FIFAワールドカップ(W杯)2026が開幕からはや10日。48カ国のすべてのチームが登場し、スター選手たちがフィールドで躍動しています。今回は、チームを代表する選手にスポットを当てます。今回のW杯をきっかけにブレークしそうな若手や、各国を代表するレジェンドはどのようなプレースタイルなのか? またプライベートではどのような一面があるのか。選手の特徴が分かる本を、今大会の解説でも活躍中のサッカー解説者・林陵平さんに紹介してもらいます。
W杯が開幕して10日。すべてのチームが初戦を戦いました。今回、出場国が32から48に増えたこともあり、決勝まで進出する場合は、合計8試合を戦うことになります。大会期間は約40日。酷暑の中で上位進出を目指す強豪国は、長い戦いを見据えたチーム編成を試合ごとにしなくてはなりません。序盤戦から目が離せない日々が続きます。
W杯の魅力を伝えるこの連載も最終回ですが、今回は選手に絞ってその魅力を紹介していきたいと思います。最初は、『 林陵平のサッカー観戦術2 試合がもっともっと面白くなる極意 』(林陵平著/平凡社新書)でも取り上げた、優勝を狙える強豪国の若手2人を紹介します。
1人目はフランス代表のマヌ・コネ選手です。現在25歳で、イタリアリーグ・セリエAのローマでプレーしています。フィジカルもテクニックも優れており、1対1の局面でも力強くボールを奪取し、そのまま前に運んでいける選手です。また、テクニカルな足技を披露することもあり、その意外性が魅力の一つになっています。
加えて傑出しているのがスタミナです。試合後半になると肉体的にも精神的にも苦しくなるので、どうしても走力などが落ちてくるのですが、マヌ・コネ選手は平然とした顔で縦横無尽にフィールドを駆け巡ります。試合で見る機会があれば、彼のスタミナに注目してください。
2人目はブラジル代表のイゴール・チアゴ選手です。現在24歳のチアゴは、身長188cmの大型ストライカー。イングランド・プレミアリーグのブレントフォードでプレーしており、昨年2024-25のシーズンはケガに泣かされたものの、今年5月に終わった2025-26シーズンでは大ブレーク。全試合に出場するとともに、22ゴールを挙げて、得点ランキングで2位になりました(ちなみに1位は、マンチェスター・シティに所属するノルウェー代表のアーリング・ハーランド選手。この選手にも注目です)。その実績を評価され、南米予選では招集されなかったにもかかわらず、本大会にはセレソンの一員として名前を連ねることになりました。
大型で筋肉質なので、ゴールに迫る姿は大迫力です。その一方で、ブラジル人らしい柔らかいテクニックも持ち、力強さとしなやかさを併せ持ったプレーヤーといえます。横から上がってきたボールにうまくヘディングで合わせたり、相手ディフェンダーと体をぶつけ合いながら泥臭くゴールにボールを押し込んだりと、得点パターンも豊富です。サプライズ選出されたチアゴ選手の活躍は、サッカー王国ブラジルの復権を現実のものにするかもしれません。
スター選手のプライベートを垣間見る
サッカー選手は、そのプレーもさながら、プライベートがユニークな人も多くいます。例えば、アルゼンチンのエースとして代表試合で100得点以上上げているリオネル・メッシ選手。今大会で6度目のW杯に出場するメッシは、真面目なシャイな性格なのに大のタトゥー好き。家族の名前などいろいろ入れていたのですが、あまりに入れ過ぎてゴチャゴチャしてしまったので、左脚を黒塗りにしてしまったというエピソードがあります。
私は、大の海外サッカーマニアなので、このような話を調べ、そして解説の際にもタイミングよくこうしたエピソードを入れています。そうすることで、より楽しくサッカーが観戦できると思っています。このようなスター選手のプライベートの部分を中心に執筆したのが『 Jリーガーが海外サッカーのヤバイ話を教えます 』(林陵平著/飛鳥新社)です。この本では、60人以上の選手と監督を取り上げ、フィールド内外の様々な特徴やエピソードを細かく記載しています。出版したのが、2021年と少し古いのですが、それでも今回のW杯に出場する約20人の選手、監督の話を書いています。
例えば、日本代表の長友佑都選手。今大会で5度目のサッカーW杯出場を決めた長友選手と私は、実は明治大学サッカー部の同期で、約3年間にわたって一緒にプレーしました。1対1ではほとんど負けないなど彼のプレーの素晴らしさはもちろんですが、皆さんが長友選手に抱くイメージは、陽気で社交的といったあたりだと思います。それはまったくその通りで裏表がありません。おごったりすることもなく、本当に謙虚です。
誰とでも仲良くなれるのは大学時代から。長友選手はイタリアで長くプレーしていたのですが、海外の選手ともすぐに友達となったといいます。また私の両親とも仲が良く(笑)、私が大学の寮で寝ているというのに、長友選手は1人で私の実家に行ってご飯を食べて寝ていたなんてこともありました。愛すべき長友選手がW杯のフィールドで躍動する姿を、ぜひ見てみたいですね。
同書からもう1人紹介するのは、ブラジル代表のゴールキーパー、アリソン・ベッカー選手です。33歳のアリソン選手は、すでに10年以上セレソンの一員としてプレーしており、W杯にも今回で3回目の出場となります。
アリソン選手がユニークなのは、決して怒鳴らないこと。試合を一番後ろから見るゴールキーパーには、大声で仲間を叱咤(しった)激励するタイプが多いのですが、アリソン選手はまったく逆。「怒鳴るのも怒鳴られるのも好きじゃない」とのこと。その落ち着きが、数多くのきわどいシュートを防ぐことにもつながっています。
また語学が堪能で、ポルトガル語のほかドイツ語や英語も流ちょうに喋ります。現在はプレミアリーグのリバプールでプレーしていますが、コミュニケーションにも困りません。加えて、ギターが趣味でプロ顔負けの腕前を持ち、歌も上手。フィールドでは声が出なくても、ミュージシャンとしてはちゃんと大声で歌えるのも笑ってしまいます。
破格のストライカー、ズラタン・イブラヒモビッチの自伝
最後に、こんなサッカー選手もいるという観点から、私が「神」としてあがめるサッカー選手と彼の自伝について紹介させてください。それは、スウェーデン代表のストライカーとして20年以上にわたって活躍したズラタン・イブラヒモビッチです。18歳の時に地元のプロサッカーチームでデビューしたズラタンは、その後、オランダ、イタリア、スペイン、フランス、イングランド、米国のリーグで活躍。2023年に41歳で引退するまでに合計で600試合以上のリーグ戦に出場し、400得点以上を挙げました。また、スウェーデン代表としても122試合に出場。62ゴールを決め、スウェーデン代表の最多得点記録を持っています。W杯には、2002年と2006年の2回出場しています。
195cm、95kgという迫力ある体格ですが、繊細な技術も持っていて、視野の広さや決定力もあり、まさにストライカーとして必要な能力のすべてを備えています。さらには、アクロバティックなプレーも魅力の一つ。ボレーキック(空中に浮いているボールを直接蹴ること)やオーバーヘッドキック(ゴールに背を向けた状態でジャンプして、頭越しに蹴ること)はもちろん、空手などの回し蹴りなども駆使してゴールを狙います。そのバックボーンとなっているのは幼少期に習っていたテコンドーだそうです。
このように華麗な成績を持つズラタンですが、彼の魅力は「熱いパッション」から生み出された様々な発言や逸話にあります。例えば、「俺のいないワールドカップなんて見る価値がない」「クリスチアーノ・ロナウド(ポルトガルのエースストライカー)はリスペクトしているよ。でも、俺のライバルじゃないな」など。大口をたたいているように感じるかもしれませんが、彼は自分を偽らないだけ。その言葉に説得力があるのです。
また、負けることが大嫌いなので、相手チームともめることは日常茶飯事。さらには味方チームにも容赦なく厳しい言葉を浴びせます。練習中に激しいタックルを浴びせてきた選手に頭突きをしたエピソードもあります。その一方、11歳年上の奥さんには頭が上がらず、また自分にかかわるお金をすべて把握しているほど細かいなど、極めて人間的な一面を持っているのも魅力です。
そんなズラタンの自伝が『 I AM ZLATAN ズラタン・イブラヒモビッチ自伝』(ズラタン・イブラヒモビッチ著、ダビド・ラーゲルクランツ著、沖山ナオミ訳/東邦出版)です。複雑な環境で育ち、貧しかった少年時代のことや、チームを移籍する際の舞台裏、チーム内の人間関係など、様々な内容がズラタン自身の言葉によって書かれています。
この自伝がスウェーデンで出版されたのは2011年。ズラタンが現役バリバリの頃です。冒頭には、当時所属していたスペインの強豪チーム、FCバルセロナでのシーズンを振り返る中で、監督であるジョゼップ・グアルディオラ( 前回 紹介したスペイン人の名将です)を痛烈に批判しています。この部分には衝撃を受けましたが、チームや他の選手に対する愛に満ちた表現や、またユーモラスな言葉も多く、すべてを読むと勇気がもらえる内容になっています。

私はとにかくズラタンが好きで、彼がフランスのリーグで活躍していた時には、現地のトレーニングセンターに行って、サポーターと一緒に氷点下の中で4時間出待ちをしました(私も現役のプロサッカー選手だった時代です)。ズラタン好きでついに自分の会社名にしてしまったほどです(笑)。まさに「推し活」ですね。
ズラタンの自伝には、この10年後に執筆された『 アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語 』(ズラタン・イブラヒモビッチ著、ルイジ・ガルランド著、沖山ナオミ訳/ソル・メディア)もあり、少し大人になったズラタン節を味わうことができます。この2冊を読むと、ズラタン好きになること間違いなしです。
これまで4回にわたって、W杯の魅力、そしてサッカーをより楽しく観戦するために参考となる本を紹介してきました。観戦スタイルは人それぞれですが、ちょっとした知識を備えることで、その楽しさは2倍にも10倍にもなります。W杯は7月19日(日本時間20日)の決勝までまだまだ続きます。ぜひ、自分なりの観戦スタイルで楽しんでいただけたらと思います。そして、またどこかのサッカー解説で、お目にかかりましょう。
2回目 林陵平 日本代表はオランダとどう戦う? ワールドカップ注目のチームと選手 (6月12日公開)
3回目 林陵平 イタリア人の名将に命運託したブラジル、日本代表との対戦は? (6月17日公開)
4回目 サッカー解説者 林陵平が「推し活」したエースストライカーの素顔 (6月22日公開)今はここ
取材・文/木村知史(CocoSmile 編集者) 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/稲垣純也 撮影協力/猿田彦珈琲 調布焙煎ホール




