やせる、優待株を3種類に分ける投資術についてです。
ある優待券が欲しくて投資の世界へ
宝くじくらいしか買ったことがなかった僕が、マネー雑誌で見て「株を買うとおまけに何かもらえる」と知ったのが25年前。衝撃でしたよね。
僕もご多分に漏れずおまけ好きで吉野家の優待券が欲しかったので、それをきっかけに株式投資の道に入りました。
とはいえ知識がないので最初はさわかみファンドを買い、送られてくる保有銘柄リストを見て、そのまねをするという「コバンザメ投資」のような形を取ってました。住友金属工業(現日本製鉄)やショーボンド建設など、非優待株も買ってましたね。
その頃、売買の記録でノートを付けていて、非優待株、優待株と分けて計算していたら、明らかに優待株の方がパフォーマンスが良いことに気付きました。
優待株の方が成績が良いなら、そもそも物がもらえて楽しいんだからこれでいいじゃん、と発想を逆転させて、優待銘柄だけ買う投資家になろうと思ったんです。
当時そういう投資家はほぼおらず、その頃初めて日本経済新聞で「優待族」という単語が生まれていたと思いますよ。2001年とか02年ぐらいの話で、「優待族か。この概念って俺のことやんな」みたいな。
その頃から僕は今と同じ考え方で投資していて「優待バリュー株投資」と言っていたんですが、当時は「フッ」と笑われてましたね。「この人、なんかわけ分からんこと言ってる。変なやつ」みたいな、そういう扱いでしたね。
総合利回りは4.0%以上を目安に
保有銘柄数は今数えたら、775でした。そのうち95%ぐらいが優待銘柄です。ごく一部は非優待株もあります。
最近、優待の付いた地銀株を片っ端から集めるというのをやっていて、その時にはメガバンク株を持っていた方が地銀株の割安さを判定しやすいので、メガバンクを100株持ったりしていますからね。
優待バリュー株投資という発想に至ったのは、03年頃にやはり優待銘柄の方がTOPIX(東証株価指数)よりも1.2倍ぐらい成績が良いと気付いたからです。
優待バリュー株投資の考え方は簡単で、基本的には優待付きの割安な株を買うというだけです。バリュー株の条件は米国の経済学者、ベンジャミン・グレアムが提唱したミックス係数をベースにします。
グレアムはPER(株価収益率)×PBR(株価純資産倍率)が22.5以下の株をバリュー株としましたが、日本株には割安なものが多いので僕はそれをさらに半分にしています。すなわちミックス係数が11.25以下の銘柄で、配当と優待を足した総合利回りが4.0%以上のものを中心に買っています。
それが王道ですが、ラーメンの一風堂で有名な力の源ホールディングスのように優待パワーが極めて高い銘柄は、そこを評価して買うこともあります。
そういう株を最小単元で買い集めて養殖魚の「いけす」のような「優待株いけす」の中に入れて観察し、ファンダメンタルズも良くて値上がり期待も持てる「戦闘力の高い」銘柄を主力株にしていく、というのが基本スタイルです。
大リーグもJリーグも、戦うためには下部組織で切磋琢磨(せっさたくま)させて良い選手だけ上に上げるという構造になっていることが多いので、非常に理にかなっていると思います。僕はいわば監督の立場で、主力株を厳しく選別しているというイメージです。
当然、銘柄はピラミッド型になっていて、全775銘柄のうち上位30位までで金額では75%ぐらいです。上位15位までだと3分の2で約66%ですね。
主力でも意外に銘柄数が多いと言われますが、基本的に「未来は予測できない」と思っているので、あまり決め打ちせず、同レベルの銘柄があれば均質に振るようにはしています。
株式市場のランダム性や凶暴性、ブラックスワン(極めて稀[まれ]な巨大ショック)が来るかもといったリスクも計算に入れているからです。
大赤字の優待株で資産が3倍になる可能性も
優待投資の長所は複数ありますが、最大の点は個人投資家にとって最も合理的だということでしょう。
例えば仮に吉野家が赤字になり、機関投資家ならすぐ売るような状況になったとしても、個人投資家で吉野家が好きであれば、優待券をもらえる限りは株を持っていられるわけですよね。
一般論として、投資で負ける理由はだいたい「悪材料(株価下落の要因になる出来事・情報)で売るから」なんです。悪材料が出る時は株価が安く、そこで売るのは利益を上げることの真逆の行動になるので、最も手痛い負け方になるんですね。
優待投資はそこを我慢でき、一番悪いところをしのげるので、業績が回復して株が大きく上がる時まで持っていられるんです。つまり優待があることによって長く持て、合理的な投資行動、負けない投資法になる。これだと思います。
また、日本マクドナルドホールディングスの鶏肉偽装事件の時に株価が下がらなかったのも、僕の言う「優待エアバッグ効果」で、優待券が欲しいから優待族が売らなかったわけです。これも優待投資の長所ですね。
もう1つ、優待は魅力的だけど今は大赤字という会社はよくあるんです。それを自信を持って買えるのって、実は優待狙いの個人投資家だけなんですよ。
例えば無印良品のOEM(相手先ブランドによる生産)で生活用品を作っている三栄コーポレーションという会社があって、3年ぐらい赤字続きでした。
当時の優待品はビルケンシュトックのサンダルなどすごく内容が良かったので、僕は大赤字の時に買い増ししたんですけど、こういう投資行動って機関投資家には絶対できないので、非常に優位性があるんです。その後黒字化して同社の株価は3倍ぐらいになりました。
もちろん、これに投資の教科書で言うような合理性は全くないんですけど、個人投資家本人にとっては合理的なんです。つまり、米国の伝説的なファンドマネジャー、ジョン・テンプルトンの言う「一番見通しが暗い時期に買う」投資手法に偶然なっているからです。
だからこういった銘柄をいくつか買っていれば、資産が3倍くらいになることも珍しくはありません。僕もそうして物語コーポレーションやトレジャー・ファクトリーなど、多くの10倍株をものにしてきました。
あと、当然ですが優待品が生活を助けるというのもすごく大きいと思いますね。
僕はお米を買ったことがありませんし、最近は魚の缶詰なんかも非常に高いんですが、水産会社の極洋や食肉加工のスターゼンなど、食品の優待もすごく役立ちます。
企業もプライドとブランドがかかっているので良いものをくれます。お米も良い米が多いんですよ。
優待バリュー株は主に3種類
少し深掘りすると、優待バリュー株にもA株・B株・C株の3種類があります。王道はA株で、どの指標から見ても極めて割安な「優待ディープバリュー株」ですね。もともと優待がなくても買えるような銘柄で、今の市場で言うとバイク用品のデイトナとか皮革大手のニッピです。
B株は指標的にはやや落ちるけど、優待パワーが強いから総合力で買える銘柄で「優待バランス株」と呼んでいます。例えばANAホールディングス、JAL(日本航空)などです。
C株は指標的には高いけれども優待パワーが飛び抜けている銘柄で、「優待がバリュー株」です。最近で言えば前述の日本マクドナルドホールディングス、力の源ホールディングス、FXのヒロセ通商などです。ヒロセ通商は段ボール箱いっぱいの優待品を送ってくれて、面白さという意味では突出してますね。
力の源ホールディングスは少し前に優待改善があって、僕の買値で言うと買う前の10%近くまで跳ね上がったんです。この瞬間に大量に買ったんですが、ファンダメンタルズで見たら高かった。でも、ここのラーメンっておいしいですよね(笑)。ラーメンがおいしくて利回りがあれば、それだけでOKという単純な判断で大量に仕込みました。
だから、優待がからんだ投資に関しては、チャンスと思えば何でもやるという感じで、僕自身は3種類の株に全部投資しています。初心者に勧めやすいのは当然A株です。
最近は日本企業の配当が増えているので、今の相場だと総合利回り4.0%という基準は正直物足りない感じが出てきています。僕も大きく買う場合は5.0%ぐらいを目安にしていますが、5.0%にこだわると良い株が候補から落ちてしまうこともあるので、そこはちょっと基準を緩めたりもします。
そもそも高配当株は成熟企業が多いので、配当利回りにこだわり過ぎると、大きく株価が伸びる会社を逃しやすくなるんですよね。
日本株は高配当株のパフォーマンスが良い
いわゆる高配当株投資家のパフォーマンスが悪いというのは、世界的、学術的に見ると有名な話です。
ただし日本株に限れば、やっぱり高配当株がパフォーマンスが良いんだという学術的なデータはあるんです。それはおそらく日本人には不安遺伝子を持つ人が多いので、高配当という安心材料に惹(ひ)かれやすいからではと考えています。
ただ、買った株が値上がりしたり配当が積み上がったりして恩株(元本が回収できた株)になった場合、それを持ち続けるのは合理的な投資法だと思います。恩株なんだから、もし悪材料で株価が下がったりしても売らなくて済みます。
要するに資産を増やすには、『 敗者のゲーム 』(チャールズ・エリス著/鹿毛雄二、鹿毛房子訳/日本経済新聞出版)で有名なインデックス投資家のチャールズ・エリスの言う「稲妻の輝く瞬間」(株式市場が急騰する数日間)に株を持っていなければならないんですが、優待株や恩株はそれだけで長く持ちやすくなりますからね。
結局、人は売ってはいけない時、市場に恐怖の大魔王が襲いかかる日に売っちゃうものなんですよ。投資では人間のそういう行動バイアスをいかに避けるかがポイントで、だから僕ら優待族は長生き(相場に長く居続けられる)なんです(笑)。
(後編に続く)
大口克人著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)



